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優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした  作者: ゆきのひ
3章 スイユ編

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52 花摘む者たち

 公爵家の専属医からの使いが、リュカたちが寝起きしている農場の宿舎にやってきたのは、夜が明けて辺りが白々と明るくなってからから間もなくのことだった。


「ここに書いてある薬草を、至急そろえてもらえないか?」


 管理している研究農場を見回るためにいつも日が昇る前に起き出しているオデットが、使いとしてやって来たトマスを部屋の中に招き入れた。トマスに手渡された紙片には、主に解毒剤に用いられる薬草の名がいくつか記されていた。


 この農場は、公爵家で使用するための薬草園も兼ねている。

 そしてトマスは、公爵家の医師や薬師の使いとして、よくここを訪ねてくるオデットやリュカの顔見知りだ。だが、こんな時間に訪ねてきたのは初めてと言える。


「こんな早くに、どうしたんですか?」

「ああ……そうか、ここは城の本館から離れているから、お前さんたちは知らずにいたんだな……」


 二人の話す声に、すでに起き出して隣の部屋で食事の支度をしようとしていたリュカとジゼルも何事かとその様子に聞き耳を立てた。

 トマスは昨晩、城で起こった魔物による惨劇をオデットに語った。


「えっ……人が魔物に? なんでそんな恐ろしいことが……」

「そうなんだよ……俺もその場に居合わせたわけじゃないから、細かいことは知らないんだ。とにかく、先生の手伝いで負傷した騎士たちの手当をしながら魔物に襲われた時の話を聞いて、俺は足が震えて仕方なかったよ。でも、魔物は退治されたから。……だけど、大半の負傷者が魔物の毒にやられたせいで、その治療に使った解毒剤の備蓄が底を尽きそうなんだとさ。だから、なるべく早く用意してほしいそうだ」


 モントロー領では、いつ魔物出現の報せが届いてもおかしくない。だから、解毒剤は常に一定量を用意して、備蓄しておかねばならないのだ。


「わかりました。では、用意するから、そこで座って待っててもらえますか? ……ところで、ディアロッテお嬢様はご無事なんですよね?」

「うーん……。俺はお嬢様のお姿は見ていないんだけど、本館の中は後始末でみんな走り回って騒然としてるからな。でも、お嬢様がお怪我をされたという話は聞かないし、怪我人として手当されている中にもいなかったよ。だから、ご無事なはずさ」

「じゃあ、お嬢様のことで何か聞いたら、教えてもらえませんか? ご無事ならそれでいいんですけど」

「ああ、いいよ。戻ったら、誰かに聞いてみるよ」

「お願いしますね。では、少し待っていてください」


 そう言って、用意すべき薬草が記された紙片を今一度確かめるように眺めたオデットは、ある薬草の名にはっとした。


「あの……すみません、一つだけ、今ちょうど薬草園にないものがあります。最近、土壌の改良の研究に使っちゃったんですよね……」


 ◆◆◆


 ドート草は、カルティーの街に近いエルブ原野に自生している。

 瘴気を中和させる効能のある薬草のため、オデットはタイミング悪く、薬草園にあったドート草を土を浄化する噴霧剤の研究にすべて使い切ってしまっていたのだ。


 魔物の毒の解毒剤には、ドート草が必須。なければ話にならない。

 なのでオデットは急いで、弟子であるリュカも連れて、ドート草を集めにエルブ原野に向かった。


 トマスが話をつけてくれて、使用人用の馬車まで出してもらったのだ。しかもそれだけでなく、護衛の騎士も一人つけてもらえた。エルブ原野には近頃、魔物が出たという報告が幾度かあがってきているからと。


「あそこには魔物なんていなかったのに、どうしちゃったんでしょうね?」

「そうよね……一年中生えているドート草が、瘴気が流れてきても中和しちゃうはずなのに」


 原野に着いて馬車を降りると、探すまでもなくそこかしこにドート草がはびこっている。


 すでに花をつけて枯れかけている株ばかりの群落もあれば、まだ芽吹いたばかりで採取するには早すぎる群落もある。どうせなら一番薬効の強い成分が取れる、花芽をつける直前のものを採取したい。


「オデット先生―、こっちに状態のいいのがたくさんありますー」


 いち早くリュカが、目的の群生地を見つけたようだ。


 二人で慎重に根元からドート草を抜いていく。

 すぐに籠いっぱいに採取することができて、オデットはひとまずほっとして草むらの中から腰を上げる。

 すると、小さな薄紫色の花が地面にびっしりと敷き詰められたように咲いている一角が目に入ってきた。


「香りスミレがあんなに……。リュカ、せっかくだから、あれも少し摘んでいきましょう」

「はいっ!」


 あの薄紫色の花は、高価な香水の原料となる。香りスミレの控えめな甘い香りに、シトロンの清々しい香りをほんの少し加えてみたら、どんな香りが出来上がるだろう?


(納得のいく香水に仕上がったら、真っ先にお嬢様に差し上げよう)


 そんなことを思いながら、特に花弁が鮮やかなものだけを選んで摘んでいると、リュカが声を上げた。


「先生……ちょっとあそこ、変じゃないですか?」

「どうしたの?」


 リュカが指さした場所だけ、草木が雑多に繁殖している原野の中で、不自然に何の植物もまったく生えていない。そこにぽっかりと大きな穴でもあるかのように、むき出しの地面を見せていた。


 その場所へ駆け寄ったリュカが、また大きな声でオデットを呼んだ。


「やっぱり、おかしいです。これだけ植物が茂っている原野の中で、ここだけどういうわけか何にも育っていないなんて」


 オデットもリュカのいる場所まで行ってみる。

 するとまた、リュカが何かに気づいたようだ。


「あ……これが原因なのかな? ここの地面に、石が埋められているみたいなんですけど……この石、何ですか? 大きな宝石? 原石かな……? でもなんか、違うみたい……」


 その石を覗き込んだオデットは、何だか嫌な胸騒ぎがして、護衛の騎士を呼んだ。


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