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異世界と魔女  作者: 氷魚
第一部 異世界と勇者 第三章
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第18話

「・・・あの、エルザさん?言っている意味が全く分からないんですけど。」


俺は動揺を押さえながらエルザに言った。


「だから今いる場所がどこなのかさっぱり分からないんです。でもタケル様であればこの森の地理なんてもう把握されていらっしゃるんでしょう?」


エルザは俺の質問に答えながらきょとんとした顔をした。


俺の頭の中には焦りと混乱が広がっていったが、今はなんとかお互いに認識のすり合わせを行わなければならない。


「えっと、今いる場所が分からないだけであって、さっきカヴーフリムンとかいう花を見つけた場所まで戻れば、問題無く現在の位置が分かるってことですよね?」


「いいえ。私は森に入って数分で自分がどこにいるのかなんて分からなくなりましたから、先ほどの場所まで戻っても何も分かりませんよ。」


エルザは当然のことを説明するかのように言った。


「何を言っているんですか!?俺はエルザさんにずっと付いて来たんですよ!」


「え?私はずっとタケル様に付いてきたつもりでしたけど?」


「・・・」


エルザの言葉に俺は思わず絶句した。


「・・・すみません。タケル様はよく兵団の演習で森に行くと仰っていましたので、このような森でも、どう進むべきか分かっているものだとばかり・・・」


エルザは俺の今の表情を見て事態を把握したのか、バツの悪そうな顔をして言った。


「いやさすがに、初めて来た森をどう進むかなんて、俺の能力で分かる訳ないじゃないですか!」


エルザのことを責めたいわけでは無いが、状況のマズさから俺の言葉はとげとげしくなってしまった。


確かに森の移動は基本的に二人横並びで歩いていたから、どちらが先導するかなんて決めてはいなかったが、情報を手に入れてきたエルザが道を知っていて当然と思うの当たり前じゃないか。・・・そうだ、情報だ!


「そういえば、エルザさんは冒険者ギルドからポイズンエイプの情報を手に入れたんですよね!?その時に地図みたいなものも貰わなかったんですか?」


俺は一縷の望みに賭け、エルザに聞いた。


「・・・ああ、そうでした!地図を描いてもらったんですよ!ちょっと待っててくださいね・・・」


エルザは持っていたリュックを一旦降ろして、中身を確認し始めた。


俺はホッと胸を撫で下ろした。そんなものがあるなら最初から見せてくれれば良かったのに・・・まあ今は最悪の状態から脱せそうなだけ良しとするしかないか。


「・・・ありました!どうぞご確認ください!」


エルザは満面の笑みを浮かべながら俺に見つけた地図を渡してきた。


「はは、どうも・・・とりあえず、おおよその今の位置が分かる精度の地図だと良いんですけど・・・」


俺は地図を受け取り、折り畳まれた長方形の紙を開いて、中を確認した。


「・・・」


「どうですか?それで何とかなりそうですか?」


心配そうに聞いてくるエルザの言葉が入ってこないくらい、俺の頭は真っ白になっていた。


「エルザさん?これって冒険者ギルドでもらったんですよね?」


「はい。ああでも、冒険者ギルドというよりは、ギルドにいた人からもらいました。昔この森でポイズンエイプを倒したことがあるっていうので、詳しい話を聞かせてもらっていたら、地図まで描いてくれたんですよ!」


エルザは何の疑いも持っていない純粋な表情をして言った。


「・・・その人、信用できそうな人だったんですか?」


「まあ失礼ですね!私にだって信用できる人かそうじゃないかぐらい分かります!その人はとても親切な方でしたよ。・・・少しお酒に酔っていたような気がしましたけど。」


エルザは俺に反論しながらもだんだん自信が無くなってきたのか、俺から目線を外し気まずそうにし始めた。


そんなエルザを見ながら俺は確信した。エルザが手に入れた情報は全く信用できないものだ。


俺は改めて地図を見返した。


その地図はそもそも地図と呼べる代物では無かった。手書きで歪んだ円が描かれており、その真ん中あたりに点があって、点の横に「ココ」という言葉が添えられているだけのものだった。


「・・・」


俺は何も言葉が出てこなかった。こうなってくるとポイズンエイプがこの辺りにいるかも怪しい。それどころか森から出られるかも分からない。


「・・・タケル様、安心してください!実は私、あることに気が付いたんです!」


俺の顔色から状況の悪さを察したのか、エルザが変に明るく言ってきた。


「あることとは何です?」


「見てください、この木の実を!”ナヌの実”です!これがこの辺りにたくさんあって、しかもいくつか食べられた形跡もあったんです!」


エルザは木の実を俺に見せながら自信満々に言った。


「・・・えっと、全く話が読めないんですけど。」


「ナヌの実はフォレストエイプが好んで食べる木の実だと言われているんですよ。つまりフォレストエイプに近い種であるポイズンエイプも同様の可能性が高いんです!」


フォレストエイプはカーレイド王国の領土内であればよく見るモンスターであった。階級はランク外と低い。ポイズンエイプから毒を無くしただけのモンスターであるため、その見た目はほとんど一緒だ。


「ナヌの実の食べかすが大量にあるということは、それを追っていけば、この先にポイズンエイプがいるかもということでしょうか?」


「その通りです!残念ながら地図は役立ちませんでしたが、ポイズンエイプにたどり着くための情報はちゃんとあります。なので安心して先に進むことが出来ますよ!」


エルザは興奮しながら話してくるが、現在の森で遭難という状態が全く改善されるものでは無かった。


しかし、戻ることはもう出来ないが、進むことは出来そうだ。それならば今は、取るべき道は一つしかない。


「森からの脱出はひとまず置いておいて、とりあえず先に進むしかないみたいですね。」


「そうですよ!今は目標であるポイズンエイプを探しましょう!ああ、いよいよ近づいてきたと思うと何だかワクワクしてきますね!」


エルザは楽しそうに話しながら早速ナヌの実の食べかすを探し始めた。どうやら先ほどモンスターに襲われたことは、すでにエルザの頭から消えてしまったようだった。


「はあ、本当に大丈夫なんだろうか・・・?」


俺はため息をつきながら、エルザと共にナヌの実を探し始めた。

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