第12話
「・・・ああ、何だかのどかで落ち着きますね。」
「・・・そうですね。この景色を見ていると癒されて、日頃の疲れが取れていくような気がします。」
俺とエルザは馬車の窓から見える田園風景を眺めながら、のんびりと寛いでいた。
俺たちは今、王都メーテナから東にあるハサリ村という場所に馬車で向かっているところだ。
ポイズンエイプの住処はハサリ村の近くにある森であり、まずはその村に行って情報を収集するというのがエルザの計画であった。
とは言っても、村までは馬車で半日近くかかるため、俺たちは現地に到着するまで、馬車の中で待つしかなかった。
幸いにも俺たち以外の客は乗っておらず、周りを気にせずに寛ぐことができた。
・・・
「しかし、ハサリ村の近くにポイズンエイプの住処があるってよく知っていましたね?」
俺は研究一筋だと思っていたエルザの思わぬモンスターの知識に、驚きと疑問からなぜその情報を知っていたのか聞いてみることにした。
「いいえ、私も今まで全く知らなかったのですが、実はその・・・昨日研究室を飛び出した後、「そもそもポイズンエイプはどこにいるんだろ?」ってことが気になって、冒険者ギルドに行ってみたんです。そしたら冒険者の方がポイズンエイプについて色々と教えてくれて・・・。」
エルザは少し気まずそうに答えた。
・・・あの流れで、そのまま冒険者ギルドに行ったのか。この切り替えの良さがエルザの良いところなのかもしれないが、正直呆れてしまう思いもあった。
「あんな喧嘩をした後なのに・・・さすがエルザさんですね。」
「喧嘩なんてしてません!あれは、その・・・議論ですよ、議論!」
エルザは顔を少し赤らめながら言った。昨日ことはエルザでもやっぱり無かったことにしたいのだろうか。どこかその表情は恥ずかしさを隠そうとしているようにも見えた。
俺は話をしながら改めてエルザを見た。いつものエルザは黒いパンツに白衣を着た働く女性という感じだが、今日はロングワンピースにゆったりとしたジャケットを羽織って、さらに暖かそうな帽子も被っていた。まるでちょっとした山にハイキングにでも行くかのような姿だった。
俺は遠足気分のエルザに不安を覚えつつも、いつもと雰囲気の違うエルザを見て、何だか急に緊張してくるような喉が乾くような変な感覚を覚えた。
どうしてしまったんだろうか。この世界にきて初めて冒険するようなものだから、楽しみで気持ちが高ぶっているのだろうか。
「そろそろハサリ村に着くみたいですね。・・・タケル様?ぼーっとしてますけど大丈夫ですか?」
エルザは俺に近づき、顔を覗き込むようにして言った。
「・・・!大丈夫です、何でもありません!ちょっと寝不足なだけですから!」
俺は慌てて顔を背け、誤魔化すように再び馬車の外を見た。
ハサリ村が見えてきた。その村は、俺の想像していた通り、何もなさそうな小さな村のように見えた。




