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11.女戦士カリアの覚悟(前編)

 辺境の町の騒動から、2日。レンとハナは、芋をかじりながら野宿をし、なんとなく山を歩き続けていた。道中、何度か小動物(魔物)に襲われたが、レンがすぐにそれを両断した。


「レン、そろそろお芋がなくなっちゃいますわ」


 ハナが、カバンの底をひっくり返しながら言う。神託が書かれた紙片を辺境の町に忘れてきたことには、まだ気づいていなかった。


「もう僕のお芋もなくなっちゃったよ、美味しかったのになぁ」


 レンが、残念そうに言う。二人は、人がめったに近づかない深山のさらに奥深くにいた。


「……ん? ハナ、あそこに何かがあるよ」


 草木が不自然に密集している場所があった。レンが駆け寄り、剣を振るって周囲の大木を切り落とし、草木の葉をかき分けた。するとそこには、高さ3メートルほどの洞窟の入り口があった。像らしきものがあり、文字らしきものも周囲に彫り込まれていた。


「なんだろうね、この洞窟。誰かが作ったみたいだ」


「あれ、洞窟……? 誰かに言われた気がする……?」


「どうしたの、ハナ? 何か覚えてるの?」


 ハナは、何かを思い出そうとしていた。はるか昔に、誰かに何かを言われた気がする。例えば、女神の神託――


 そう、女神は神託で告げていた。


 ――『ひとつめ。破邪の剣、北の大洞窟。座標140.58-38.22』――


「――さっぱり思い出せませんわ!」


「そっか。んじゃ洞窟は暗くて怖いから無視して先に行こうか」


「そうですわね!」


 こうして二人は、北の大洞窟を無視し、元気いっぱいにテクテクと深山を進んで行った。破邪の剣を入手する機会は、ここで永久に失われた。


 女神が二人を必死に呼ぶ声が聞こえた気がしたが、それはきっと気のせいだろう。



 ◇◇◇



 深山の中、草木が開けた台地で、一人の人間と一体の魔物が向き合っていた。双方が、深手を負っていた。


 人間は、女性で、簡素だが戦士の装備をしていた。無数の傷を負っている中で、千切れた左腕と、抉られた右脇腹は、致命傷に見えた。それでも、女戦士は立ち続け、長剣を右手一本で構えていた。


 魔物は、トカゲを進化させたような動物に見えた。いや、体長5mを越えるその生物は、もはや竜に近いと言ってもよい。赤い鱗に、切りつけられた痕が無数に走っている。魔物は、左目が潰され、指も何本か失っていた。


 女戦士の名は、カリアという。父の仇であるこの魔物と、数時間戦い続けていた。そしてその戦いも、もうすぐ終わろうとしている。


 カリアは、自分の状態を確認する。喰いつかれた右脇腹が、致命傷だった。魔物の目を潰してなんとか逃れたが、内臓が潰れ、出血がひどい。もう長くは持たないだろう。


 カリアは、父の仇を討とうと戦っていた。カリアは、父が好きだった。兵士だった父は、魔物との戦いで多くの戦功をあげ、皆から一目おかれていた。”特別認識個体(ネームド)”討伐に貢献したこともあり、最強の戦士と呼ばれていた。


 そんな父が、"最前線"で魔王勢力と戦い、右足を失ったのが10年前だった。兵士を続けられなくなった父には、辺境の北の山奥で狩猟をしながら魔物を監視する任務が与えられた。当時8歳だったカリアは、父へついていき、二人で山奥で狩猟をしながら暮らした。


 狩猟生活は、楽しかった。獣の獲り方はもちろん、武術の稽古もたくさんつけてもらった。父のような戦士になりたいと思った。そんな時、凶悪な魔物が出現した。


 ”特別認識個体(ネームド)紅の竜(レッドドラゴン)。それは、深山近くの山麓の町へ侵攻しようとしていた。


 父が、それに立ち向かった。死闘の末、父は敗れ、死んだ。戦士らしい立派な最期だった。


 父を倒した紅の竜(レッドドラゴン)により、山麓の町は壊滅した。そこから、カリアは山に籠り、鍛錬をし続けた。――父の仇を取るために。


 最初は、犬の魔物すら倒せなかった。殺されかけたことすらある。鍛錬を初めて3年目に、犬の魔物には負けなくなり、5年目には熊の魔物すら圧倒できるようになった。


 そして7年目、いま、ようやく再び現われた父の仇と相対している。


 出血がひどい。視界が霞んでいく。カリアは、自分が早晩死ぬだろうということを理解していた。残された時間は少ない。紅の竜(レッドドラゴン)は、残った右目でじっとこちらを見つめている。


 カリアは、呼吸を整えようとしていた。次の一撃が、自分の最期の一撃だろう。勝てずとも、見事に死んでみせる。それが戦士の矜持だ。


 ――雄々しく死ぬ。戦場の死は、戦士の誉れなのだから。


 長剣を持つ手に、力を込めた。

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