第5話
妹のルカが死んで生き返るという一生で一度あるかないかという経験をした翌日、俺は仮面の女性に指定された場所に向かっていた。
しかし、今日は平日だ。中学三年生という身分で簡単に休めるわけがない。
仕方がなかったので、昨日雨で濡れて帰ってきたことを利用して、俺は仮病を使って学校を休むことにした。これが人生で初めてのサボりだった。本気で心配していた母親の気持ちを考えると、俺は少し心が痛かった。
後ろめたい気持ちを抱えたまま、人通りの少ない道を進んでいくと、目的地に到着した。
そこは何というか古いアンティークショップのような建物だった。ドアにはOPENもCLOSEの掛札もないため、やっているのかすら分からない。
「ここで合ってるんだよな・・・?」
俺は不安を感じながら、再度地図をチェックした。やはり、この店が目的地であることは間違いなかった。
勇気を出して、店に入ろうとしてドアに手をかけると、簡単にドアが開いた。鍵はかかっていなかったようだ。
「すみません、誰かいますか?」
俺は店の中に入りながら、お店の中へ呼びかけてみたが、誰からも返事がなかった。
そのまま店内を見渡してみると、お店の外観に負けず劣らずな古めかしい骨董品のようなものが溢れていた。見たことのない形の壺や置物、アクセサリーや模造刀のようなものまであった。
少し興味を持ちながら店の奥へ進むと、カウンターがあり、そこには一羽のフクロウのような鳥がいた。
フクロウはカウンターに置いてある止まり木で目をつぶっていた。それはまるで生きている本物の鳥のように見えた。
「すごいな、剥製かな?初めて見た。」
俺は興味本位でそれに触ろうとすると、突然フクロウの目がぱっと見開いた。
「失礼な!私はちゃんと生きていますよ!ええっ!」
「うわあっ!」
突然、剥製だと思っていたフクロウの目が開いて、更にしゃべり始めたのだ。前日から俺にとって理解不能な出来事が続いているが、全く慣れそうにない。
「おっと申し訳ない。主様のお客人でしたな。いや昼は私にとっていつもは寝ている時間なもので、ついウトウトとしてしまいました。」
「はあ・・・?」
俺はあっけにとられていたが、フクロウは気にせず続けた。
「申し遅れましたが、私、主様の執事兼この店の店長をやっておりますフクロウのオウルと申します。」
そこまで言ってオウルはちょこんとお辞儀をした。フクロウでオウルとはそのままじゃないかと俺は心の中でツッコミを入れた。
「すみません、俺はタケルっていいます。今日はあの・・・あー名前は分からないんですけど、昨日お世話になった女性にここに来るように言われてきました。」
今更、フクロウがしゃべりだして自己紹介することなどに一々驚いていられない。俺もオウルに対して自己紹介を行った。
「はい、その女性は主様の事です。話は伺っております。新しく主様の奴隷となった方ですね?」
「・・・はい。」
オウルは淡々と確認を取ってきたが、奴隷という言葉が俺の胸に突き刺さった。やっぱり聞き間違いとかではなく、俺は仮面の女性の奴隷になってしまったようだ。
「では、まず面接を行いますので、どうぞそちらの椅子に腰掛けください。」
オウルの指した方向には喫茶店にあるような木製の丸テーブルと椅子があった。
・・・面接ってなんだ?これで不採用だったら、奴隷じゃなくなる?なんて都合の良い話を俺は内心で考えてしまった。
「あの、面接というのは?」
「いえいえそんなに固くならずに。簡単にあなたという人となりを知るためにお話を聞きたいだけですので。これで駄目だからと言って主様の奴隷になれないということではないので、どうぞご安心ください。」
いや奴隷になんかそもそもなりたくないが…。そんな言葉を飲み込みながら、俺は案内された椅子に着席した。
「何か飲み物を用意しましょう。コーヒーでいいですかな。」
「はい、そちらでお願いします。」
そう俺が答えると、オウルはバサッと羽を振った。そうするとテーブルの上にアイスコーヒーが現れた。
「・・・すごいですね。オウルさんも魔法が使えるんですね。」
「ええ、私は主様の執事ですからね。簡単な魔法くらいであれば。それと私のことはオウルで結構。あなたのこともタケルとお呼びします。」
「はあ、分かりました、オウル。それではよろしくお願いします。」
俺は答えながら、テーブルのコーヒーの違和感に気づいた。魔法で突然現れたということではない。アイスコーヒーの傍らには、砂糖もミルクも無かったのだ。
俺が苦いブラックコーヒーが大好物だから良いものの、普通こういう時って使う使わない関わらず、砂糖とミルクは用意しとくもんじゃないのだろうか。それとも魔法で俺の好みも知っていたのか。
「・・・では、面接を始めさせていただきます。」
俺がコーヒーに気を取られている内に、オウルは反対側の椅子にいつの間にかある止まり木に止まり、真剣な顔でこちらを見ていた。
俺は気を引き締め直し、オウルの目を見て、ゆっくり頷いた。