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第3話∶キースの魔力測定


ゼファルドの離宮の一室。

キースの魔力を測定するために用意されたのは、魔力検知用の水晶球だった。


「魔力測定なんて必要か?」

俺は眉をひそめた。


「当然でしょ! 弟子を名乗るなら、自分の実力くらい知っておきなさい!」


ディアナが偉そうに言いながら、奥の円卓を指す。


そこには、大きな水晶が鎮座していた。


「この水晶に手をかざすと、魔力量が数値化されるの」

ディアナが得意げに言う。


「へぇ……」

俺は気のない返事をした。


「ちなみに私、Sランクだったわ!」


「……Sランク?」


「王国でもトップクラスよ!」

ディアナは誇らしげに笑う。


「……へぇ」


「何よその反応。まさかビビってるんじゃないの?」

ニヤリと笑うディアナ。


(こいつ、完全に俺を見下してるな……)


「じゃあ、手を置いてみろ」


ゼファルドの促しに、俺は静かに手のひらを水晶へと重ねる。


瞬間──


ビシィッ……!


「なっ……!?」


乾いた音とともに、水晶がひび割れ、次の瞬間には粉々に砕け散った。


「……壊れた?」

ディアナが呆然と呟く。


「規格外だな、やっぱり」

ゼファルドが満足そうに笑う。


俺はどこか冷静に砕けた水晶を見て、思う。


「……いや、爆発防止の安全装置くらい付けとけよな」


水晶の残骸を見ながら、そうぼやいた。


ふと、かつて“何かの装置”で、限界値を超えた熱反応を止めるために使われていた仕組みを思い出す。

熱を受けると自ら切れて、回路を遮断する“小さな部品”──まるで、命を削って火を止めるような装置だった。


(……魔力の流れにも、ああいう“ヒューズ”みたいな仕組みを使えたら……暴発は防げるかもしれない)


その考えが、のちに魔導具の新発明に繋がるとは、この時はまだ知らなかった。


けれど──

(……ヒューズ? 回路って……なんでそんな言葉を知ってる?)


まるで夢の中で見た記憶のように、その“知識”は静かに頭の奥に沈んでいった。


「ズルい!!」

ディアナの声で我に返る。


「私は必死に鍛えて“Sランク”なのに、なんであんたが……!」


「生まれ持ったもんだな」

ゼファルドがにやける。


「さすが、“エルヴァントの至宝”ってとこか」


「……至宝?」

ディアナが眉をひそめる。


「こいつの二つ名さ」

ゼファルドは顎で俺を指した。


「エルヴァント史上、最も“異常”な魔力量を持つ王族だったとか」


「規格外」──そんな言葉がふさわしい存在。 


「歴代王族の中でも、こいつほどの魔力を持って生まれた奴はいないらしいぜ」 


ディアナは絶句する。

「あり得ない……エルヴァントは滅びたはずよ?」


「こいつが本当に王族の血を引いてるのか、確かめてみるか」


「……確かめる?」


ゼファルドが俺に向かって手をかざす。

空気がふわりと震え、髪が淡く光を帯び──黒髪が、霜のように銀色へ変わる。

深い蒼の瞳が、静かに光を宿す。


「……え!?」


ディアナが言葉を失い、俺を見つめた。


「この姿……まさか……本当にエルヴァントの……王族!?」


ゼファルドは満足げに笑う。


「な? 面白いだろ?」


「……全然面白くない!!」


ディアナが激しく息をのむ。


「じゃあ、あんた……王族だったのに……どうして……どうして奴隷にまで落ちたのよ!?」


“エルヴァントの至宝”


かつては、そう呼ばれていた。

けど──国は焼かれ、家族は失われ、俺は“モノ”として売られた。


そんな俺に、至宝なんて言葉は似合わない。


(俺はただ、生き延びて……)


──そして、帝国に復讐する。


「なんで王族が、奴隷に?」 ディアナの問い。


俺は一瞬だけ黙り、やがてゆっくりと口を開いた。


「……母上が、目隠しの魔法をかけたんだ。銀髪を隠し、魔力を封じて……帝国軍の目をごまかして俺を逃がすために」


「じゃあ、そのまま逃げ延びて……?」


「いや。途中で捕まって、奴隷にされた」


その言葉に、ディアナの表情が曇る。


「そんな……そんなのって……ひどすぎる……!」


「……そんな顔するなよ」


キースが苦笑する。


「べ、別に……心配してるんじゃないのよ!」


ディアナが顔を赤らめてそっぽを向いた。


(意外と可愛いとこあるんだな)


その時、ゼファルドが口を開いた。


「帝国に『銀髪の少年が奴隷市場にいた』という情報が伝わるのも時間の問題だな」


──再び、奴らがくる。


俺は拳を握りしめた。


「……帝国はお前を殺しに来るだろう。お前はどうするつもりだ?」


答えはもう決まっている。

目を閉じ、深く息を吸い──


「俺はここで力をつけて、帝国に復讐する」


しぼり出すように、言葉がこぼれる。


「すべてを取り戻すために。……この国で力を得る」


「ほぅ、いい目をしてるじゃねぇか」

ゼファルドは口元を歪めた。


「帝国はお前から全てを奪ったが……」


彼は静かに続ける。


「──お前が本気ですべてを取り戻すつもりなら、俺は手を貸してやる」


ディアナが、じっと俺を見つめていた。


その瞳は驚くほど穏やかだった。


「私も……少しくらいなら、力を貸してあげてもいいわ」


俺は小さく笑う。


その瞬間だった。


──ドクン。


心臓が大きく脈打ち、視界がぐらつく。


(……なんだ、これ……)


浮かび上がる、もう一つの記憶。 雨に濡れたバス停。

誰にも気づかれず、誰にも必要とされず立ち尽くす少年。

鋭い痛み。突き刺さる刃。赤く染まるアスファルト。


(これは……俺の、前世……?)


“あなたを、待っているわ”


ワインレッドの瞳の少女の面影が揺れる。 


──そして響く、心を揺さぶるような男の声。

“契約者よ。お前の望みを──叶えてやろう”


(レギオン……?)


胸の奥からあふれ出すように、魔力が変質する。


「キース! お前、さっきと魔力が……変わってるぞ?」


ゼファルドの言葉に、キースは掌を見つめる。 確かに、さっきまでとは違う感覚。


(俺は──レギオンと、何か繋がっている……?)



肩の上で、白銀の龍が「きゅっ」と鳴いた。


初めて会ったはずなのに──

なぜか、この少女と、この小さな龍と、遠い昔から繋がっている気がする。


胸の奥で、静かに誓いが芽生えた。


(──必ず、全てを取り戻す。)


失った祖国も、誇りも、未来さえも。

少年の静かな革命は、今、ここから始まる。



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