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グリッドランナー  作者: 末比呂津
ローブリッター編
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シンプル・イズ・ベストで良いねっ!

 海斗は咄嗟に、停車していたSUVの陰に女性と子供達を隠した。

 車体の端からこっそり顔を出して、襲撃者の姿を確認する。先ほど倒した男達と似たような装束の男が四人、同じSUV車から降りてきた。間違いなく男達の仲間だろう。

 確かにその辺のギャングより動きが洗練されている。油断しない方が良さそうだ。

 激しい銃声のせいで、子供達の中で一番小さい女児が声をあげて泣き出した。年齢的に仕方ないとはいえ、海斗は少し喧しいと感じてしまった。

 海斗は女性達に動かないよう指示すると、光学迷彩を起動して空高く舞い上がった。鮮やかな隆線を描きながら男達の背後に着地した直後、素早く光学迷彩を解除して敵に襲い掛かる。一人一人確実に一撃で気絶するよう、急所に拳を打ち込んでいく。


『やあどうも、お近づきのしるしにお一ついかが?』


 と、全員倒したのも束の間、四人が来た方向から新たに三台のSUVがこちらに走って来るのが見えた。

 これは良くない展開だ。このまま立て続けに増援が現れれば、女性達を守り切るのが困難になる。

 海斗は男達が乗っていたSUVの運転席に近づくと、自動運転に切り替え、カーナビに目的地を入力して母子達に乗車するよう早口で促した。


『いい? 何があっても絶対に途中で止まっちゃ駄目だからね!』


 そしてSUVが発進するのを見送ると、敵の行く手を遮るように立ちはだかった。

 先ほどの連中のようにいきなり発砲してくるかと身構えていたが、案に相違して数メートルほど手前で三台揃って停車すると、黒装束の男達がぞろぞろと降りてきた。中には身体の一部をサイバネ化したサイボーグもいる。先頭に立つリーダー格と思わしき男が恫喝的な口調でこう言った。


「ヒーローを気取りたいのかは知らんが相手が悪かったな。我々を敵に回してただで済むと思うなよ」

『へえ、どう済まないか説明してくれる? 長いのは嫌だから三行にまとめてテキストファイルにして送ってくれると嬉しいな』


 直後、男達が一斉に銃を取り出した。けたたましい銃声が鳴り響く。が、それより早く海斗が動いた。

 弾丸の軌道を予測して素早く加速装置を起動すると、右方向から大回りに回り込み、手近な相手から順番に片づけていく。


『言葉より行動で示すのがお宅の社訓なの? シンプル・イズ・ベストで良いねっ!』


 さすがにサイボーグ相手だと多少手こずることもあったが、特に危なげなく戦闘を優位に進める。


「くっ……!」


 形勢不利と判断するや残った最後の一人は、SUVに乗り込むと海斗の脇をすり抜けて走り去って行った。

 狙いは母子のようだ。


『ちょっとまだお話の途中でしょ』


 海斗は直ちに後を追う。道路にせり出した電飾看板を足がかりにビルの屋上に飛び乗ると、パルクールで隣のビルからビルへと移動を開始する。

 一分も経たない内にSUVの後ろ姿が見えてきた。良く見るとその十メートルほど前方に、母子の乗るSUVも確認出来る。タイミングを見計らってルーフに飛び降りる。

 着地の衝撃でルーフが大きく凹んだものの、上手くバランスをとってフロントガラス越しに運転席を覗き込む。


『大の大人が寄ってたかってか弱い親子を追いかけ回すとか、ダサいと思わないの?』

「なっ!? クソッ!」


 男は海斗を振り落とそうとハンドルを思い切り右に切った。折しも交差点に差し掛かるところで、SUVは大きなカーブを描きながら右折した。


『あーもしもし運転手さん? 道間違ってますけど』


 フロントガラスとノックしながら、海斗がそう言った直後、背後から大型車両と思わしきエンジン音が聞こえてきた。

 振り返ると反対方向から現れたトラックが猛スピードで母子が乗るSUVを追走するのが視界に入る。


『はーん、こっちは囮ってワケね』


 男が右折したのは海斗を振り落とす為ではなく、母子から彼を引き離すのが目的だったのだ。その隙にトラックに乗っている仲間が母子を捕らえる算段なのだろう。

 すぐに引き返さないと母子が危ない。海斗は右手に内蔵されたグラップルシューターを射出して後方にスイング移動した。

 トラックは物凄い速度でSUVに追い縋る。一体何人の仲間がいるのやら。海斗は敵の組織力を見誤っていたことを思い知らされた。

 その時、トラックがSUVを追い越したかと思うと、いきなり荷台の扉が開いて、細長い筒状の重火器を携えた男が現れた。見間違いでなければ、それは戦争映画などで良く見るロケットランチャーだった。

 男はランチャーの照準をSUVに合わせる。


『ちょ、嘘でしょ……』


 海斗は反射的に加速装置を起動し、ロケットランチャーの射線上に割り込んだ。そして強く握り締めた右拳を大きく振り被り、目前に迫ったロケット弾に叩きつけようとした。

 ところが目算を誤ったのか、激突する直前で拳が僅かに下に逸れてしまう。ロケット弾は海斗の拳を回避すると、母子の乗るSUVへと一直線に猛進し――次の瞬間、中心から縦方向に割れてオレンジ色の炎を舞い上げながら爆散した。


「何っ!?」

『どーしたの? ロケット弾を切断する人間を見るのは初めて?』


 男達は一瞬思考停止に陥った。突然起こった不可解な出来事に、理解が追いつかなかった。

 その疑問の答えは海斗の右手にあった。

 手首の外側に、鎌状の鋭利な刃物が突き出ていたのだ。

 ライザーの一件以来、海斗は武器を持った相手への対抗手段を色々と模索していた。現時点で武器と呼べるものは左手に内蔵されたプラズマ砲しかなく、必然的に肉弾戦を強いられる場面が多くなってしまうからである。

 別に積極的に戦闘に参加するほど自分は好戦的な人間ではないが、備えあれば患いなしという諺にもあるように、身を守る物が必要である。

 そこで海斗の機械義肢サイバーウェアの整備を担当するプリスに相談してみた。

 そして提示されたのが、このマンティスソードである。

 超高硬度のナノマテリアルで作成されたその刃物は、戦車の装甲でさえ容易に切断することが出来る。

 一般的に知られる鎌とは異なり、内側ではなく外側に刃がついていて、普段は海斗の両腕内部に収納されているが、一定量の電流を流し込むことにより、瞬時に鎌の形状に変化し、外部に露出する。

 呆然とする男達を尻目に、海斗は再び加速装置を起動した。マンティスソードを薙ぎ払い、トラックのタイヤを次々とパンクさせる。

 バランスを失ったトラックは左に引っ張られるようにカーブし、そのままガードレールに衝突した。

 衝撃で走行不能になったトラックの傍を、追手から解放されたSUVが横切った。見る見る内に遠ざかっていくSUVを、男達はただ指を咥えて眺めることしか出来なかった。


「クソッ……やってくれたな貴様……」


 荷台の男が舌打ちをしながら道路に降り立つ。


「そんなに死にたいなら貴様から先に始末してやる!」

『へえ面白そう。でも俺を倒すにはちょっと戦力不足じゃないの? せめて戦車でも持って来れば話は違ったかもだけど』


 などと豪語したものの、その直後にトラックの荷台から男に続いて姿を現した物体には、さすがの海斗も面食らった。

 それは鋼鉄の装甲を持つ二足歩行兵器だった。しかも両肩に多連装ロケット砲を装備したタイプの。


『……あーゴメン、やっぱ今の取り消すからもう一回やり直して良い?』


 そんな願いが聞き入れられるはずもなく、ロケット弾の集中砲火が容赦なく襲い掛かる。

 海斗は堪らず一番近くのビルの陰に転がり込んだ。発射されたロケット弾が、駐車してあるワゴン車や自動販売機に着弾して深紅の爆炎を巻き上げる。


『この不景気にロケット花火? ずいぶん羽振りが良いみたいだね!』


 辛うじてビルの壁に隠れた海斗は、弾幕が止むまでそこで待機することにした。

 と、その時ふいに視界内に電話の着信を示すアイコンが現れた。発信者名にはルナの名前が表示されている。帰りが遅いので心配してかけてきたのだ。

 よりにもよってこの状況で。


『げっ……ヤバ……』


 まずいことになった。

 もし電話に出て、絶賛戦闘中であることがバレたら、余計に心配をかけてしまう。かと言って着信拒否すれば何かあったのではないかと考え、どちらにしても不安を煽ることになる。

 どうしたものか、と海斗は考えた。

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