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優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした  作者: ゆきのひ
3章 スイユ編

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50 あなたがいないから

(ディアがいなくなった……)


 ディアロッテの姿が見えないという報告を受けたノルマンは、ジュールやステファンに傷が開いてしまうと止められても聞かず、ベッドから起き上がった。


 そして自ら指揮を執り、あれから夜明けまで城の中を探し回った。だが、城内をくまなく探したはずなのに、その姿を見つけることができない。

 ならば城の外に出たのではないか? と思ったものの、城門を護っていた兵士たちは、昨晩、城の外に出た者は一人もいなかったと言う。


「どこへ行ったんだ……ディア」


 執務室で頭を抱えるノルマンのもとに、執事のモルガンが一人の使用人を伴ってやって来た。厨房担当の使用人だと言う。


「この者はあの時、魔物との戦闘の場から避難するように言われて、他の使用人たちと外の庭園に逃げていたそうです。その後、魔物が討たれたと聞いて、他の使用人たちは城の中に戻ったのですが、一人だけその後もしばらく庭園にいたところ、お嬢様の部屋から銀毛の虎が空を飛んでいくのを見たと言っています。そうだな?」

「はい……。執事様の言われた通りです。お嬢様の部屋のベランダから、空に上がっていったんです。銀色の虎の背中には、お嬢様らしき人が乗っていました……月が明るかったので、よく見えたんです。あの虎はもしや……」


 銀毛の虎――。

 それは昨日、ノルマンが目にした精霊だ。


「それ以上は、口にするな……わかった。知らせてくれて感謝する。だが、このことは口外することを禁じる。いいな?」 

「はいっ!」


 若い主君の有無を言わさぬ気迫に押されて、使用人は折れんばかりに頭を下げた。


「下がっていいぞ。モルガンは残ってくれ」


(ディアは、自ら出て行ったのか)


 それもやむを得ない……なのか?


 あの精霊を目にした時、ノルマンは瞬時に背筋が凍った。激しい憎悪と恐怖に同時に襲われたのだ。

 その精霊が、自分と城の者たちを救ってくれたのを目の当たりにした時、ひどく混乱した。


 だが何よりも――その精霊を召還したのはディア。

 そのことに驚愕し、心が騒いだ。

 どうにかなりそうなほど心がざわめいて、自分の感情がわからなくなった。

 今もそれは続いている。ディアのことを想うたびに、自分が感じていることが正しいのかどうかがわからなくなるのだ。


「モルガン、ひとまず王都のサルグミン伯爵家に手紙を出してくれ。ディアが戻っているかもしれないし、あるいは居場所を知っているだろうから」

「承知しました」


 またそこへ、扉をノックする音が聞こえた。

 ステファンやジュールたちの奮闘でだいぶ落ち着いたとはいえ、城にはいまだあの騒ぎの余波が残る。おかげで執務室に戻れば、休む間もなく誰かが訪れる。


「兄上、僕です」


 ジュールの声にモルガンが扉を開いた。


「兄上……大丈夫ですか? 顔色が悪いです」


 その理由は尋ねるまでもなく、あの場にいた者なら誰でもわかり切っていること。ジュールに限らず、モルガンも。

 しかし、それでも言わずにはいられないほどの悲痛さが、ノルマンの表情に滲んでいる。


「ああ。心配ない。それより、何かあったか?」

「あ……はい、フレデリク殿下より先触れがありました。まもなく到着されるとのことです」


 ◆◆◆


 フレデリク王太子の一行は、先触れがあってからそれほど時を置かずに、モントロー城に到着した。


「そう。発端は、あの男爵令嬢()()()者、というわけだね」


 賓客用の応接室で、ノルマンは一昨日前の晩に起こった城内での魔物の出現についてフレデリクに報告した。


 フレデリク王太子の本来のモントロー城への到着予定は昨日。


 だがあの晩、夜が明ける前にステファンの指示で、城での騒動を一行に知らせる早馬が出されていた。事の収拾にせめて一日、ノルマンが目覚めるまで時間が欲しいと伝え、フレデリクたちには急遽、カミユ子爵家に滞在してもらっていたのだ。


「ノルマン、君も魔物の爪で傷を負ったと聞いたけれど、もうそんなに動いていいのかい?」

「ああ。毒もすっかり抜けたようだ。何の問題もない。それより――」


 ノルマンは、ぐっとこらえるように唇を引き結んだ。


「君が心配なのは、婚約者のことだろう? ディアロッテ嬢が精霊師だったとは、王家でも把握できていなかった。そんな彼女が君の婚約者になるだなんて、奇遇としか言いようがない」


 フレデリクの言う通りだ。ノルマンは一言も返すことなく、黙り込んだ。

 そんなノルマンを慰めるように、フレデリクは言う。


「ま、心配するな。精霊師なら、危険があれば精霊が護ってくれる。それに話を聞いた限り、彼女の精霊は並みの精霊じゃない。瞬く間に上級クラスに匹敵する魔物を片付けたほどだから、高位精霊で間違いない。案じることはないさ」

「そんなことは、わかっているんだ……わかっているんだが、理解がついていかないだけだ」


 ノルマンの言いたいことは、フレデリクにはよくわかる。

 子どもの頃から彼を知り、前公爵夫妻を目の前で亡くしてしまったと、何もできなかった自分を激しく悔いて慟哭していた彼を知っているからこそ、わかりすぎるほどに。


 サルグミン伯爵家は、その血筋に時折、精霊師が生まれる家門の一つだ。だから、その直系の娘が精霊師であったとして何の不思議もないし、それを隠していたことにも驚きはない。


 だが、その娘が婚約した相手が、精霊を憎み嫌うノルマンだということが、これ以上ない皮肉だ。


 憔悴して見えるノルマンに、どう言葉をかけたものかと思案しかけていたフレデリクは、ジュールの入室を求める声に救われた。


「王宮魔法師殿が、殿下にご覧いただきたいものがあるとのことです」



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