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23.信徒ヘオイヤの旅路(前編)

 レンとハナとカリアは、冒険者の町を出発し、街道をテクテクと歩いていた。


「そういえばさ、魔王ってどこにいるのかな? 近くの川とかにいるのかな?」


 レンが、屋台のおっちゃんからたっぷりもらった串焼きをかじりながら言う。


「王都の先にある、魔王勢力と人類が争っている”最前線”にいると、ギルド長が言っていた」


 串焼きをモグモグ食べながら、カリアが言った。


「じゃあ、今はその”最前線”に向かってますの? 今日中に着くかしら?」


 ハナは、串焼きを片手に3本ずつ持ちながら、爆食いしていた。


「いや、途中にあるらしい鍛冶の町に向かっている。そこで折れた剣を治してもらおうと思う」


 カリアの長剣は、冒険者の町での戦いの最中にポッキリ折れていた。


「ハナの治癒で、剣も治せないのかな?」


「わからないけど、やってみますわ。治癒(パーフェクトヒール)


 折れたカリアの剣が、ハナの発する光に触れると、たちまち元に戻った。


「——すさまじいな。剣すら治せるのか。……そもそもこれは治癒なのか?」


「おお、剣が治ったね! じゃあ寄り道せずに魔王のところに行こう!」


 こうして三人は、魔王を倒しに、直接”最前線”へ向かうことにした。



 ◇◇◇



 王都の宮殿。歴史を感じさせる、豪奢な建物。


 そこにある王家の会議室に、王国の首脳が集まっていた。上座には、国王が鎮座している。国王は、今年で29歳だった。15歳の時に即位してから、人類と魔王勢力との戦いを主導してきた。


 今日は、月に一度の首脳会議の日だった。王国の主だった人間が集まり、国の方針を決定する日だ。


 ここに集まっているのは、この国の最高権力者たちだが、若い年齢の人間も多かった。魔王勢力との戦いの過程で、実力のない者は追い落とされていき、実力主義が徹底されたからだ。


「辺境の町から、注目すべき報告がありました」


 宰相が、報告書を見ながら言う。


「辺境の町は、魔物の群れの襲撃を受けましたが、防衛に成功」


 会議室が、ざわついた。魔物の群れを撃退できるような戦力は、辺境の町にはなかったはずだ。


「そして……”特別認識個体(ネームド)巨大熊(ビッグ・ベアー)の討伐に成功」


 会議室が、どよめいた。この10年で、人類が討伐に成功した”特別認識個体(ネームド)”は3体のみである。最も直近の討伐も、5年前まで遡る。信じられない報告だった。


巨大熊(ビッグ・ベアー)を倒したのは、少年と少女の姿をした、勇者と聖女としか思えない存在だった――と報告されています」


 会議室が、静まりかえった。勇者と聖女。おとぎ話で語られるような存在が、顕現したというのか。この報告は、会議に参加した皆の、理解を超えていた。


「……まず、宰相は報告の内容を疑うべきではないのか?」


 ひとりの大臣が、苛立ったように喋りだした。


「魔物を撃退した? ”特別認識個体(ネームド)”を倒した? 勇者や聖女が現れた? 馬鹿馬鹿しい。”不撤退”の命令を無視して、逃げ去った町の連中が、誤魔化すためのデタラメを並べているのでは――」


「なら、大臣は」


 国王が、口を開いた。会議室の空気が、ピンと引き締まった。


「足りぬ戦力で、命をかけて魔物を撃退し、使命を果たし王国に貢献したというこの報告が、全て嘘だと言いたいのか?」


 国王は口調は淡々としていたが、大臣は自分が大きな失言したことを悟った。


「も、申し訳ございません。発言を撤回します」


「――ならば、宜しい。元帥、報告を出した人間はかつて国王軍にいたらしいが、何か知っていることはあるか?」


 国王は、国王軍の最高指揮官である元帥に尋ねた。元帥は、普段は”最前線”に駐屯しているが、重要な会議の際は王都に戻ってくる。


「知っております。報告を出したヘオイヤは、かつて国王軍の将校でした。共に戦ったこともあります。ヘオイヤは冷静沈着で、虚偽を嫌う誠実な男です。間違っても、虚偽の報告を送るような人間ではありません」


「わかった。では、詳細を確認するために、ヘオイヤを王都へ出頭させたいと思う。宰相、すぐに手配を」


「承知しました、直ちに! では、次の議題は”特別認識個体”(ネームド)黒き魔術師(ラフロイナ)による被害状況を――」


 こうして直ちに、王都から辺境の町へ、ヘオイヤ出頭の指令を伝えるために伝書鳩が飛ばされた。


 レンとハナとカリアは、紅の竜(レッドドラゴン)も倒しており、既に”特別認識個体(ネームド)”を2体討伐しているのだが、この報告が王都に入るのは、もう少し後のことだった。

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