47 赤い髪の少年
店の窓越しに、目の前の通りに何人もの治安兵の姿が見え隠れしている。
何かを探しているようだ。
それを見て店員は、「ああ……」と珍しくもないように言う。
「引ったくりでもあったんじゃないですかね? 最近、食うに困って悪さをする奴らが増えましたから。前はこんなじゃなかったんですけどね……」
窓から外の様子をうかがっていたアルが、何かに気づいた様子で言った。
「ちょっと外を見てきます。ロッテ嬢は外に出ないでくださいね」
アルは店の扉を開けて外に出ると、近くにいた治安兵に声をかけた。
その治安兵と短く言葉を交わし、すぐに店の中に引き返してくる。
「ちょうど知っている顔が見えたので、聞いてみたんですよ」
アルが治安兵から聞いた話はこうだ。
近くの宝石店に、原石を売りに来た子どもがいた。
原石を子どもが売りに来ること自体は、スイユでは何の不思議もない。
なぜなら、スイユの街のそばを流れる川の上流にはルビーを産出している鉱山がある。その鉱床から風化や浸食ではがれたルビーの原石が水の流れに沿って下流まで運ばれることがあり、それを川のそばで遊ぶ子どもが発見する、というわけだ。
だか、その子が売りに来たのは、原石のまがい物だったらしい。
それが単なる偽物に留まらず、重い罪に関わる可能性があると察した宝石店は、治安隊に通報した。駆けつけた治安兵の姿を見て、店の中に留め置かれていた子どもは逃げ出し、この辺りの路地に駆け込んだという。
「それでこの辺りの路地をしらみつぶしに探していたようなんですが、捕まえられずに、さらに人数を増やし、範囲を広げて追うそうです」
「重い罪に関わるって、どういうこと? 拾ってきたんじゃなくて、盗品だったりでもしたの?」
治安隊が子どもを追うにしては、ずいぶんと大がかりだ。
しかもそれほどまで追われる原因となったのが、偽物の原石だというのが何とも気にかかる。
ガラスで精巧に作られた、本物と見分けのつきにくい偽物による宝石詐欺は珍しくない。
しかもそれが子どもによってたった一つ宝石店に持ち込まれた程度なら、せいぜい治安隊にきつく叱られる程度で済むはず。それが逃げ出したからと言って、そこまで執拗に追うほどの罪ではないように思えるのだけれど。
「そこは教えてくれませんでしたね。どうやら言えないみたいで」
「そう……ベレニスに聞けば何かわかるかもね。急いで戻りましょうか」
お菓子の詰まった紙箱を手に、私たちは店の外に出た。
表通りのあちこちに、治安兵の姿が見える。彼らは行き交う一人一人に、探るような視線を向けていた。
これは本当にただ事ではない感じ。
(いったい、何があったの……?)
異様な物々しさから逃れたくて、足早に宿へと戻った私たちを迎えてくれたのは、ベレニスだけではなかった。
「おかえりー」
カウンターで右手をひらひら振って出迎えてくれたベレニスの隣には、彼女と同じ赤い髪を無造作に一つにまとめた少年が立っている。
「あ……。ベレニスって、お母さんだったの? アルは知ってたの?」
「いや、僕も知らなかった! ベレニスにこんなに大きな息子さんがいるだなんて……」
言いながら、少年の頭の先から足元までゆっくりと眺めたアルは、にこっ、と人の好さそうな笑みを彼に向ける。
「あれ? でもきみ、ベレニスとはあんまり似てないねえ……」
言われて少年は、無言のまま助けを求めるように、ベレニスをちらと見る。
ベレニスは頭を掻きながら、明らかに自分を揶揄っているアルをひと睨みした。
「はぁ? あのさあ……ロッテもアルも、何言ってんのさ。この子は私の子じゃないよ。ま、そうでも私はかまわないんだけどね……」
すると少年が、私の顔をじぃっと見つめたかと思うと、おもむろに口を開いた。
「ねえ、この人がベレニスの言ってたお医者さん?」
「ん? ええと……どういうことかな? 私はお医者様ではないけれど」
そう言うと、少年は落胆の表情を見せた。
だが、そんな彼にベレニスは言う。
「いや、ロッテは医者じゃないけど、マーシャを治せるのはこの人で間違いないから、心配するな」
ベレニスに肩を叩かれた少年は、瞳を明るくした。
「あの、ベレニス……どういうこと、かな? 説明してもらってもいい?」
「あー、戻って来たばかりで悪いんだけど……早速仕事のお願いだ。ロッテ、この子の友達を見てやってくれないか?」
その言葉に、少年が「お願いしますっ!」と弾かれたように頭を下げた。




