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異世界と魔女  作者: 氷魚
第一部 異世界と勇者 第三章
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第21話

俺とエルザはナヌの実を集めるため、森の中を探索していた。


ナヌの実はこの森では珍しいものでは無いらしく、歩いていればすぐに手に入るものだったが、エルザの作戦のためにはできるだけ多くのナヌの実が必要なため、時間を掛けて木の実の採取を行っていた。


なぜ突然木の実集めを始めたのかと言うと、話は少し前にさかのぼる。


・・・


「考えって何か思い付いたんですか?」


「はい。上手くいくかは分かりませんが、現在1か所にまとまっているポイズンエイプたちを引き離すことができるかもしれません。」


まるで毒の研究をしている時のような真剣な表情をしてエルザは言った。その表情を見て、俺は黙って言葉の続きを待った。


「ポイズンエイプはナヌの実を好んで食べる可能性が高いと思われます。それであれば、ナヌの実を集め、それを餌に彼らを個々におびき寄せて倒すのが一番安全ではないでしょうか?」


「まあ確かに・・・単体であればランクもC級ですし、問題無く倒せると思いますけど、そう簡単におびき寄せられますか?」


エルザの作戦は分かりやすいが、ナヌの実を大量に集めたところで、それをどうやってポイズンエイプたちに知らせるかが問題であった。ナヌの実を持ってポイズンエイプたちの目の前に姿を表すというやり方では本末転倒な気がする。


「仰る通り、ナヌの実を集めただけではおびき寄せることはできないでしょう。これは近い種であるフォレストエイプの場合ですが、彼らの鼻がとても利くという話は聞いたことがありません。そのため、木の実の匂いに引き寄せられるということは無いと思われます。」


「じゃあ、どうやってナヌの実を使っておびき寄せるつもりなんですか?」


俺はこの先が作戦の本題であると思い、エルザに続きを促した。


「ナヌの実を焼いて香りを強くすれば、その問題も解消できるはずです!」


「・・・ナヌの実を焼くんですか?」


俺はいまいちエルザの言わんとしていることが分からなかった。


「タケル様、ナヌの実は私たちが食べる料理にも使われているんですよ?私もよく料理で使うのですが、ナヌの実は焼くととても良い香りが広がるのです。」


エルザは誇らしげな顔をして言った。確かに何かの木の実が入っている料理を何度も食べたことがあった。それが今この辺りにあるナヌの実だった可能性もあったわけか。


というよりも、エルザが料理のできる人だとは思わなかったため、このような案が出ることはとても意外だった。


「・・・タケル様、今失礼なことを考えませんでしたか?」


「・・・すいません。話の続きをどうぞ。」


心を見透かされた俺は素直にエルザに謝り、話を本題に戻した。


「・・・コホン!それで作戦なのですが、ポイズンエイプがいる所から風上に2ヵ所でナヌの実を出来るだけ多く焼きます。それぞれの場所は少し離れていると良いですね。そしてその香りに釣られてきたポイズンエイプを各個撃破していくというものです。」


「作戦は分かりましたが、なぜ2ヵ所なんでしょうか?」


ポイズンエイプは小さいほうだけでも3、4匹はいた。できるだけ安全に行くなら、ポイズンエイプの数だけナヌの実を焼く場所を作った方が良いような気がした。


「・・・流石に直火で焼いてしまったらすぐに黒こげになってしまい、香りどころではありません。そのため、これを使いたいと思います。」


エルザはそこまで言うと、背負っていたリュックを降ろし、その中をガサコソし始めたと思うと、フライパンのようなものを2つ取り出した。


「今日のためにフライパンを持ってきたのですが、残念ながら2つしかないのです。そのため、おびき寄せるための場所は2ヵ所までとなります。」


「なんでフライパンなんて持ってきてるんですか!?」


両手にフライパンを持っているエルザに対し俺は思わず突っ込まずにはいられなかった。


「せっかく森に行くなら、私の得意な木の実料理をタケル様に披露したいなと考えていたんです。2品ほど作りたいものがあったので、フライパンも2つあればいいなと思って持ってきました。」


エルザはなぜか恥ずかしそうに顔を赤らめながら言った。


俺はエルザの話に思わず呆れてしまった。やっぱりエルザはピクニック気分でここに来ていたようだ。まあでも、今となってはポイズンエイプ攻略のカギになりそうではあるし、結果的には良かったということにしておこう。


「なるほど、おびき寄せる場所は2ヵ所が最大ということですね。小さいやつらは俺が見えた限りでは多くて4匹でしたし、それぞれの場所に2匹来るぐらいだったら問題無く対処できると思います。ただ・・・」


エルザの作戦は正直に言って、現状実行できるもので一番成功率が高いものだと思った。俺もいくつか案はあったが、これ以上のものは無いと思う。しかしまだ懸念があった。


「ただ、何でしょうか?」


「でかい奴、いわゆる”特殊個体”もこの作戦では一緒に来てしまうということです。あれの強さは正直読めない。あいつをどうにかしないと作戦は成功しないと思います。」


エルザの作戦では最大の問題点が解決できていなかった。特殊個体を何とかできない限り、ポイズンエイプを倒すことの危険は依然として大きかったからだ。


「ああ、それは問題無いと思いますよ。」


俺の懸念に対し、エルザは自信に満ちた表情で答え、そのまま話を続けた。


「これもフォレストエイプの特性なのですが、彼らは基本的に集団で行動します。そしてその中には必ずリーダーがいて、集団をまとめ上げているようです。そしてそのリーダーは食料集めといった仕事はやらない傾向にあります。」


「ということは今回の場合はあのでかい奴がリーダー格で、木の実の香りがしても取り巻きが動くだけってことですか?」


「はい、その可能性が高いと考えられます。」


可能性か・・・今の仮説も近い種であるフォレストエイプの話だし、ポイズンエイプには当てはまらないかもしれない。それに今回は特殊個体もいるため、想定外の行動をとってくることも予想された。


「もし、でかい奴が香りに釣られて来てしまったどうします?」


「その時は作戦を諦めてさっさと逃げましょう!何よりも命には替えられません。」


エルザは満面の笑みで俺の疑問に答えた。その答えにエルザらしい思いっきりの良さを感じた。


他にも心配事はあったが、その答えで俺は覚悟を決めることにした。


「分かりました!エルザさん、その作戦で行きましょう!」


・・・


「ナヌの実はこれくらいで良いんじゃないでしょうか?」


ナヌの実を集めながら先ほどまでの作戦会議を思い出していると、エルザが声を掛けてきた。


エルザが持ってきた布袋には思った以上のナヌの実が集まっていた。これだけの量を焼けば確かにその香りは瞬く間に広がるだろう。


ナヌの実を集めながら、それを焼くための安全地帯も見つけることができた。そこにおびき寄せさえすれば、後は俺の仕事だ。


「よし、それじゃあさっき見つけた安全地帯まで戻って早速作戦に取り掛かりましょう!」


俺とエルザはナヌの実を持って来た道を戻った。

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