#02
放課後の学校の一角にある情報学習室。そこには6人の女子高生が集まっていた。美しい薔薇色の午後の太陽が窓から差し込み、部屋を優しく染めている。部室の中では興奮が渦巻いていた。
「やっとここまで来たっちゃ!さぁ、冒険のはじまりだっちゃ!」
鮮やかな瞳を持つ、リーダーシップ溢れる少女の凜が言った。
「ええ。本当にやっとですわね。本当に楽しみですわ」
明るい笑顔を浮かべながら上品な佇まいの千絵が手を叩いた。
「あー。さすがに6台分の設定は骨が折れるのですー。でもなんとか無事にみんなと一緒に遊べそうで良かったのですー」
と言いながら水花が微笑む。
「こんな難しいことができるなんて水花はエラい娘だにゃぁ」
と自称佐渡南部訛りで話す夏季が水花を褒めた。
「夏季のその話し方は本当に佐渡南部の方言なの?微妙に違う気がするんだよねぇ……」
と眼鏡を掛けた美少女、輝光が真面目な顔で考え込んだ。
「僕も周りであまり聞いたことないんだよね。夏季の喋り方はホント怪しい。ただ、凜の喋り方はガチの佐渡弁だよね」
ボーイッシュな美織がクスクス笑った。
「だって佐渡生まれの佐渡育ちだもん。佐渡弁をあんまり使わないあんた達の方が変だっちゃ」
からかわれたことを意にも介さず凜はニコニコしながらVRゴーグルを装着した。
「あー。あたしもゴーグルつけるのですー」
と水花が慌てながら装着しはじめ、他の4人もVRゴーグルを装着した。
6人はそれぞれがVRMMORPG「Records of SADO Island War 」へのログインを待っていた。
「おー。キャラクタークリエイトだぁ」
凜のVRゴーグルには「Name」の欄が表示されている。
「いつもの名前、っと。Ring-Goと書いてリンゴ。えへへ。えーっと次は種族か。何にしよっかなぁ。うーん。迷う……」
ディスプレイには種族の名前と外見が表示されている。
「ヒューマン、エルフ、ダークエルフ、ハーフリング。えーっと、ハーフリングって?」
凜の言葉に反応して眼前にハーフリングの説明文が表示され、ヘッドセットのスピーカーからナビゲーション音声が流れ始めた。
「ハーフリングは身長120cm前後の小柄な種族です。身軽かつ敏捷に行動するのが特徴ですが、身体が頑丈な亜種もいます」
「わっ。急に声がするから驚いた。へー。小柄でいとしげだなぁ。それからドワーフ。うんうん。これは知ってる。あとはシルキー?シルキーは知らないな。どういう種族なの?」
「シルキーは妖精と精霊の中間ぐらいの人型の種族です。筋力が低い代わりに魔力が強いので魔法系の職業に向いています」
「なるほどなぁ。でも私は前衛職やりたいからな。うーん。どの種族にするか悩むなぁ」
と呟くとまたナビゲーションが聞こえてきた。
「このゲームでは種族の組み合わせも可能です。例えばヒューマンとエルフを組み合わせるとハーフエルフになります。その場合それぞれの長所が若干下がる代わり、長所の数が少し増えるのでハーフエルフだとヒューマンより筋力や耐久力が少し下がる代わりに敏捷性や魔力が少し高くなります」
「そうなのね。あ、ハーフエルフのステータス結構あたし好みだ!よし。これにしよう」
凜はハーフエルフを選んだ。
外見はリアルの自分と重ね、髪型はミディアムボブにした。髪の毛の色はリアルのやや赤みがかった茶色ではなく、林檎のような赤にした。そして、瞳の色も赤だった。
「職業は当然剣士、と。目指すはデュエリスト・ビューティーだっちゃ!」
凜は勝手な二つ名を口にして、ヴァルゲアにあるサ・ド・アイランドに最初の一歩を踏み出した。