#04
岩石ゴブリンの攻撃は全てかわせないとリンゴが諦めかけたとき、岩石ゴブリン達の背後からドスン、ドスンと大きな足音が近づいて来た。
「きゃー。岩石ゴブリンに加えて、さらに巨大な敵も現れるなんてヤバいっすね!こんな展開ありえんっちゃ!」
目の前にいた岩石ゴブリンたちは、突然リンゴの左右に分かれた。その瞬間、リンゴは気付いた。自分が立っている場所は袋小路ではなく、実はT字路だったことを。左右の通路は、正面の通路よりも暗がりになっていたので壁と勘違いしていたのだ。そして、岩石ゴブリンたちは、そのまま左右の通路に駆けて逃げ去っていった。
「ふう、ちょっとだけピンチを脱した感じだけど、このあとってデカい敵が前から来るんだよなぁ……やっぱりまだまだピンチのままってことだよねぇ……」
そう言いながらもリンゴは気を取り直して、剣を握りしめた。なんとかAPは回復しているので風の一閃は使えそうだが、単体の敵に範囲攻撃を仕掛けてもダメージはあまり期待できないだろう。ただ、回避率が上がるから敵の横をすり抜けて逃げ出すチャンスはありそうだと考えていた。
「あれ?足音がしてからしばらく経つけど、敵さんがいつまで経っても姿を見せないっちゃ?それに……足音ももうしないし……なんで??」
「クスクスクス」足音の代わりに押し殺した笑い声が聞こえてきた。そしてその声が近づくにつれて色白の美しいエルフが姿を現した。金色のシルキーストレートヘアーは彼女の優美な姿を一層引き立てていた。鮮やかすぎる髪の色と、とがった耳の形を除けば、現実世界の千絵のまんまである。
「レクチエー!」
リンゴはレクチエに駆け寄っていった。
「ねぇ、ここに来る途中、でっかい敵に会わなかった?」
「そんな敵には会いませんでしたよ」
「そっかぁ。さっきすごい足音がしたんだよ」
「それってもしかしてこんな音でしたか?」
ドスン、ドスンとさっき聞いたのと同じような足音がした。
「そう。これ!今の音!!ってあの足音はレクチエが出してたの?」
「はい。そうですわ。吟遊詩人は楽器をつかわなくても自分の声を楽器のように扱えるんですよ」
ニコリとレクチエは微笑んだ。
「もー。だったら、もっとはやく声をかけてくれたらドキドキしなくて済んだのに!!」
とリンゴが文句を言うとレクチエにたしなめられた。
「一人で暴走したことのちょっとしたお仕置きですわ。ふふ」
二人が思わず話し込んでいると、さっき逃げ出していった岩石ゴブリン達がT字路に戻ってきた。そしてリンゴとレクチエは左右から挟み込まれる状態になっていた。
「やっばっ……」
彼らも巨大な敵が現れないことに気づいたのだった。