第39話
「・・・タケル様。」
「・・・はい。」
俺は一言だけ返事をしてエルザの言葉を待った。同時に心臓の鼓動が一気に速くなっていくのを感じた。
「タケル様も目的があってここにいると言っていましたよね?しかもその理由は身勝手なものだとも。」
「・・・ん?え、あ、はい。確かにそう言いました。」
意外なエルザの話の切り出し方に俺は少し戸惑いながら答えた。
意外・・・?なんで意外だと思った?俺はエルザからどんな話をされたかったのだろうか。
「そして、それは必ず成し遂げなければならないものだともおっしゃっていました。」
「はい、その通りです。」
エルザは真剣な表情で話し続けてくれているが、俺はいまいち話の趣旨が分からないでいた。
「そうであれば、私もここで誓わせてください。タケル様がやろうとしていることで、世界中がタケル様の敵になってしまったとしても、私だけがタケル様の味方で居続けるということを。」
「タケル様、私はどんなことがあっても、あなたの味方です。絶対にです。」
エルザは目を閉じながら両手で祈るようなしぐさをして言った。
俺はエルザに対して何も答えられなかった。
「タケル様、何があってもくじけないでください!きっとタケル様にとってその目的は何よりも大切なものなのでしょう?私はタケル様がそれを成し遂げられると信じております。」
「どんなことがあっても絶対に諦めないでください!私はずっとあなたの味方であり続けますから。」
エルザは目を開き、真剣な表情のまま話し終えた。
俺はエルザの言葉に体に雷が流れたような衝撃を受けた。
俺の目的・・・この世界の魔王を倒すこと、そうしなければ、魔女との契約を果たせず、再びルカが死んでしまうのだ。
だがここ数日の俺は、そんなことも忘れてしまっていた。
目的を達成することよりエルザと過ごす日々がずっと続くことばかりを願っていたのだ。
心を覆っていた霧の中にある思いに気づかされると同時に、俺は自分自身の浅はかさに嫌悪した。
俺は魔女の奴隷なんだ。人並みに幸せになんかなれるはずがない。なのにルカのことも忘れてそれを欲してしまっていた。
俺はその場で大きく深呼吸してから、両手で自分の両頬を思いっきり2回たたいた。
「・・・タケル様!?急にどうしたのですか!?」
エルザは驚きながら心配そうに俺に声を掛けた。
「エルザさん、お礼を言わないといけないのはこっちの方です。おかげで目が覚めました。」
俺はしっかりとエルザの目を見て言った。ここ数日エルザの顔を見ると心臓の鼓動が速くなるような感覚はもうなくなっていた。
「俺頑張ります!何があっても俺がやるべきことを成し遂げてみせますよ!だからエルザさん、お互いに頑張りましょう!」
俺は話し終えるとともにエルザに手を差し出した。
「はい!でもタケル様、無理はしないでくださいね?命が第一ですよ。」
エルザは微笑みながら俺の手を取った。
この先、俺たちがこうして一緒に過ごす機会はもうないだろう。後はお互いに目的に向かってただひたすらに進んでいくだけなのだから。
こうして俺とエルザの研究の日々は終わりを告げた。




