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優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした  作者: ゆきのひ
2章 公爵領編

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信じた先に

 剣を交えた二人は、どちらも譲る気配のない好勝負となった。

 予想外の展開に、誰もがその勝負の行方を息を呑んで見守る。

 勝敗がなかなかつかない。 


 だが、先に息を荒くしたジュールにわずかな隙が見えた。

 次の瞬間、ジュールが振り下ろした剣を、ステファンが一瞬で見切って弾く。

 刹那の閃きとともに剣は宙を舞い、虚しく地面に落ちる。同時にジュールが、その場に膝をついた。

 静まり返っていた観客たちは一斉に息を吐き、どよめきが起こる。


「ジュール様、腕を上げましたね」


 ステファンは、汗の滲んだ手をジュールに差し出した。その手を捉えて起き上がったジュールに、周りを取り囲んで成り行きを見守っていた騎士たちがわらわらと駆け寄っていく。


「いい試合だった!」

「ステファン卿と互角にやり合えるなんて!」

「今まで実力を隠していたのか?」

「今度、俺とも勝負してくれよ!」


 騎士たちに励ますように肩や背中を叩かれているジュールは、戸惑いのあまり引き攣ったような笑みを浮かべている。

 そこに、これまで皆に遠巻きにされ、厄介者として冷めた視線を向けられていたジュールはいない。

 そんな光景に嬉しそうに顔をほころばせたノルマンが、私に気づいて手を振った。


 ◆◆◆


 ジュールは毎日、さぼることなく真面目に訓練に加わっている。


 最近、私は騎士団の訓練時間に合わせて、城壁を散歩するのを日課としていた。

 城壁から眺める訓練の光景には、私の眼にも毎日少しずつ変化の兆しが映る。

 かつて一人で佇んでいたジュールが、誰かと言葉を交わす姿を目にするようになっていたのだ。


 その日、ノルマンが夜遅くまで仕事をしていると聞いた私は、ティーセットを用意して執務室に入った。

 書類から顔を上げたノルマンに、お茶をついだカップを差し出す。


「お疲れの頃かと思い、お茶をお持ちしました」

「遅くにすまない。……うん、香りのいい茶だな。前にいただいた茶とはまた違うな。香りも味も少し変わっているが、スパイスが効いていて目が覚めるよ。このブレンドは、ディアが?」

「はい、私がブレンドしてみました。遅くまで本を読みたいときに飲んでいるお茶なんです。気に入っていただけたなら、嬉しいです」

「……そういえば、あなたに礼を言わなければ。ジュールのことだ」


 ノルマンが言うには、ジュールの騎士団の皆との関係には、まだぎくしゃくしているところはあるが、着実に仲間として受け入れられてきているようだ、とのこと。


「それはよかった……」

「ディアのおかげだ。ありがとう。弟を見捨てないでくれて」

「私は何もしていません。すべてはジュール様ご自身がされたことの結果ですから、ジュール様をほめてあげてはいかがですか? きっと喜びますよ」

「そうだな……でも、本当にありがとう、あいつを気にかけてくれて。俺はあいつのこと、どこかで勝手にあきらめていた気がするよ。他の者たちとうまくやるのは無理だ、って。でも、違ったんだな……俺はあいつのことを少しもわかっていなかったみたいだ」


 ジュールはああ見えて、とても寂しがり屋なのだ。人を遠ざけるような素振りをしていても、その実、誰よりも人の温もりを求めている。それゆえ、大好きな兄であるノルマンが誰かと親しくすることで、自分から永遠に離れて行ってしまうのではないかと不安だったのだ。


「だったら、これから理解するように努めればいいだけですよ」

「ああ……ジュールのことは、俺が一番に理解して、信じてやらないとな……」


 お茶のおかげで目が覚めたから、もう少し切りのいいところまで仕事を続けると言うノルマンに、私は先に下がらせてもらうことにした。


 さっきのお茶の効能で、もうしばらくは眠たくなりそうにない。私の足は、自然と書庫に向いていた。

 こんな遅い時間には誰もいないだろうと扉を開けたら、ジュールが本を広げている。

 私の姿を目にしたジュールは、なぜか慌てて開いていた本をぱたりと閉じると、それを後ろ手に背中に隠した。


「申し訳ありません……ジュール様のお邪魔をしてしまいましたね」


 すぐに立ち去ろうとした私は、ジュールに呼び止められた。


「いや……あの……ちょっと!」

「ん? 何か御用でしたか?」

「うん……ええと……」


 本を手にしたまま立ち上がったジュールは、やおら本に挟んでいた封書を取り出すと、私に押し付けるように差し出した。


「これっ!」


 反射的に私が受け取ると、ジュールは逃げるように部屋を出ていく。


(何……?)


 その勢いに呑まれ、しばし茫然とした私だが、手元に残された封書を開いてみた。

 そこには――。


『義姉上へ


 勝手に誤解していた僕をお許しください。

 もう、邪魔するつもりはありませんので、兄上のこと、よろしくお願いします。


 騎士団の訓練への参加の件も、義姉上の計らいだったと聞きました。

 こんな僕を気にかけてくれたこと、感謝します。


 この先ずっと、義姉上と兄上との幸せを願うことを誓います。


 でも、もしも兄上を裏切るようなことがあれば、その時は容赦しませんので、覚悟しておいてくださいね。


 あなたの義弟 ジュール・モントロー』


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