第9話
「さて、早速だけど、あなたにはこれから異世界に行ってもらうわ。」
魔女はリクライニングチェアから起き上がるとこちらに近づきながら言った。
「あの、そもそもどうやって異世界に行けばいいんですか。」
俺が異世界に行くことがもう確定していることで話が進んでいるが、肝心の異世界に行く手段が全く見当が付かなかった。
「こっちの部屋に来て。」
魔女は左側を指差し、そちらに向かって歩き出した。その先にはさらにドアが一つあった。部屋に入った時にはその辺りは絵画があったことは覚えているが、ドアは無かった様な気がした。
すでにオウルが先回りをし、ドアを開けていた。そのまま魔女が進んでいくので、俺もあとに続いた。
入った部屋は先ほどまでいた部屋に比べ小さく、窓が無い正方形の部屋だった。部屋の中央には魔法陣のようなものがあり、四隅にローソクが立っていた。
「魔法陣の真ん中に立って。」
俺は魔女に促され、魔法陣に入っていった。なぜこの魔法陣が異世界に繋がるのか全く分からない。しかし、死んだ人間を生き返らせるような魔法が使える人だ。きっとこの魔法陣から魔法の力で異世界に転移されるのだろうと考えた。
異世界なんてありえない!心の片隅にあった俺の最後の常識はついに崩れ去った。
「・・・じゃあ始めるけど、覚悟は良い?」
魔女はすでに杖を取り出して構えながら言った。
「はい、もう覚悟はできてます。いつでもOKです!」
俺は全てを諦め、異世界に行くことにした。ええい!後はなるようになるだ!
「わかった。じゃあ、始める。」
魔女はそれだけ言うと呪文のようなものを唱え始めた。日本語ではないし、英語でも無いことは確かだ。今まで聞いたことがない言語だった。
詠唱が始まるとすぐに床の魔法陣が光始めた。俺の心臓は光が強くなるにつれバクバクと強く鼓動し始めた。
しばらくすると俺の体自体が光始めた。どうやらこのまま異世界に転移されるようだ。
「あなたを信じてる。頑張って。」
既に詠唱を終えた魔女が小さく呟いた。小さな声だったが俺はちゃんと聞くことができた。
光は更に強くなっていく。いよいよ異世界転移が始まるようだ。その時ふと俺は気づいた。
杖を持っている魔女の手の指に指輪があることに。何だかその指輪が強く印象に残った。
光は最後に爆発するようにはじけた。俺の体にジェットコースターが落ち始めるような衝撃が走る。まるでどこかに吹き飛ばされているかのようだった。
「・・・うわあっ!びっくりした!」
体の衝撃がなくなり、俺が目を開けるとそこは見知らぬ森の中だった。
どうやら俺は本当に異世界に来てしまったようだ。