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51.太湖の都市の宿敵(前編-2)

 太湖の都市にある、国王軍駐屯地の演習場へ、レンとハナとカリアとラーラは向かっていた。トーマン将軍に会いに行くのだ。


「レン、ハナ、カリア。トーマン将軍は、王国で最強の将軍と言われている方です。くれぐれも、くれぐれも失礼のないように」


 こいつらに何を言っても無駄だろうと思いつつも、真面目なラーラは彼らに注意した。


「失礼ですわね! 人と会う時の礼儀くらいわかってますわ!」


 ハナがプンプンと怒る。レンは演習場に置かれている武具が気になるようで、きょろきょろとあたりを見渡している。


「最強の将軍か、楽しみだな。ぜひとも手合わせ願いたいものだ」


「だからカリア、そういうのが失礼だと言っているんです! ……いいですか、あなた方は黙っててくださいね」


 4人は噛み合わない会話を続けながらも、トーマンのもとへたどり着いた。


「お久しぶりです、トーマン将軍」


「よく来た、ラーラ。要件は?」


 トーマンは、儀礼や余計な会話を嫌う人物だ。端的な鋭さを持った将軍で、ラーラとは馬が合った。レンやハナやカリアといったポンコツたちとは大違いだと、ラーラは思った。


「2点あります。まず1点目、タチアナ商会長から今後の計画書を預かっています。トーマン将軍に、計画の成否を見極めて頂きたいとのことです。実行不可能なら破棄、成立しそうであれば、国王へ提出するようにと」


「……珍しいな。わかった、すぐに閲覧する」


 タチアナは、根回しをするような人間ではない。通常、彼女の作る計画は、直接王都の会議にかけられる。事前にトーマンへ判断を仰ぐのは初めてのことだった。


「そして、2点目ですが……ええと、その……」


 ラーラが口ごもる。いつも端的に物事を語る彼女にしては珍しいことだとトーマンは思った。


「ラーラ、そこの3人のことか? 戦士と、ガキが2人。そいつらは、何者なんだ?」


「まあ、ガキとは失礼ですわ! 礼儀がなっていませんわ!」


 ハナがプンプンと怒り出す。レンとハナが侮辱されたと思ったカリアが、殺気を放つ。レンは話に飽きて、積まれている武具の方へ駆け出していった。ラーラは、思わず額に手をあてた。


「将軍、すみません。こいつらが……たぶん勇者と聖女です」


「おい、ラーラ。冗談はよせ」


「冗談では……ありません。貪欲な豚(グリービー・ピッグ)を討伐したところを、この目で見ました」


 トーマンは、少し困惑した。ラーラは嘘をつかない。まさか、勇者と聖女が本当に存在していたとは。そして、その勇者と聖女は、ポンコツにしか見えなかった。


「ラーラ、私ではなく、この人の礼儀を叱った方が良いですわよ! 寮長のおばちゃんもガキ大将のジャイボスも、なぜかレンや私のことばかり叱るので困ってますわ」


 ハナがキーキーと(やかま)しい。


「将軍とやら、レン殿とハナ殿をガキ呼ばわりするのだ。さぞかし腕に覚えがあるのであろう。――私と手合わせ願いたい」


「あんたたち、頼む、頼むからちょっと黙ってて……」


 ラーラ疲れ果てた様子で言った。困っているのはラーラの方だった。


「すごいよ、ハナ! いろんな道具がたくさんある! これ何に使うのかな?」


「見てみたいですわー!」


 武具をいじくっているレンに呼ばれ、ハナは駆け出していった。立ち尽くすトーマンと、頭を抱えるラーラと、なおも殺気を放つカリアが残された。カリアは既に剣の柄に手をかけていた。


「――わかった、そんなに戦いたいなら戦わせてやる」


 トーマンはカリアの殺気に微塵も怯まず、じっと睨み返して言い放った。


「おい、お前ら! こいつと手合わせしてやれ!」


 トーマンの号令で、兵たちが寄ってきた。兵の一人が尋ねた。


「承知しました! ただ、女性が相手なので、怪我をさせてしまうかもしれませんが、宜しいでしょうか」


「骨の一本や二本、折っても構わん。馬鹿は痛めつけないと治らんだろう」


「ほほう……なかなか手応えがありそうな連中だな。よし、手合わせ願おう」


 こうしてカリアは、兵に連れられて、演習場の方へ歩いていった。


「やっと落ち着いて話せる……。トーマン将軍、彼らの様子はおかしいですが、人外の力を持っています」


「にわかに信じがたいが……。とりあえず、タチアナの計画書を確認する。勇者や聖女についての記載もあるだろうからな。ラーラはしばらく休んでいて良い。営舎を好きに使ってくれ」


「……はい、少々、疲れています。ご厚意に甘えます」


 こうして、トーマンは計画書を読み込むために営舎の将軍室へ向かい、ラーラには営舎の一室があてがわれた。


 疲れ切っていたラーラは、部屋に入るや否や、ベッドにぐったりと倒れこんだ。


 ――あと何度、こんなやり取りが続くのだろうか。ラーラはウトウトしながら、今後も続くであろう困難に思いをはせた。

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