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26.魔術師ラフロイナの戯れ(前編-1)

 草原の街道。レンとハナは、お菓子の村へ向かって疾走していた。すぐ後ろを、カリアが全速力で必死についてきている。三人は、魔王のいる目的地とは反対の方向に突っ走っていた。


 お菓子の村は、製菓業を主産業としている小さな村で、そこまで大きな特徴がある集落ではない。しかし、レンとハナの頭の中には、甘くて美味しいお菓子で作られた家が立ち並ぶ光景が浮かんでいた。


「レン、あの丘の向こうにきっとお菓子の村がありますわ! なんか黒い煙が見えますわ!」


「うん、そうだね! ケーキでも焼いてるのかな?」


 レンとハナは、丘を駆けあがった。そして、お菓子の村を発見した。――眼下に広がる村は、焼け焦げた家屋が立ち並び、道には無数の焼死体が転がっていた。


「た、たいへんですわ! お菓子のお家が焼け焦げてますわ! 人もたくさん倒れていますわ!」


「なんてことだ……! ハナ、村を調べてみよう」


 レンとハナとカリアは、村に入っていった。まだチロチロと残り火が燃えていて、うっすらと黒煙が漂っている。ハナは、倒れている人に治癒をかけたが、治る人はいなかった。ハナの治癒は、死んでしまった人間には効かない。


「だめですわ……。みんな死んじゃってますわ」


「僕もだめだった……。あんまり燃えてない家をかじってみたけど、木の味しかしなかったよ」


「火がまだ燃え残っているし、死体も新しい。襲われてから、あまり時間が経っていないな」


 カリアが、村の様子を見ながら言う。


「王国軍の兵士の死体も多い。おそらく、”特別認識個体(ネームド)”並みの強力な魔物に襲われたのだろう。レン殿、ハナ殿、どうする?」


「決まってますわ! お菓子の村を台無しにした奴をぶちのめしてやりますわ!」


「……さすがだ。了解した」


 カリアが、ニヤリと微笑んだ。強敵との戦いは、彼女も望むところである。ちなみにレンとハナは、お菓子の家が食べられなくなり純粋に怒っていた。


「――おや、こんなところに人間が。あなた方は、何者ですか?」


 背後から声がして、三人が振り返る。そこには、黒い服を来た、20歳前後の男が立っていた。端正な顔立ちをしており、肌が浅黒く、耳が少し尖っている。スラっとした正装風の服を着ているが、アンティークのような大昔の流行の服装だった。


 カリアが、レンとハナを庇うように前に出て、言った。


「我々は、”最前線”へ向かう旅をしている、農民と戦士だ。何も怪しいところはない」


 どう考えても三人は怪しかった。


「ほう、”最前線”。農民が、あんなところへ何をしに行くのですか?」


「魔王を倒しにいく。貴様こそ、何者だ」


「はは、魔王討伐ですか。私は……そうですね、巷では黒き魔術師と呼ばれています」


 男の正体は、”特別認識個体(ネームド)黒き魔術師(ラフロイナ)であった。彼は、人の感情が大きく揺れ動いたときの表情を見るのが好きだった。何も気づいていない人間に、自身の正体を明かすと、人はとても驚いたり絶望したりするので、こういった戯れを好んでよくやっていた。


 ――さて、三人はどのような表情を見せてくれるのか。


「そうか、わかった。では、達者でな」


 カリアが答え、三人は無表情でスタスタ歩いて村を出ようとした。


「――ちょ、ちょっと待って。あなた方、黒き魔術師のことを知らないんですか?」


「知らん。今からこの村を襲った魔物を討伐しにいくのだ。貴様を相手にしている時間はない」


 カリアは、男を無視して進もうとした。


「ほう、では……」


 黒き魔術師(ラフロイナ)が、微笑みながら言う。


「この村を滅ぼした者が、目の前にいるとしたら、どうしますか?」


 カリアはその言葉を真に受けた。


 抜刀。斬撃。瞬きする間も、躊躇もなく、カリアは男へ向けて剣を振るう。


「……この反応速度。気付いていたのですか? いや、そんな兆候は感じられませんでしたが」


 カリアの剣の間合いにいたはずの男は、いつの間にか10歩ほど離れたところにいた。男の脇腹からは、血が流れている。


「……? お前が言ったのだろう? この村を滅ぼしたのは自分だと」


「普通の人間は、そこまで即断できませんよ。それに、あの一撃。あなたはかなり高位の戦士のようだ。ただ、魔王には足元も及びませ――」


聖剣(エクスカリバー)!」


 レンが、ごちゃごちゃ話を聞いているのが面倒になって男を攻撃した。カリアが攻撃したのなら、多分こいつは敵だろう。男の右腕が飛んだ。音を置き去りにするようなレンの速度に、男の回避は間に合わなかった。


「――馬鹿な。これは一体、何だ……?」


 黒き魔術師(ラフロイナ)は、目を見開いてレンを見た。レンは、胴を両断できなかったことをちょっと不思議がっていた。

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