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20.冒険者の町の黄昏(後編-3)

 冒険者の町の、大通りの出口。カリアは疾駆してくる馬の魔物の群れを迎え撃とうとしていた。ここを突破されると、居住区が魔物に蹂躙される。


 群れはもう、目の前まで迫ってきている。カリアは、長剣を横に構え、息を止めた。


 一閃。先頭の魔物の前足を斬り飛ばす。足を斬り飛ばされた魔物が、転がりながら横たわり障害物となり、何体かの魔物が転倒した。そして、群れの疾駆が止まった。


 怒り狂った魔物が、カリアを踏み潰し噛み裂こうと殺到してくる。数が多い。転がって何とか避けた。


 横たわる魔物を踏みつけながら、そのまま居住区へ向かおうとする魔物もいる。駆け寄り、足を斬った。すぐに、他の魔物が踏みつけてくる。蹄を長剣で滑らせ、回避する。またすぐ別の魔物が噛みついてくる。


 数が多い。そして、防衛線を突破しようとする魔物も食い止めなくてはならない。カリアは動きまわって戦いながら、レンの到着を待った。すでに息は切れていて、長くは粘れないかもしれない。


 カリアは、当然のように、ここで死ぬまで戦い続けるつもりだった。


 その時、レンは――


「……あれ? ここどこだろ?」


 道に迷っていた。ちなみにハナは、治癒してあげた野良犬と遊んでいる。


 ーーー


 冒険者ギルドは、静まり返っていた。冒険者たちは、自分の無力さを痛感しながら、しかし何もできずにいた。


 ギルド長は、まだ唇を噛みしめ続けている。血が、顎を垂れていた。


「……おい」


 静寂を、古参の冒険者が破った。


「あんなガキが、俺たちのホラ話を嬉しそうに聞いていたガキが、人助けをしていて……俺たちはここに籠って、何をしてるんだ?」


 ……そうだ、その通りだとギルド長は思った。俺たちは何をしているんだ。何のために存在しているんだ。元々は、何がしたかったんだ。


 毒が回ろうとしてる、とギルド長は思った。冒険者を無謀へ走らせる、夢という毒が。


「あいつは、”特別認識個体(ネームド)”を倒した奴だぞ。……俺たちとは違うんだ」


 他の冒険者が言った。その男は、諦めきった笑みを浮かべていた。


「魔物に挑んだ冒険者は、だいたい死んでいった。俺たちも、今さら張り切ったって、惨めに死ぬだけ――」


「――これ以上に惨めなことがあるか!!」


 ドン、と机を叩きながら、ギルド長は叫んでいた。言ってしまった。我慢し続けてきた。諦めきっていた。長年自分に言い聞かせてきた、枷が外れてしまった。ギルド長は、自分の言葉を止めることができなかった。


「おこぼれみたいな依頼(クエスト)を恵んでもらって、町に寄生しながら、貧しく生きて――。そして、ガキどもが戦っている中で、俺たちは怯えて籠って――」


 黄昏た、安住の場を、仲間たちの命を、あれだけ守りたかったものを、ギルド長は自身の手で壊そうとしている。


「――俺たちが夢見た冒険者は、こんなんじゃねぇ!!!」


 ギルド長の叫びが、建物を揺らした。その言葉は、冒険者たち皆が思っていた、心からの願望の、代弁だった。諦めきった笑みを浮かべていた冒険者も、息を吞んでいた。


 冒険者たちの目の色が、変わりはじめる。


 そして、古参の冒険者が、ニヤリとしながら言った。


「よお、旦那。やっと目が覚めたみたいじゃねぇか。ずいぶん長く寝てたみたいだな、良い夢見れたか?」


 古参の冒険者が、わざとらしく手を広げながら続ける。


「さぁ、旦那の仕事の時間だぜ。――依頼(クエスト)をくれよ」


「おう、そうだな……。そうだな――!」


 ギルド長は、深呼吸を一度すると、勢いよく白紙の依頼書へ殴り書きをはじめた。


「――依頼(クエスト)!」


 ガリガリと、力強く文字が殴り書かれる音がギルドに響く。


「町へ侵入した魔物の討伐! 金は出ないし、死ぬかもしれねぇ! 報酬は、冒険者としての誇りだけだ!」


 依頼書を書き終え、筆を机に叩きつけた。


「さぁ、引き受ける奴はいるか!」


 ギルド長が顔を上げると、すべての冒険者が、立てた親指を自身へ向けていた。


 ――それは、その依頼(クエスト)は自分が引き受けるというサインだった。

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