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優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした  作者: ゆきのひ
2章 公爵領編

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理不尽な嫌悪

 視察から戻って五日後、ジゼルとリュカがモントロー城にやって来た。

 ノルマンから子細を聞いていたモルガンが、先だって使用人の居住区に二人の部屋を用意してくれていた。


 ジゼルには明日からのメイド見習いとして仕事についてもらうことにし、リュカには庭師の仕事の手伝いで庭園と薬草園の世話をしつつ、研究に必要な学びのための時間を設けることにした。

 リュカを指導する教師は、サルグミン領からやって来た研究者のオデット。お兄様に手紙で頼んだら、快く優秀な研究者である彼女を派遣してくれたのだ。


 オデットは、私の知る研究者の中で一番年が若く、親しみやすい性格だ。リュカとも対面してすぐに打ち解けていた。

 オデットは、リュカが持参してきた記録に興味津々で目を通している。リュカも、好きな植物の話が存分にできる人との出会いに、目を輝かせていた。


「オデットとリュカにお願いしたいのは、ここはサルグミン領とは違って、魔石鉱山がいくつもあるせいで、瘴気に弱い植物は育ちにくい環境なの。なので、瘴気の影響を受けにくい作物の栽培法や品種改良に努めてもらえると嬉しいわ」

「瘴気ですね……。わかりました! リュカ君と一緒に頑張りますね!」


 鉱山から流れてくる瘴気のせいで、モントロー領での作物の収穫量は、サルグミン領と比較するとかなり少ない。領内のほとんどの食糧を近隣の領地からの買い付けで賄っているのが現状だ。

 いくら鉱山から採掘できる魔石が莫大な収入を生んでいるとはいっても、凶作や戦争で他領からの買い付けの経路に不都合が起これば、領民たちが飢える恐れがある。できるだけ自領内で食糧を自給できるようにすることが望ましいのだ。


 モントロー公爵家は、魔石鉱山の開発によって、現時点では王国内有数の富を誇る家門となってはいるが、その領地は常に魔物の脅威にさらされている。本当なら、私の持つ精霊師の権能を使えば、今よりもっと被害を少なくして魔物を退治できるはずなのだが、ノルマンがそれをよしとしない。


 そうしない大きな事情が何かあるはずだが、先日はそれを聞きそびれてしまった。今度、機会を見つけて、改めて尋ねてみよう。

 彼ならきっと、教えてくれるはずだ。


 ◆◆◆


 その夜、なかなか寝付けずにいた私は、厨房に行って水を貰ってくることにした。


 部屋を出ると、長い廊下の先にわずかに明かりが漏れている部屋がある。ふと気になって行ってみると、そこは先日、執事から書庫だと聞かされた部屋。

 少しだけ開いた扉の隙間から、中が覗ける。


 書棚の前に置かれたテーブルに、突っ伏して眠る黒髪の青年がいた。

 上着も羽織らずにテーブルに伏せる彼に、私はお兄様を思い出す。領地が凶作に悩まされていた時期、エミリアンお兄様は、窮地を脱する方策を練りながら、よく書斎で眠り込んでしまっていたのだ。

 

(このままだと、風邪をひくわ……)


 私は彼を起こさないよう、足音に注意しながら静かに書庫に入る。近くの椅子の背に掛けられていたブランケットを取ると、彼の背中にそっと掛けた。


「えっ……!」


 眠っていたはずの彼に手首を掴まれて、私は声を上げた。


「誰だ、お前?」


 ぎろりとこちらを睨む、ハシバミ色の瞳。たじろいだ私だが、その面差しと態度に、彼が誰かを一瞬にして理解した。


「ジュール様。はじめてお目にかかります。私はサルグミン伯爵家の娘、ディアロッテと申します。ご挨拶が遅れまして、申し訳ありません」


 彼に掴まれていないほうの腕だけでスカートをつまんで挨拶すると、彼はようやく腕を離してくれた。


「ああ、なるほど……あんたが、前の婚約者に愛想をつかされて、捨てられたっていうご令嬢?」

「……?」

「僕のこと、よくわかったね?」


 小馬鹿にするような笑みを向けられて、さすがに少し腹が立った。

 お節介なことをするんじゃなかった……。


「いえ、簡単なことです。この城の中で、公爵様と同じ黒髪で、お顔もどことなく似ておいでですから、そうではないかと思った次第です」

「ふうん……気弱なご令嬢って聞いてたんだけど、どうもそういう訳じゃなさそうだね」


 さっきまで寝こけていたのが嘘のような鋭い目つきで、ジュールは探るように私を見つめた。


「それで? どうして兄上と婚約する気になったの? 王都のご令嬢たちは、野蛮な冷血公爵なんてまっぴらごめん、って言ってるって聞いてたのにさ。何が目的? 公爵夫人の地位? モントロー家の資産? ねぇ、正直に言っていいよ。僕は怒らないから。兄上と違って、僕は寛大なんだよ」


 安い挑発……。これに乗るなんて、馬鹿らしい。


「公爵様はとても寛大な方だと、私は思っていますよ。その証拠に、《《捨てられていた》》私を、婚約者として温かく迎え入れてくださったのですから、これ以上の寛大な方なんて、いないですよね?」


 にこっ、と私はわざと大げさに首を傾げて破顔して見せた。


「では、もう遅い時間ですので、ジュール様もお風邪を召しませんよう、お部屋に戻ってお休みになられることをお勧めいたします。では、そういうことで、私も失礼いたしますね」

「あっ、おいっ……待てっ」


 そのままくるりと背を向け、引き留めようとする声に耳を貸さず、私は書庫を出た。



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