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55.太湖の都市の宿敵(中編-2)

「トーマンさんは、なんでそんなに黒き魔術師(ラフロイナ)を倒したいの?」


 ――トーマンは、黙って遠くに見える森を見つめた。黒き魔術師(ラフロイナ)の拠点と言われている場所だ。そこを見るのは、癖になっていた。


 もともと、目的があって軍人になったわけではなかった。王都からはるか遠い小さい村に、6人兄弟の末っ子として生まれ、食い扶持がなくて軍に入ったようなものだ。今もそうだが、魔物勢力の侵攻で特に地方は飢えが広がっている。


 王国の歴史では、50年前に魔王が現れ、魔王勢力の侵攻が始まったとされている。人類は、魔王勢力の侵攻によって失った財産を穴埋めするために、当時いくつかあった国家間で戦争を始めた。強力な魔王勢力と戦って領地を取り戻すより、隣の人間国家から補填した方が話が早いと思ったのだ。


 いくつかの国家が滅び、魔王勢力により人類領域の多くが刈り取られた段階で、最も国力を持っていた国の、当時の国王が変死した。そして、今の国王と元帥が国をまとめ、人類が団結して魔王勢力に対抗する体制を作り上げた。今の国王が元帥と組んで当時の国王を謀殺したとも噂されているが、真偽はわからない。


 とにかく、その元帥にトーマンは認められた。貧農出身であるトーマンを軍の出世街道に乗せ、トーマンもそれに応えた。トーマンには、軍事の資質があった。


 そして10年前、軍の将校となり”最前線”での決戦に参加し、魔王に敗北した。それからトーマンは、敗北によりガタガタになった国王軍を立て直すために、太湖の都市の駐屯軍へ派遣された。


 当時、駐屯軍は黒き魔術師(ラフロイナ)に押しまくられていた。太湖の都市が落とされる寸前の状態だった。トーマンは、考えられる全ての行動をとった。軍の規律を高め、戦術を練り、黒き魔術師(ラフロイナ)への対策を取り続けた。


 それが認められ、将軍となり、黒き魔術師(ラフロイナ)と何度も戦闘した。5年前、黒き魔術師(ラフロイナ)が気まぐれに動員した”特別認識個体(ネームド)”の討伐に成功し、人類最強の将軍と呼ばれるようになった。


 思い返すと、あの”特別認識個体(ネームド)”討伐は、トーマンが武勲をあげるために黒き魔術師(ラフロイナ)が仕組んでくれたことのようにも思えた。太湖近辺のこの地形であれば、水陸両用の魔物の方が力を発揮できる。あの時、黒き魔術師(ラフロイナ)が連れてきたのは、まるでこの地での戦闘に適していない、蝶が原型の”特別認識個体(ネームド)”だった。ほら、これなら倒せるだろう、磨いてきた弓術を見せてくれと、黒き魔術師(ラフロイナ)に言われたような気分だった。


 喉から手が出るほど黒き魔術師(ラフロイナ)を殺したい。その感情は事実だ。ただ、トーマンが黒き魔術師(ラフロイナ)に抱いている感情は、殺意だけではなかったような気もした。


「……宿敵、だからかな」


 トーマンは、しばらく遠くの森を眺めたあと、レンの質問に答えた。


「ふーん、宿敵って、よくわかんないや」


 レンは、引き続きボリボリと飴を食べている。ハナが負傷兵の治療を終え、ドドドとトーマンのもとへ走ってくるのが見える。やれやれと、トーマンは支給品のクッキーの缶を探し始めた。


 ――演習場には、戦のにおいが漂っていた。

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