表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
グリッドランナー  作者: 末比呂津
ローブリッター編
36/64

んじゃ、お言葉に甘えて

 ライザーの高周波プラズマブレードの威力は圧倒的だった。

 新たに登場した未知の武器に、精鋭部隊フォックストロットは成す術なく打ちのめされた。

 まず華怜が発射した徹甲弾を難なく一刀両断すると、今度はプリヤの正拳突きを躱しざまに右のサイバーアームを切り落とし、菊理の双刃刀との鍔競り合いにも勝利して、その刀身をへし折った。

 二人は攻撃を無効化された直後に痛烈な蹴りを食らって行動不能に陥るほどの痛手を受けた。

 アイリは何とか距離を取りながら左手の銃を連射して牽制する。

 あの剣の間合いに入ってはいけない。あの剣は強力過ぎる。逆にある程度距離を取ればそれほど脅威ではなかった。

 やはり中距離、長距離用の武装はないようだ。

 このまま一定の距離を保ちつつ着実にダメージを与え続け、華怜の狙撃で仕留める。

 ところが形勢が不利と判断したライザーは矛先をマリーに変更した。


『逃げるのも結構だが、そんなことで本当にお友達が護れるのかな?』


 彼は身を翻してマリーの方へ直進した。

 やらせてはならない。絶対にマリーを護ると約束したのだ。

 その焦りが隙を生んでしまった。

 アイリが追い縋ると、それを予期していたライザーが振り向きざまにロングソードを振り払ってきた。

 斬撃は何とか回避したが、その隙を突いて繰り出された蹴りが脇腹に食い込んだ。


「かはっ……!」


 肋骨が何本か砕けた感触があった。肺の中の空気が押し出され、意識が飛びそうになる。

 気絶してはいけない。気絶してはマリーとの約束を果たせなくなってしまう。

 アイリは必死に抵抗するが、視界が薄れていくのを止めることは出来なかった。


『さてと、残るは……』


 動かなくなったアイリを確認すると、ライザーは華怜がいる方向に狙いを定めた。

 それをスコープ越しに見ていた華怜は直ちに狙撃地点から移動した。ライザーに居場所を悟られない為に。

 

「こちら風吹隊員、緊急事態発生! 至急応援を要請します!」


 手近な物陰に身を隠しながら、華怜は本部に無線で呼びかけるが一向に応答がない。返ってくるのは耳障りなノイズのみ。どこかで妨害電波が発信されているようだ。

 やはり完全に罠だった。

 華怜はマリーのいる方向を確認するが、ライザーの姿はない。先にこちらを片付けようという算段か。

 その時、右側から物音がして咄嗟に銃を構える。しかしそこには誰もいなかった。それが囮であることに気づいたのは、背後から人間の気配がした時だった。


「――ッ!」




「あ……あぁ……」

『さあいよいよお待ちかねの時間だ』


 地面に倒れ伏したフォックストロットを背にして、ライザーがマリーに迫る。


「マリー……逃げ……て」


 アイリが擦れ声を絞り出す。

 マリーはしかし恐怖のあまり、その場にへたり込んでしまった。

 股の間から暖かい液体が溢れ出し、小さな水溜まりが出来上がる。目前に迫る死の脅威に、もはや恥も外聞もなかった。


『怖がる必要はない。痛みを感じる暇もなく一瞬であの世に送ってやる。光栄に思いたまえ』


 穏やかな、それでいて冷徹な声音で、ライザーはゆっくりとマリーに歩み寄り――あと数歩といったところで、ふいにその歩みが停止した。

 アイリだった。アイリが死に物狂いで地面を這い、ライザーの脚を掴んでいた。


「マリー……は、早く逃げなさい……」


 ライザーは必死に食らいつくアイリの手を無慈悲に蹴り飛ばす。


『やれやれ、せっかく見逃してやったのに愚かなことを……。そんなに死にたいなら君から先に殺してやる』


 そう言い放ち、赤紫色に光る剣先をアイリに向けて振り下ろそうとしたその直後――

 ふいに側面から蒼白色の光弾がライザー目掛けて飛来した。ライザーは、間一髪でそれを回避する。

 飛来した方角に目を向けると、停止したベルトコンベアの上に何者かが腰掛けていた。


『ちょっとちょっとお、いくら何でも女の子をナンパするのにその格好はないんじゃないの?』


 そんな軽妙な台詞を吐くのは、グリッドランナーの姿をした海斗だった。

 意外な人物の登場に、マリーは頭の整理が追いつかず混乱した。しかし何故か安堵にも似た感情を覚えた。


『これはこれは、わざわざ君の方から出向いてくれるとは。探す手間が省けたよ』


 ライザーが愉快そうに言う。


『お礼を言うくらいならジュースでも奢ってくれない?』


 嫌味を吐きながら、海斗は昨夜自宅を木っ端微塵にした張本人を睨みつけた。

 やはり上月の推測は正しかったようだ。

 何が目的かはまだわからないが、甲冑男は開発センターから遠く離れたこの場所で、良からぬことを企んでいたようだ。

 あのフォックストロットが全滅とは、それほどあの強化外骨格が強力なのか。それとも奴が手にしている光るロングソードに秘密があるのか。

 一つ確かなのは、このまま平和的に終わる見込みは限りなくゼロに近いということ。

 相手はすでに臨戦態勢に入っている。


 ――先生……。


 海斗は腕から蛍光色の人工血液を流して倒れているプリヤを見た。他の隊員もどうにか息はしているようだが怪我がどの程度酷いのかわからない。

 その中で息絶えたハイタワーを見つけた。


『あれは……』


 口元が血で汚れているが、その顔は忘れもしない。マンスローターの事件で海斗を殺そうとした男だ。

 逮捕されて以降の動向は聞いてなかったので、海斗は何故この男がここにいるのかわからなかった。

 だが今は考えている暇はなさそうだ。


『少し予定とは違うがまあ良いだろう。メインディッシュを先に頂くのも悪くない。私の開発した強化外骨格の性能を試すには、君は最高の実験相手だ』

『悪いけど君の夏休みの自由研究を手伝う気はないんだよね。宿題は自分だけでやらないと』

『私をマンスローター程度の男と一緒にしない方が良い。あの事件以降の君の戦闘データは全て手に入れている。そのデータを基に君に勝つ為のシミュレーションを何度もしてきた。私が負ける可能性は万に一つもあり得ない』

『偉そうなこと言うより負けた時の言い訳を考えといた方が良いかもよ? 「うえーん、あの時はお腹が痛くて本気で戦えませんでしたぁ……」ってね』

『倒せるものなら倒してみたまえ』

『んじゃ、お言葉に甘えて』


 ライザーはロングソードを構えた。ブラックメタリックの装甲が月明かりを反射する。

 あの光る剣には気をつけなければならない。危険な香りがプンプンする。

 次の瞬間、地面を強く蹴り上げてライザーが突撃を開始した。

 ロングソードが鋭く閃いて、海斗の首筋に迫る。

 海斗は敏捷な身のこなしで攻撃を回避した。耳元を冷やかな斬撃音が掠める。

 ライザーはロングソードを縦横無尽に振り払い、海斗に肉薄する。海斗は身体全体を動かして軽やかに斬撃を捌いていく。

 このような近接戦闘に特化した相手との戦闘では、離れて攻撃を行うのが常套手段なのだろうが、あいにく海斗は遠距離用の武装を持ち合わせていない。

 一応、左手に内蔵された収束プラズマ砲があるものの、これは威力が強すぎて周囲に被害が及んでしまうので、そう易々と使用出来る武器ではない。

 なので必然的にこちらも近接戦闘を余儀なくされる。


『避けてばかりいては私を倒すことは出来ないぞ!』

『ならジャンケンでもする? 最初は……グーッ!』

 

 海斗は右側から払われた一文字斬りを軽快に見切ると、瞬時に相手の顔面に渾身の拳を叩き込んだ。

 ライザーは咄嗟に左手を間に差し挟んで防御を試みるも、威力を完全に消し去ることは出来ず、大きく後方に吹き飛ばされた。

 すぐさま追撃に出ようとしたが、ふと視界の端に見覚えのある人物を発見して立ち止まった。


「あ、あなたは……」

『やあどーも、こんなところで会うなんて奇遇だね』


 海斗は目の前でへたり込んでいるバイト先の常連客に軽く挨拶をした。

 足元にある水溜まりには気づかないふりをした。こんな状況だ、そういうこともあろう。

 センチネルの隊員であることは昨日の一件で知っていたが、見るからに戦闘に不向きな彼女がフォックストロットと行動を共にしているのは謎だった。


「は、早く逃げないと! いくらアナタでも勝てないっ!」


 マリーは一ヶ月前にメガトーキョーを救った海斗の実力は良く知っているが、つい先ほどアイリ達が次々と倒される光景が頭に焼きついていた。

 あのロングソードに斬られたら、さすがの海斗も無事では済まない。


『大丈夫大丈夫、俺のことより倒れてるお友達を気にしてあげて。あー、あと廃工場ここの修理代も心配した方が良いかも』


 そんな話をしていると、態勢を立て直したライザーが戻って来る。


『いやはやさすがはグリッドランナー。フォックストロットのようにすんなりと勝たせてはくれない。だがそれでこそ倒し甲斐がある。メガトーキョーを救った英雄を殺せばこれまで私を見下していた連中も自分達の評価が間違っていたことを認めざるを得ないだろう』

『それだけの為に大勢の人を巻き込んだワケ? ちょっと努力の方向性を間違えてるんじゃない?』


 そんなことの為にこんな大掛かりなことをしたというのか。どうやら相手には一般常識というものが通用しないらしい。


『君にはわかるまい。才能がありながら自分より低レベルな連中から見下される者の気持ちが』

『あのさあ、そんなに皆に好かれたいならもっと愛想良くした方が良いと思うけど』


 海斗は溜息を吐きながらそんな皮肉を言う。


『もっとも、君を殺すのはそれだけが理由ではないがね……』

『は?』


 言い終えるとライザーはロングソードを構え直して再び接近してきた。

 動きは俊敏だが太刀筋が単調でバリエーションがなく、避けるのはそう困難ではない。

 マンスローターより強いと豪語したのは誇大表現だったようだ。

 海斗は飛び上がって斬撃を避けると、二階の足場に着地した。


『その服、格好良いね。俺もそれと同じヤツ見たことあるよ。フリマアプリで(笑)』

『……それは面白い』


 ライザーは鉄柱を切断して足場を落とした。

 いち早くそれを察知した海斗は、空中で華麗に一回転して地面に着地する。しかし着地した瞬間を狙ってライザーのロングソードの逆袈裟斬りが目前に迫る。

 海斗は寸前のところで加速装置を起動して斬撃から逃れ、ライザーの背後に回って上段回し蹴りを叩きつける。

 が、浅かった。ライザーが僅かに身体を逸らして直撃を避けたのだ。さらには逆にロングソードの反撃に遭って紙一重のところで直撃しそうになる。

 何とかそれを回避すると、ライザーは今度は手当たり次第に周辺の鉄柱を切断し始めた。海斗の頭上にキャットウォークや大型の機械類が落下する。


『わっ!』


 海斗が怯んだ隙を突いて、ライザーは落下物ごと両断しようと試みる。

 海斗はやむを得ず上方に跳躍し、壁に張りついた。

 ここならライザーも上がって来れまい。このまま一旦体制を立て直して一気に反撃に出るか。


『ほーら、悔しかったらここまでおいで!』


 などとつい調子に乗って挑発してみると、おもむろにライザーが足裏を壁につけて何やら画策し始めた。


『え、噓……まさか本当に来ちゃう感じ?』


 果たしてライザーはやって来た。一歩一歩、力強く脚を踏みしめながらこちらに向かって来る。

 どうやらライザーの足裏にも、海斗と同じ機能が備わっているようだ。


『お望み通り来てやったぞ』

『いやいや、今のは冗談だって! 本気にする人なんていないよ普通!』


 ライザーは有無を言わさずロングソードの斬撃を放ってきた。

 壁の上では地上のような敏速な動きは出来ない。


『何でそんなに俺のことをつけ狙う?』

『ちょっとした私怨ってヤツさ。君に人生を台無しにされた話はしただろう。それだけでなく、私の恩師の命まで奪ってくれた』

『恩師?』

『君も名前は聞いたことがあるだろう、サイモン・クルーガー!』

『何だって!?』


 意外な人物の名前が出てきて、思わず面食らった。

 いや、サイバーマトリックス社の社員で、強硬派に属していればそれほどおかしくはないか。


『彼とは長い付き合いだったんでね、仇を取らせて貰うよ!』

『そーいうのを逆恨みって言うんでしょうが!』


 叫ぶや否や、海斗は足元を狙って振り払われたロングソードを回避して飛び蹴りを食らわせた。

 直撃を受けたライザーは不自然な体勢で地面に落下した。受け身を取ることは出来なかった。


『くうっ……!』


 反撃する暇も与えず、海斗はさらなる追い打ちを加える。相手が起き上がろうとしたところを一気に距離を詰めて腹部に思い切り後ろ回し蹴りをお見舞いした。


「す、凄い……」


 マリーはフォックストロットを倒したライザーを圧倒する海斗に、驚愕の念を禁じ得なかった。

 いくら見慣れない武器にアイリ達が苦慮していたとはいえ、あそこまで一方的に戦えるものなのか。

 ところがどういうわけか今の攻撃で海斗も負傷していた。腕に注意を向けると、右手首から蛍光色の人工血液がじわりと流れ出ているのに気づいた。

 先ほど蹴りを放った際に、ライザーのロングソードが僅かに手首を掠めたのだ。


『おやおや血が出ているじゃないか。先ほどまでの威勢はどこへ行ったのかな?』

『こんな掠り傷程度で喜ぶなんて、ずいぶんとこころざしが低いんだね』


 傷はそれほど深くはない。体内の治療用ナノマシンによって、すでに出血も止まっている。相手を倒すのに何の影響も及ぼさないだろう。

 そう思って前方に一歩踏み出した途端、ふいに視界が揺れた。


『……あれ?』


 めまいにも似た感覚が海斗を襲う。

 それを見たライザーが不敵な笑い声を漏らした。


『ククク……どうやら上手くいったようだね』

『……何をしたんだ?』

『私はクルーガー氏から君のサイバーウェアの設計図を見せて貰ったことがあるんだよ。たった今君の右腕のバランサを破壊した。これでもうチョロチョロ逃げ回ることは出来なくなった訳だ』

『……そんなことが』


 確かに身体が思うように動かないし、足元も覚束ない。

 その隙にライザーが急襲を仕掛けてきた。

 何とかロングソードは回避したが、直後に繰り出された蹴り技には対処することが出来なかった。


『ぐっ!』


 なす術なく跳ね飛ばされる海斗。


『さてと、さっさとケリをつけさせて貰うよ。君のサイバーウェアには自己修復機能もついている。モタモタしていると千載一遇のチャンスを逃してしまうのでね』

『くそっ……こんなことで勝って嬉しいのか……』

『何とでも言うが良い』


 これは本格的にまずい。海斗は強い危機感を覚えた。

 辛うじてロングソードによる攻撃だけは避けているが、その後の蹴りには完全に無防備になっていた。

 このままでは確実にやられるのは時間の問題。

 ライザーの言う自己修復機能とやらが作動するのを待っている暇はない。

 プリスに助言を求めようとしたが、電波状況が悪いのか応答がない。

 サイボーグの身体になって以来、最大のピンチと言っても過言ではないかもしれない。

 何かこの状況を打開する方策はないのか、と辺りを見回すと“ある物”を発見した。

 アレを使えばあるいはライザーを倒せるかもしれない。

 だがそれは大きなリスクを伴う。かと言ってこのまま何もしなければ、ただやられるのを待つだけ。

 こうなったら一か八か、起死回生の策に出るしかない。

 そのように決意を固めたすぐ後、海斗はライザーの回し蹴りを受けてうつ伏せに倒れた。


『この程度か。どうやら私の勝ちのようだね』


 ライザーがロングソードを振り上げた次の瞬間、海斗が突然身を翻して振り返った。

 その手には先ほど密かに拾い上げていた華怜の対サイボーグライフルが握られていた。

 銃口をライザーに定め、引き金を引く。

 爆発にも似た衝撃が大気を震撼させ、銃口から射出されたタングステン・カーバイドの徹甲弾がライザーの胸元に命中する。


『ぐあっ!?』


 直前で僅かに身体を逸らされたものの、ライフルの弾丸はライザーを勢い良く後ろに吹き飛ばした。


 ――やった!


 海斗は胸の内で叫んだ。

 相手に気取られないよう、わざとライフルのある場所に蹴り飛ばされた。この銃の前ではどんなに強力な外骨格でも、完全に威力を封じることは出来ないだろう。

 そして奴が十分な距離まで接近したところを見計らって撃った。

 しかし案に相違してライザーはゆらりと身体を起こした。


『どうやら……君を侮っていたようだ……』


 辛うじて立ち上がってはいるが、さすがに無事では済まなかったようだ。弾丸が命中した部分は、全く原型を留めずに激しく損傷している。

 これ以上の戦闘はどう見ても困難なように思える。


『さすがはメガトーキョーの英雄といったところかな……今すぐ君を斬り刻んでやりたいところだが……この状態ではそれも難しいだろう。名残惜しいが、この場は見逃してあげよう』


 そんなふうに負け惜しみを言うライザーだが、実際に被害の程度が深刻なのは、どう見ても向こうの方だった。


『待てっ!』


 海斗は逃亡をはかるライザーを追いかけようとするが、その直後に足元がふらついて地面に倒れそうになる。

 やはり自分も戦闘が可能な状態には程遠い。追跡は危険だ。

 ここで奴を取り逃がしたら厄介なことになりそうな気もするが、断念するしかない。

 それより早くこの場から離れた方が良いだろう。

 モタモタしているとセンチネルの応援が来て彼らに自分の正体がバレてしまう。

 急いで逃げなければ。


「あ、ちょっと……」


 制止しようとするマリーの声を無視して、海斗は廃工場から離れた。




『お目覚めになられましたか海斗様?』


 気がつくとプリスの顔が目の前にあった。いつの間にか気を失っていたらしい。

 現在、自分はどこかの公園のベンチに寝かされている。

 しかも何故か後頭部に物凄く柔らかい感触がある。どうやらプリスに膝枕されていたようだ。


「サイバーウェアの自己修復機能の副作用によって、一時的に意識を失ってしまったのです」

「そんな効果があったのか」


 海斗はゆっくりと上半身を起こす。


「……どのくらい気絶してた?」

「それほど長くはありません。十分程度です」


 時間を確認すると今は午後七時前だった。思ったよりも時間が経っていない。

 急いでルナの家に向かえば夕食に間に合いそうだ。

 さっきまでの眩暈のような感覚は、もう感じられない。大丈夫だ。


「ありがとう、じゃあ俺はもう行くよ」

「はい、ですがお気をつけください。自己修復機能はあくまでも一時的な処置です。後日、改めてちゃんとした修理を受けることを推奨します」

「じゃあ明日お願いしようかな」


 海斗は再びグリッドランナーの姿になって、ビルからビルへとパルクール移動しながらルナの自宅に向かう。

 移動の途中、ルナに今から家に向かうこと、そしてもうすぐそっちに到着する旨をメッセージで伝えた。

 送信するとすぐに返事が来た。

 ちょうど自分も買い物を終えて帰るところなので、入り口のところで落ち合おう、とのことだった。

 ルナの自宅はタワーマンションのメゾネットで、入るのに生体認証やら色々と手続きが面倒なので、一緒に帰った方が手間が省ける。

 加速装置を使って、十分ほどで現地に到着した。

 周囲を見回すと、ちょうど歩道の反対側からルナが歩いて来るのが見えた。

 声をかけようとしたところで、まだグリッドランナーの姿であることに気づいて、慌てていつもの服装に戻ろうとする。


「……あれ?」


 ところが服の立体映像機能が反応しない。

 マンションのガラスドアを鏡にして見るが、グリッドランナーのままだ。

 よりによってこんな時に故障だろうか。そうこうしている内にルナが近づいて来る。


「やばい!」


 海斗は急いでマンションの陰に身を隠した。


「頼むよ……早くしないと……」


 何度も元の服装に戻ろうと試してみるが、一向に変わる気配がない。

 そしてついに――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ