結
「アルカディア、またデートしようね」
「もちろん。気をつけて帰るんだよ」
僕はドラヘルと別れて帰路へ。
「……ドラヘル……黒竜……黒い竜なんて別に珍しいことじゃないけど、なんなんだろう……きっと、疲れてるんだな。早く帰って寝よう」
「「アルカディア!! 初デートはどうだった!?」」
「うわぁ、二人揃って何さ。うまくいった、と思うよ。彼女も喜んでたし」
「うおおおおおおおおお!!!」
「くっ、あまりの嬉しさにエルドラドが漲っている!!」
「兄さんはいちいち過剰なんだよ」
「そんなところで、アルカディア。大丈夫か?」
「え?」
「明らかに疲れているよ」
「あぁ、初デートにはしゃぎすぎたせいかもね」
ズキッ
「……ぅ」
「アルカディア!?」
「……ごめん、ちょっとしばらく休むよ」
「おう、無理すんじゃねぇぞ」
―――――――――――――――――――
「それでね、あんなことがあってねアルカディア!」
「うん」
僕はその日も彼女の話を真摯に受け止めていた。
(………あれ)
視界がぼやけていく、身体がフラフラする………
「………はっ!?」
「アルカディア……げほ」
僕は気がついたら……彼女の近くで倒れていた。とっさに彼女から距離をとる。
「僕は、何を?」
「急に気を失ってさ、心配したんだよ!」
「………ねぇ、君……腕どうしたの?」
「うん? ああ! アルカディアのことが心配すぎて腕咬んじゃった!」
「君は興奮すると咬むの?」
「癖なのかも。それよりアルカディアは大丈夫?」
「うん……今のところは」
「そっか、良かった。あのね、アルカディア。今日は僕の家に泊まりに来て欲しいんだ!」
「え、良いの?」
「うん、もっとアルカディアと一緒に居たいから」
「わかった、じゃあお邪魔させてもらうね」
「わー、ちゃんと手入れしてるんだね」
「偉いでしょ! ベッドはここだよ!」
「柔らかい葉っぱだ」
「僕のお気に入り!」
「……ねぇ、ドラヘル」
「?」
「その腕………」
「興奮して咬んじゃった!」
「……最近さ、ドラヘルのことを考えると頭痛がするんだ。君のことは大好きなのに、何でだろうって思ってる。ドラヘル、正直に答えてほしい。君は……もしかして、僕のことを知っている?」
「…………」
「ドラヘル、答えてほしい」
「……それは唐突だった。ある日家に帰ると家は火事になってた。家族はみんな炎に飲まれてた。僕だけが生き残った。空を見たら、飛んでたんだ。白い龍が」
「………………ああ」
嘘だ。
嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!!!
「まさか、君は、君は!!?」
「僕は、あの時の龍がアルカディアだなんて信じたくない。だって、少なくとも僕の知っているアルカディアはとても優しい龍だから」
「僕は……なんてことを……!!!」
「大丈夫だよ、僕はアルカディアのことを嫌いになんかならないよ。仮に、僕の家族を殺したとしてもね」
「なんで、なんでなんでなんで!!!」
「……僕はずっと、アルカディアの味方だよ」
「………ドラヘル」
「ん」
「もし、僕が君を殺しそうになったら、僕を殺して。僕は、君を殺したくない。君を殺すくらいなら、僕は死ぬ」
「……わかった」
それからしばらくが経った。頑張って、この衝動を抑え続けた。けれど、限界というものは来るもので
「アルカディア、大丈夫? 具合悪い?」
「……そうかもしれない。今日は帰るよ」
「じゃあ別れ道までついてく!」
「ダメ」
「ダメなの? どうして?」
「心配してくれるのはわかる。でも、ダメなんだ……」
「アルカディア、大丈夫? 汗凄いよ?」
「……やめろ……近寄るな……」
「アルカディア?」
「逃げろ……はやく……ゥ、ァァァァァァァッ!!!」
「!!」
限界が来たみたいだ。
お願いだ、ドラヘル。僕を、殺してくれ。
こんな、最低な彼氏でごめん。
でも、君が大好きなのは本当だよ。
ごめんね、本当に、ごめんね。
「……………ぁ、あれ、僕何を……」
「………」
「……ドラヘル?」
意識はない。
「まさか、僕が、なんで、なんで抵抗しなかった!? 嘘だろ、返事してくれ、僕が、ドラヘルを、なんで、どうして、僕は君が好きなのに、なんで、なんで」
「………ッ、はぁ、ああ、死ぬかと思った」
「ドラヘル!!」
「アルカディア、元に戻ったんだね。良かった」
「ドラヘル、なんで僕を殺さなかった!!」
「アルカディアが僕を殺したくないように、僕もアルカディアを殺したくないから。大好きだよ、アルカディア」
「………ドラヘル、話すべきことができた」
「うん、わかった。真面目に聞く」
僕は一呼吸置いて言う。
「僕は昔、たくさん誰かを殺した。種族関係なしに。昔は、力に飢えていて、力が欲しくて、たくさん食うためにたくさん殺した。ごめんね、ごめんね、こんなことのために君の家族を殺してごめんね……」
「大丈夫だよ」
「大丈夫、なわけないだろ! 自分の家族が殺されたっていうのに、どうして僕を……」
「だって僕、家族から嫌われてたから」
「……え?」
「僕の種族、ニーズヘッグはね、邪竜なんだよ。たびたび誰かを襲っては魂ごと食べちゃうんだ。怒ったら手がつけられないし、困ったものだった」
「……どうして、君は嫌われていたの?」
「一番弱かったから。だから、邪険に扱われてた、ただの穀潰しだったんだ。弱いからいっつもストレスの吐口に殴られてた。だからね、こんなこと言うとアレかもしれないけど、僕の家族を、殺してくれて感謝してる」
「ドラヘル……」
「僕は家族が理解できなかった。魂なんか食べなくたって生きていけるのに。家族は僕が嫌いだったし、僕も家族が嫌いだった。だから、どうでもいいよ家族なんて」
「……………ドラヘル」
「………」
「しばらく、距離を置こう。あの時のように、君を手にかけたくないから」
「わかった。いつまでも待ってるよ」
「……僕が、まともになれたら。家族になってくれる?」
「……もちろん!」
それを聞いた僕は安心して、空へと羽撃く。そして再会できたら、家族になろう。君が邪険に思われない家族になるよう、努力するよ。