第2話
「・・・どうして?」
俺はできるだけ冷静を装ってヴィクターに問いかけた。
「うん、わかるよタケル。タケルが怒るのも無理はない。君はちゃんと約束を守ったというのに、それを僕が反故にしようとしているのだからね。だけどまずは僕の話を最後まで聞いてほしいんだ。」
ヴィクターは少し慌てながら答えた。どうやら今の俺はかなり怒っているように見えたらしい。実際はそこまで怒っているわけでは無いのだが・・・俺はそんなヴィクターを見て、ため息をつきながら聞いた。
「理由を教えてくれる?」
「タケル、君には仲間とともに旅に出てもらいたいんだ。」
「仲間・・・?」
ヴィクターの切り出した話は俺にとって予想をしていないものだった。
「そう、仲間さ。タケル、君は確かに強くなった。凶悪なモンスターに出くわしたとしても簡単に負けることはないだろう。だが、タケル一人では何をするにも限界がある。もしタケルが一人で手に負えない状況に陥れば、あっさり死んでしまうかもしれない。」
ヴィクターは話しながら、目を閉じ、眉間に手を添えた。ヴィクターの話は深刻なもののようだ。俺は口を挟まず、黙ってヴィクターの次の言葉を待った。
「しかし、タケルのことをサポートできる仲間が入れば、その可能性は大きく減少すると思う。魔王を確実に倒すためにも仲間の協力は必要不可欠なはずさ。」
「なるほど・・・確かに一緒に戦ってくれる仲間が入れば心強いけど、そんな人どこにいるんだ?ヴィクターやセレナは一緒に来れないんだろう?」
俺はずっと気になっていたことを聞いてみた。旅に出る時は、ヴィクターやセレナも一緒だろうと昔は考えていた。しかし、最近のヴィクターの状況ではそれが不可能なことだということは、俺でも分かることだった。
「ああ・・・僕たちは無理だ。元々はそういう計画だったんだけどね。タケルの助けにならないといけないのはこれからだというのに、本当に申し訳なく思うよ。」
ヴィクターは悔しそうに唇を噛み締めながら言った。ヴィクターが本心から言っているのが伝わってきた。ヴィクターとは3年ほどの付き合いだが、王子として腹芸をすることがあっても、俺に言い訳や嘘をつくような人間ではないと信じていた。
「だけどそうなると、俺に付いてきてくれそうな人に全く心当たりがないんだけど・・・トミーとかエドマンド兵士長が候補になるのか?」
俺はふと頭に浮かんだ知り合いを言ってみたが、ヴィクターはすぐに首を横に振った。
「トミーとは兵団のトミーのことだろう?確かに彼の素質は十分だが、魔王討伐は荷が重すぎる。それとエドマンド兵士長は駄目だ。彼は兵団の責任者であり、国防の要だからね。彼が長期でこの国を不在にするなんて許可できないよ。」
「それじゃあ、誰が仲間候補になるんだ?他にモンスターと戦えて、俺と一緒に旅に出てくれそうな人なんているかな?」
俺は首を横に捻りながら言った。
「・・・現在、王国の冒険者ギルドを通じて、有名な冒険者や魔術師を探しているところなんだ。まだ候補者を絞っている段階だけどね。ただ、その候補者の中から選ばれることは確実だよ。」
ヴィクターは申し訳なさそうに言った。
・・・何となくそんな気がしていたが、やっぱり全く知らない他人が仲間になるのか。実力はともかく、性格は完全に未知数だ。そんな人間とうまく旅をして魔王を倒すことができるのか俺は急に不安になってきた。
「まあ、現状すぐに旅に出ることができないということは分かったけど、いつぐらいまでにその仲間になる人が決まる予定なんだ?」
俺は新しい仲間のことで憂鬱な気持ちになりながらヴィクターに聞いた。
「すぐにでもと言いたいところなんだけど、来月には建国祭もあるからね。少なくともそれが終わるまでは待っていてもらうことになる。」
1ヵ月も先か・・・すぐに旅に出られると思っていたが、物事は簡単には進まないようだ。
「ああ、そういうことなら分かったよ。今は気長に待つとするか。」
「そう言ってもらえると助かるよ。できるだけ早く旅の仲間を見つけるようにするから。」
ヴィクターは話し終えると「失礼するよ」と言って、足早に去ってしまった。
相変わらずヴィクターは忙しそうに動き回っている。そんな中、俺の仲間探しまでやってくれているのかと思うと、俺の中に少しヴィクターに対して申し訳ないという気持ちが芽生えてきた。
「・・・ふう、これからどうしようかな?」
急に目の前の予定が延期となり、手持ち無沙汰になった俺は、ベッドに寝転がりながら独り言をつぶやいた。
当面の間は、兵団で訓練したりして過ごせばいいし、セレナがいる間は魔法の訓練もできるか・・・ああ、そうだ俺も建国祭の時は兵団の仕事があるんだった。何だかんだで1ヵ月はあっという間か。
コンコン
俺がベッドで考え事をしていると、誰かが部屋の扉をノックする音が聞こえたような気がした。メイドさんがベッドのシーツを交換しにきたのだろうか。
「はいはい、今開けますよ。」
俺は返事をしながら扉を開けた。
「・・・どうも。」
そこには見知らぬ女性が立っていた。




