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異世界と魔女  作者: 氷魚
第一部 異世界と勇者 第三章
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第24話

「・・・」


倒したポイズンエイプからエルザは無言で爪の採取を行っていた。本来の目的であるポイズンエイプの持つ毒を手に入れるという目的がようやく達成されそうであった。


俺自身も特に何かをしゃべるということはなく、周りへの警戒を続けていた。まだ残り一匹のポイズンエイプと特殊個体が姿を現していないため、気を緩めるわけにはいかなかった。


俺たちはお互いに言葉を発することなく、ただひたすらそれぞれの仕事を行った。それは疲労のためなのか、それとも先ほどのことが原因なのか俺にはよく分からなかった。


・・・


3匹から毒の爪を採取した俺とエルザはもう一つのナヌの実を仕掛けた場所に向かった。


そこの焚火は既に消えてしまっていてフライパンの上のナヌの実も不完全に燃えた形で残っていた。


しかし、焚火の近くに一匹のモンスターがいた。残り一匹の通常個体のポイズンエイプであった。フライパンのナヌの実は完全に焼けた訳では無かったが、香りを放つという役割は十分に果たしてくれていた。


ポイズンエイプは焚火から少し離れた場所に置いてあったナヌの実をむさぼるように食べていた。そのため、俺たちの存在にはまだ気づいていないようだった。


俺は音を立てずにポイズンエイプの背後に詰め寄り、その背中を切りつけた。


ポイズンエイプはそのまま前に倒れ、俺はとどめとしてその首を切り落とした。


・・・


「・・・ようやく終わりましたね。」


最後のポイズンエイプから爪を採取したエルザが言った。ポイズンエイプに襲われかけてからずっと無言であったが、その口調はいつもと変わらないように思えた。


「・・・ええ、そうですね。」


エルザに対し俺は答えた。しかし、それ以上の言葉が続かず、俺はエルザの方を見ることも出来なかった。


「タケル様のおかげで、念願だったポイズンエイプの爪を手に入れることができました。このような所まで一緒に来てくれた上、さらに私のことを何度も助けてくださり、本当に感謝しております。」


エルザは話しながら俺に向かって頭を下げた。


「あ、いえ、俺は別に大したことなんてしてないですから。」


俺は相変わらずエルザの方を見れないまま、しどろもどろに答えた。なんでいまさらエルザに対してこんなにも緊張してしまうのか自分のことなのに全く分からなかった。


「・・・タケル様。」


「・・・はい。」


俺は意を決してエルザの方を見て答えた。エルザは顔を上げ、普段は見せないような深刻な表情をしていた。


ああ、やっぱりさっきのことを聞いてくるつもりなんだ。


俺自身も何でいきなりエルザのことを抱きしめてしまったのか分からない。エルザが助かった安心感みたいなものを確かめたいという思いはあったが、相手の許可も無く、やって良いことではなかったはずだ。


俺はエルザの信頼を失ってしまったのかもしれない。それに対する罰は受け入れなければならないだろう。


「大きい方のポイズンエイプも倒さなければならないかもしれません。」


「え?・・・ああ、そっちですか。」


どんな言葉が投げかけられるのか審判の時を待っていた俺に対し、エルザの言葉は意外なものだった。


・・・いや、意外でもなんでもないか。今考えるべき最優先事項は特殊個体のポイズンエイプのことだ。


「ん?そっちとはなんでしょうか?」


「あ、いえ、何でもないです。それで特殊個体の話ですよね?」


俺の思いとは裏腹に何のことだか分かっていないエルザは首をかしげていたので、俺は無理やり、話題を元に戻した。


「はい、その話です。あれを無視することはできないと思います。」


「うーん・・・」


エルザは真剣な表情で語ってくるが、俺はその提案にいまいち乗り気になれなかった。


「当初の目的であるポイズンエイプの爪はもう手に入れましたし、わざわざ危険を冒してまで未知数のモンスターと戦う理由は無いと思うのですが・・・」


俺はともかく、エルザは慣れない森での行軍に加え、モンスターに襲われたことによる精神的負担から、体力も心も限界なはずであった。今は一刻も早く森から抜け出すことを優先したい。


「これもフォレストエイプの例となりますが、彼らは仲間意識が強いモンスターです。もし餌となるナヌの実の採取に向かった仲間がいつまでも戻らないとなれば、リーダー格の特殊個体も動き出す可能性が高いです。」


「動き出した特殊個体は仲間が死んだことに気が付くでしょう。そしてその犯人もすぐに突き止めるはずです。この森の中で不穏分子である私たちだということに。」


「そうなればあの特殊個体は私たちを追ってくるはずです。しかし、私たちも簡単には逃げることはできません。なぜなら私たちは”迷子”だからです!」


エルザは毒の効果について語るみたいに熱のこもった口調で理由を説明した。


確かにエルザの言う通りだった。俺たちは現在森の中で遭難中であり、今日中に森から出ることは難しいかもしれない。


一方で特殊個体にとってこの森は庭のようなものだろう。そうであれば、今特殊個体を無視して森を出ようとしても、相手からいずれ強襲される危険が大きいと考えられた。


「襲われるくらいなら先手を打った方が安全ということですね。」


俺はエルザの提案に納得し、特殊個体と戦う決意をした。


「はい、その通りです!後、ついでに特殊個体の持つ毒も出来れば持って帰りたいなと思いまして、通常のものとの違いも調べたいですし・・・」


エルザはバツの悪そうな表情で言った。


・・・そっちが本音だったのか。もうエルザは限界だろうと考えていたが、エルザはいついかなるときでも本物の研究者だった。


「分かりましたよ。完全に暗くなる前に特殊個体の元に行きましょう!」


俺はエルザの言葉に少し呆れながらも、いつものエルザらしさに安心することができた。

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