16.冒険者の町の黄昏(中編-2)
レンとハナとカリアは、お金を稼ぐために冒険者ギルドにやってきた。もともと、串焼き代を稼ぐためにギルドへ訪れようとしたのだが、串焼きをもらったいま、その目的はよくわからない。
「こんにちはですわー!」
ハナが、ギルドの扉をドカンと蹴り開けた。寮長のおばちゃんはめったにレンとハナを褒めてくれなかったが、ハナの挨拶だけは褒めてくれた。それがハナの誇りで、だから誰よりも元気よく挨拶しようと思っていた。
突然騒がしい音がして、まどろんでいたギルド長が目を覚ました。
「……なんだい、こっちは忙しいんだが。若造三人が、何の用だ?」
起こされたギルド長は、不機嫌だった。そもそも、冒険者ギルドなんて場末に来るような新顔にまともな人間はいない。適当に対応して、あしらおうと思った。
「冒険者になりたくて! 何か僕らにやれることはないかな?」
レンが、目をキラキラさせながら聞いた。レンは冒険者という言葉の響きに脳をやられていた。
「おう、あるぜ、未来の勇者様。そっちの依頼書を探してみな」
ギルド長は、奥に貼られている壁紙を指差した。そこには、”壁紙”――達成困難で、長期間掲載され続けている依頼が貼られていた。ギルド長は、三人の相手をまともにするつもりがなかった。そもそも、昔から所属している冒険者を30人も抱えていて、彼らを食わすための依頼が足りない状態だった。こんな新顔に居座られても迷惑だった。
「あそこに貼られている依頼書が、このギルドで最も達成困難な依頼か?」
いちばんまともそうな、戦士風の女が、ギルド長に尋ねてきた。
「ああ、そうだ。どれも高額報酬、一級品の依頼だ。お手並み拝見するぜ」
酒瓶をあおり、ニヤリと哂いながら、ギルド長は言った。”壁紙”の依頼は、”特別認識個体”討伐なの何なのといった、馬鹿げた依頼ばかりだった。こんな連中に、達成できるわけがない。
レンとハナとカリアは、”壁紙”の依頼書を眺め始めた。早く帰れ、とギルド長は思った。ちなみに依頼書は、文字が読めない冒険者でも理解できるように、わかりやすい絵で描かれている。
「……ん、これは今日レン殿が倒したな。しかし、討伐証明部位が角か。持ってくればよかったな」
カリアが呟く。
「あ、あのトカゲちゃんの角? かっこよかったから、取っておいたよ」
レンが、カバンから大きな角を取り出す。
「おお、さすがレン殿、これがあれば大丈夫だ」
カリアが、10年以上そこに貼られ続け、半ば壁と同化している”壁紙”の依頼書の1枚を、破りとった。そして、受付へ向かう。酒を飲んでいたギルド長が、カリアが近づいてくるのに気付いた。
「ああ、依頼書を見たか。無理だろう? 悪いこと言わないかなら、さっさと帰って――」
バン、とカリアが受付に依頼書と角を叩きつけた。”特別認識個体紅の竜討伐の依頼書と、紅の竜討伐証明部位の角を。
「紅の竜を討伐した。これがその証拠の角だ。報酬をもらおう」
「――え?」
ギルド長は、動きを止めた。