第12話
「やあ、久しぶりだねタケル。もうここには戻ってこないかと思ってたよ。」
セレナとの一件以来、俺は5日ぶりに屋敷に戻った。ヴィクターは穏やかに話しているように聞こえるが、いつもと違い何だか笑顔が怖かった。
「悪かったよ、ヴィクター。でも俺がどこに行ってたかなんて、ちゃんと分かってたんだろ?」
俺が謝りながら言うと、それを聞いたヴィクターはため息をついた。
「はあ・・・まあタケルの様子を見ておくように命令は出していたから、どこで何をしていたかは分かってはいたけどね。だけど・・・」
ヴィクターはそこで話を止め俺の顔をじっと見た。俺は思わずびくっとしてしまった。
「タケル、二度とこういうことはしないでくれ。君は君が思う以上にこの国、この世界にとって、とても大切な存在なのだから。もちろん、僕にとってもね。」
再び話し始めたヴィクターの表情は珍しく怒っているように見えた。ヴィクターは本当に心配してくれていたみたいだ。今更ながら自分の身勝手な行動が恥ずかしくなった。
ただ、ヴィクターに怒られながらも俺は少し照れくさくなってしまい、思わず顔を背けてしまった。よくもこんな恥ずかしい台詞をさらっと言えるものだ。なんだか背中がむず痒くなってくるような気さえした。
「まあそれはそれとして・・・タケル、セレナから言われたことは解決できたのかい?」
先ほどとは一転して、ヴィクターはいつもの笑顔に戻り、話の本題に触れてきた。
「ああ、もう大丈夫だ。ヴィクターには心配かけたし、セレナにも酷いことを言った。改めて、本当にごめん!」
俺は頭を下げ、もう一度謝罪した。ヴィクターは黙って聞いているので話を続けた。
「これからセレナに会って魔法を見てもらうつもりだ。あいつまさか怒って、トランテ王国に帰っちゃったりしてないよな?」
「ああ、セレナはまだここに滞在しているよ。・・・そうだな、この時間ならいつものところにいるんじゃないのかな?」
ヴィクターは窓から外を見て言った。ちょうど朝日が昇り始めたようだ。そうかこの時間ならセレナは・・・
「分かった!ありがとう!ちょっとセレナに会ってくる!」
俺はヴィクターに礼を言うとすぐさま部屋を飛び出した。
「全く、本当にタケルはいつも落ち着きがないな・・・頑張れよ。」
部屋に残されたヴィクターは一人静かに呟いた。




