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1.勇者と聖女、爆誕(前編)

初投稿です

 辺境の農村の裏山。人が立ち入るのを禁じられているこの山を、駆け回る少年と少女がいた。


「あはははは! 楽しいね、ハナ!」


「うふふふふ! そうですわね、レン!」


 少年はガラクタのような錆びついた剣を、少女はそこらへんの木で作ったような杖を、それぞれぶんぶん振り回しながら、楽しそうに裏山を駆け回っていた。服装は、貧しい農家にありがちなツギハギだらけのものだが、丁寧に修繕されており、粗末な印象は受けない。


 山は荒れ果てており、人が歩くだけでも相当苦労しそうだが、二人は公園で遊んでいるかのように駆け回っていた。


「あ、レン! クマちゃんがいるわ!」


 レンと呼ばれた少年の先に、体長3mはある巨大な熊のような生物がいた。その目は血走り、獰猛に唸っており、人間への敵愾心をむき出しにしている。


「ハナ、ありがと! やっつけるね!」


 少年が、深く一歩を踏み込み、一気に熊のような生物へ接近してく。風や音を置き去りにした、飛翔するかのような一歩だった。


聖剣(エクスカリバー)!」


 少年の剣が、熊の胴体を両断した。熊の胴体は、少年の持つ剣の4倍ほどの大きさがあったが、まるで最初から二つに分かれていたように、綺麗に両断された。


 それは、この世界のおとぎ話でよく語られる、『勇者』だけが使える『全てを両断する聖剣』の光景によく似ていた。


「いいですわね! レンのクマちゃん退治、いつ見ても見事ですわ! ……あれ、レン、どうしましたの?」


 レンが足をおさえながらうずくまっていた。


「あいたたた……。ごめん、ハナ、これ治してくれない?」


 レンと呼ばれた少年の右足が折れ曲がり、脛の部分から骨が突き出ていた。高速で熊まで跳躍したが、着地するのに失敗したようだ。レンは痛そうに顔をしかめている。


「あら、たいへん! レン、じっとしていて……。 治癒(パーフェクトヒール)


 ハナと呼ばれた少女が、杖に祈るようなしぐさをした。すると、ハナを中心に淡い緑色の空間が広がり、それがレンに達すると、足の怪我が数秒で治癒されていく。


 それは、この世界のおとぎ話でよく語られる、『聖女』だけが使える『全てを癒す奇跡』の光景によく似ていた。


 レンはこの治癒を受けることに慣れているようで、元に戻った足を撫でながら、言った。


「ありがと、ハナ。たくさん遊んだし、そろそろ帰ろうか。孤児寮長のおばちゃんに怒られちゃうから」


「そうですわね、レン。農作業をサボって、立ち入り禁止の裏山で遊んでたなんてバレたら、きっと今日のお夕飯は抜きになっちゃいますわ」


「うん、暗くなる前に帰って合流して、ずっと農作業してたって誤魔化そう――あ、カブトムシだ!」


「え!? カブトムシ!?」


「うん、あっちにいた! ハナ、捕まえよう!」


「レン、カブトムシを絶対捕まえますわよー!」


 そうして、二人はカブトムシを捕まえに裏山の奥深くまで探索をすることになり、孤児寮に帰ったのはすっかり日が暮れてからだった。そして、農作業をサボったこと、立ち入り禁止の裏山で遊んでいたことは、二人が隠す必要もなく、寮長のおばちゃんにバレていた。


 二人は、まぎれもなく勇者と聖女としての力を持っているように見えるのだが、やや頭が悪いのか、二人はそれに気づいていなかった。



 ◇◇◇



「だから、裏山には近づかないようにって何度も言っているでしょう! 先月なんか、熊の魔物が表れて兵隊さんが5人も亡くなってしまったんですよ!?」


 食堂に、寮長のおばちゃんの説教が響いていた。レンとハナは直立し、うつむいてそれを聞いている。夕食の時間はもう終わったが、二人は夕食にありつけずにいた。


「レン、ハナ。あなたは孤児寮の最年長なんですよ? お願いだから、みんなの手本になってください。農作業もせずに、危ない場所に立ち入って遊んで、年下の子供たちが真似したらどうするんですか!?」


 レンとハナは、振る舞いと思考は子供っぽいが、実は孤児寮の中だと最年長だった。通常、12~13歳で寮を出て自立するが、二人は15歳になるのにまだ寮にいた。寮長のおばちゃんは、二人が寮を出て自立した生活ができるのか不安だった。二人は、寮長のおばちゃんに怒られるのは嫌だが、おばちゃんのご飯が美味しいので寮にいてもいいかなと思っていた。


「こんな時代だからこそ、もっとちゃんとした大人になってくれないと……。一昨年に寮を出たジャイボスも、手紙でレンとハナを心配してましたよ」


 レンとハナは、寮長のおばちゃんの説教に慣れていた。むしろ、人生の大半の時間を説教されるのに費やしたと言ってもよい。二人はいつも通り、半目でうつむきながら、説教の声を右から左に聞き流し、ただただこの時間が終わるのを待っていた。


「……ということで、もうこんなことはないようにしてくださいね。わかりましたか?」


 二人は、説教が終わったことを認識し、いつもの返事を行う。


「うん、わかったよ!」


「心に刻み付けましたわ!」


「まったく、いつもこうなんだから……。さあ、シチューを温めなおしてるから早く召し上がりなさい」


「え!? シチュー!? 今日はすごいね、ハナ!」


「ええ、レン! ご馳走ですの!」


 二人はいきなり元気になり、一瞬で食堂のテーブルに着席し、よだれを垂らしながらシチューが来るのを待った。そして、寮長のおばちゃんがよそってくれたシチューを、口のまわりをべちょべちょにしながらガツガツ食べた。


「うまい、うますぎる!」


「おばちゃんのシチューが世界でいちばん美味しいですわ!」


「まあ、本当にいつも美味しそうに食べるのよねぇ……。明日は兵士試験だから、食べたら早く寝るんですよ」


「そうだ、明日は兵士試験だった!」


「今年こそ合格してみせますわ!」


 レンとハナは、シチューをモリモリ食べながら、兵士試験をどう攻略するかについて語りだした。


 二人は、本当に明るい良い子に育ってくれた。寮長のおばちゃんは、皿を洗いながら、しみじみとそう思った。幼いころに家族を魔物に殺され、この孤児寮に送られてきた。そんな過去を忘れさせるほどに、レンは正義感の強い子に育ち、ハナは優しい心を持った子に育った。


 もちろん、心配なところもある。二人は多少、というかかなり知恵が足りない。孤児寮の10歳の子の方が、二人よりよっぽど大人びていた。ただ寮長のおばちゃんは、なるべく長く二人の面倒を見てあげようと思っていた。


「うーん、もう食べれませんわ……」


「眠くなってきちゃった……」


 おなか一杯になった二人が、ウトウトしはじめた。これから二人を水浴びさせ、着替えさせ、ベッドに連れて行く必要がある。おばちゃんは、その手間を想像し、苦笑しながら二人を水場に連れて行った。



 ◇◇◇



 深夜。村外れの茂みに、白いもやのようなものが漂っていた。


『――定期確認を開始。…………魔王の出現を確認。……勇者および聖女の出現を確認』


 無機質な音声が、白いもやから発せられている。


『”支配型魔王出現による人類滅亡シナリオ”の進行中と推定。プロトコル”勇者と聖女”に基づき、行動を開始します』


 白いもやが集まり、何か形を作ろうとしている。


『注意。魔王の出現が想定より大幅に遅れたため、エネルギー残量が少ない状態です。神託は速やかに行われる必要があります』


 白いもやは、大きな翼を持った女神のような形に変化した。


『プロトコル”勇者と聖女”の最重要イベント、”女神の神託”を開始します』


 女神のような白いもやが、漆黒の夜に羽ばたいていった。

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