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異世界と魔女  作者: 氷魚
第一部 異世界と勇者 第三章
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第22話

「これで準備は整いましたね。」


俺は小声でエルザに言った。


「はい、何とかうまくいってくれると良いのですが・・・」


エルザは心配そうな顔で焚火を見ながら言った。


俺たちは今草むらに身を潜めながら、目の前の焚火の上で焼かれているナヌの実を見ていた。


ちょうど良いところに、ポイズンエイプの風上となり、かつ焚火が燃え移らない開けた場所があり、そこをおびき寄せる場所に俺たちは決めた。


もう一か所、ここから少し離れた場所も同様の条件であり、焚火とナヌの実を設置してきたが、そちらは放置していた。本当であれば、それぞれ別れ、焚火の面倒を見たいところだったが、エルザを一人にはできない。


そのため、もう一方の場所は、何かがあってうまくナヌの実が焼けてなくても仕方ないと妥協することにした。


そして現在、俺たちは二人でただじっとポイズンエイプが現れるのも待っていた。焼き始めてから数分でナヌの実の良い香りが辺りに漂い始めたので、後はこの香りがポイズンエイプのいる場所まで流れてくれることを待つだけだった。


・・・


ナヌの実を焼き始めてから30分程が経過した。俺はサッと焚火に近寄り、焦げてしまったナヌの実をどかし、新たなナヌの実を投入した。


今は何とか香りを常に維持しなければならない。そのため大量のナヌの実が必要だったということだ。


俺はナヌの実をフライパンに入れるとすぐにエルザのいる草むらに戻り、引き続き、ポイズンエイプが現れるのを待ち始めた。


・・・


作戦開始から1時間は過ぎただろうか。一向にポイズンエイプは現れなかった。


やはり、香りに釣られてやってくるというのは無理があったのだろうか。もしかするとポイズンエイプは鼻が利かないモンスターである可能性もあるわけで、仮説だらけのこの作戦の成功率なんてたかが知れたものだったのかもしれない。


「あの・・・」


俺はエルザに「もう諦めましょう」と声を掛けようとして止めた。


エルザは作戦開始から変わらない真剣な表情で焚火を見つめていた。まだエルザは諦めていなんていない。少しでも可能性があるならうまくいくと信じているようだった。


俺は心の中で気持ちを引き締め直し、引き続き焚火を見守り始めた。


・・・


さらに時は過ぎた。辺りもだんだん暗くなってきていた。しかしまだポイズンエイプは現れていなかった。


エルザもさすがに疲れてきているように見えた。


今この瞬間にも危険なモンスターが目の前に現れるかもしれない。その緊張によってエルザも既に限界のはずだ。


それにもう夜となる。全く知らない森の中で迎えるには危険な状況だった。しかも現在俺たちは遭難中でもあった。


「エルザさん、もう・・・!」


俺がエルザに作戦中止を言おうとした瞬間、目の前からモンスターの気配を感じた。この気配は間違いない。先ほど感じたポイズンエイプのものに近かった。


「エルザさん!奴らが来ます!しっかり隠れていてください!」


俺の緊張した声ですぐに状況を理解したのか、エルザは驚いた顔して無言で頷いた。


俺は瞬時に戦闘態勢に入って身を潜めた。しばらくすると、気配の元であるポイズンエイプが現れた。


数は2匹。想定していた数だった。作戦は上手くいったようだ。


ポイズンエイプたちは香りの元である焼かれたナヌの実を見つけたようだが、焚火の火が怖いらしく、焚火周りでうろうろし始めた。


これをチャンスと捉えた俺は一気にポイズンエイプに迫り、剣でまず一匹、その胴体を切り付けた。


「ギャア!」


ポイズンエイプは悲鳴を上げながらその場に倒れた。今の感触なら間違いなく絶命したはずだ。俺は倒れたポイズンエイプの生死を確認することなく、すぐにもう一方のポイズンエイプの方へと向いた。


「・・・キッ!」


もう一匹のポイズンエイプは何が起きたのかすぐに理解し、俺に対し敵意をむき出し、そのまま凶悪そうな爪を俺に向け、一直線に飛びかかってきた。


「・・・」


俺は難なくポイズンエイプの攻撃を避けた。やはりC級程度では速さも大したことはなさそうだ。攻撃をかわしたことでポイズンエイプの背中が隙だらけとなったため、俺は躊躇なくその背中を切りつけた。


「ギャ!」


背中を切られたポイズンエイプは短い悲鳴と共に倒れた。俺はすぐにポイズンエイプに近寄り、念のため首を切り落とした。


先に倒したポイズンエイプの首も同様に切り落とし、周りを見渡した。見える範囲ではもうモンスターはいなそうだ。


「・・・大丈夫ですか?」


エルザが草むらから小声で呼びかけてきた。作戦開始前にエルザと「合図があるまで隠れている」という取り決めをしていたのだが、それをちゃんと守っているようだ。


「ええ、もう大丈夫・・・!」


エルザにもう安全だと声を掛けようとした瞬間、俺は別のポイズンエイプの気配を感じた。


まだ奴らはいる。しかし、周りを見渡してもその姿は見えない。


「・・・タケル様?」


エルザは草むらから心配そうに声を掛けてきた。


その時だった。エルザが隠れている草むらの背後に突然、木の上からポイズンエイプが現れた。


「キッ、キッ!」


俺が気づいた時には、ポイズンエイプはその恐ろしい爪をエルザに振り下ろそうとしていた。

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