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29.魔術師ラフロイナの戯れ(中編-2)

 レンは本気を出した。


 ハナを失いたくないと強く願いながら、銀色に輝く剣を縦に振るう。空気を、黒い煙を、家屋を、地面を両断する一撃が放たれる。その一撃で、黒き魔術師(ラフロイナ)がハナへ放った黒い炎も両断され消えた。大地には、深い亀裂が走っている。


 剣を横に薙ぐ。周囲の家屋の上半分が吹き飛んだ。黒き魔術師(ラフロイナ)。宙に逃げ回避している。目掛けて突く。空に定規で線を引いたように真っすぐ斬撃が放たれ、黒き魔術師(ラフロイナ)の脇腹に穴をあけた。跳躍。飛んでいる黒き魔術師(ラフロイナ)に一気に接近する。斬撃。黒き魔術師(ラフロイナ)の左腕が飛ぶ。また斬撃。躱される。黒き魔術師(ラフロイナ)は黒い煙と炎を撒き散らし、なんとか逃れようとしている。レンの体が、落下していく。地上に落下するまでの数瞬が、レンには長く感じられた。


 黒き魔術師(ラフロイナ)は、必死に逃れようとしていた。驚く暇もなかった。今はこの窮地から逃れなくてはならない。術理は理解できる。かつて存在したと言われる、物質と物質を分離させる魔術系統。男の子供の攻撃の本質は、斬撃ではなく分解だ。しかしその範囲と、速さと、強度が異常だった。


 限界まで黒煙を放出しながら、黒き魔術師(ラフロイナ)は上空へ逃げようとした。見たところ、男の子供に飛翔する能力はない。横よりも、縦に距離を稼いだ方が逃げられると黒き魔術師(ラフロイナ)は考えた。


 落下したレンは、左手を地面へ伸ばして着地した。衝撃で肩が外れ、肩口を骨が突き破った。黒き魔術師(ラフロイナ)は、真上へ真上へ移動している。黒煙が撒き散らされていて、姿は良く見えない。


 レンは、軽くしゃがみ、両足に力を込めた。そして飛ぶ。垂直方向への全力での跳躍。大地が沈み込みクレーターができた。


 レンは稲妻のような速度で空高く跳び上がる。跳躍の代償で足は膝下から爆ぜている。黒き魔術師(ラフロイナ)の高度に達し剣を振る。しかし、跳躍時のわずかな方向のズレが上空では大きな狂いとなり、黒き魔術師(ラフロイナ)との距離が開き、レンの斬撃は黒き魔術師(ラフロイナ)の右顔を斬りつけるに留まった。


 レンが落下していく。黒き魔術師(ラフロイナ)は負傷の治療もせずに上へ上へ逃げて行った。レンは力を使い果たし、ぐったりしながら落下していった。


 轟音。レンが焼け残った家屋へ落下した。爆発したかのように家屋の材木が周囲に飛び散った。落下の衝撃でレンは潰れ、血が広がっている。


 木々が頭にあたり、ハナの目がうっすら開かれる。折られた脇腹に激痛が走り、それでハナの意識が覚醒する。すぐに、潰れたレンの姿を発見した。ハナは息を飲み、即座に強く祈った。淡い緑の空間が、いつもより大きく広がり、村全体を包み込んでいく。レンの体が再生され始めるのを見て、ハナは安心し、また意識を失った。

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