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異世界と魔女  作者: 氷魚
プロローグ
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第8話

オウルが戻ってくるまで俺はコーヒーを飲みながら待ち続けた。壁にかかっている謎めいた絵をぼんやり眺めているうちに、気づけば30分ぐらい経っていた。するとオウルが店の奥から突然戻ってきた。


「主様への報告が終わりました。」


オウルはカウンターの止まり木に止まって、キリっとした顔で話を続けた。


「次は主様と直に会っていただきます。私について来てください。」


オウルはそれだけ言うとすぐに飛び始め、カウンターの奥へと入っていった。


俺もすぐに席を立ち、オウルの後を追った。


カウンターの奥には部屋があると思っていたが、一本の通路があるだけだった。しかしこの通路が長い。20~30mはあるんじゃないのだろうか。この店の外観は古風な洋館のようだったが、建物の奥行きはそれほどあるように見えなかった。不思議な力で空間が歪んでいるのだろうか。ここでは何でも起こるような気がした。


通路を渡りきるとドアが一つあった。飛んでいたオウルはこちらに振り向き、姿勢を正した。


「この先に主様がいらっしゃいます。失礼の無いように。」


それだけ言うと俺の返事を聞くことなく、コホンと咳ばらいをし、ドアをノックした。羽でドアがノックできることが少し不思議だった。


「どうぞ。」


抑揚のない声だったが、俺はすぐにあの仮面の女性であることが分かった。


「失礼します。」


オウルがドアを開けると、そこは10畳ぐらいの部屋があり、壁にはお店にあった様な変わったオブジェや絵画があり、奥には使われていない暖炉があった。部屋の中央にはテーブルとリクライニングチェアがあり、そこにはティーカップで飲み物を飲みながら、本を読んでくつろいでいる女性がいた。忘れもしない。あの仮面の女性だった。


「さあ、中に入って挨拶をなさい!」


オウルに促され、部屋に入って2,3歩進み、そこで止まった。


仮面の女性はこちらを見ることはなく、ずっと本を読んだままだった。俺は、気まずいような恐れ多いような、よく分からない感覚に陥り、数秒間、無言で固まってしまった。


「何をしているのです!早く挨拶を!」


「あ、はい!俺はタケルって言います。昨日は妹を助けてもらって、本当にありがとうございました。」


俺は、オウルに促されながら挨拶をし、前日に言いそびれたお礼の言葉を伝えた。


「お礼なんていらないわ。必要なのはあなたが私に対価を払うということだけ。」


俺の言葉で初めて女性は本から目を離し、俺の方に顔を向けて言った。女性の表情は相変わらず分からないが、何となく冷たいような怒っているような気がしてしまい、早くこの場から逃げ出したいと思い始めた。


「あーえっと、対価っていうのは、俺があなたの奴隷になって異世界に行って魔王を倒すってことで合ってます?」


自分で言っておいて馬鹿みたいなセリフだと思い、相手が怒り出すんじゃないかと俺は不安になった。いやしかし、オウルから聞いたことをそのまま言っただけだし、これで怒られたら理不尽だろう。


「その通りよ。理解が早くて助かるわ。」


仮面の女性が俺の話を肯定した。やっぱり異世界に行くのは確定なんだなと思うと、いよいよ不安が大きくなってきた。


「でもオウルにも言いましたけど、俺はただの中学生で魔王倒すとか無理だと思いますよ。」


「あなたなら大丈夫。私にはわかるから。」


女性は相変わらずの抑揚でピシャリと言い放った。


何がわかるというのだろうか。正直もっと反論してやりたいところだったが、相手の機嫌を損ねてもこちらが割を食うだけなような気がするので、この辺りで諦め、俺は覚悟を決めることにした。


「分かりました。妹の恩人の頼みです。やれるだけやってみます。」


「うん。何か私に聞きたいことはある?」


女性は読んでいた本を完全に閉じ、そのままテーブルに置きながら言った。


質問と言われても、異世界のことをどんなふうに質問していいか分からないと俺は感じた。他に気になることと言えば・・・。


「そういえば、名前は何て言うんですか。話しかけるとき何てお呼びしていいか分からないと困ると思うんで。」


「コ、コラ!言葉を慎みなさい!」


脇でおとなしくしていたオウルが突然怒鳴ってきた。名前を聞くことってそんなに無礼なことなのだろうか?


「・・・ごめんなさい。名前は名乗れないの。そういう決まりがあってね。」


決まりってことは、魔法を使う人は本名を知られちゃいけないみたいのがあるのだろうか。俺は仮面の女性の返答にとりあえず納得することにした。


「そういうことなら大丈夫です。名前は聞きません。何も知らなかったとは言え、失礼しました。」


俺は少し頭を下げて謝意を示しながら言った。


「別に気にしてないわ。」


仮面の女性は淡々と言った。表情は見えないが本当に怒っていないことは俺にもちゃんと伝わってきた。しかし、少し気まずい空気になってしまい、沈黙が数秒続いた。


「・・・そうね、遠い昔に私を魔女と呼ぶ人がいたわ。だから私のことは“魔女”でいいわ。」


「“魔女”ですか・・・」


魔女ってそのままだな!フクロウもオウルだし、もしかしてこの人、ネーミングセンスが無い人なのかもしれない。


「わかりました!これからよろしくお願いします。魔女さん!」


俺はピシッと姿勢を正して魔女に言った。魔女の表情は仮面でわからないが、少しだけ笑ってくれたような気がした。


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