第11話
「・・・はあ。」
俺は一人になり思わずため息をついた。
居酒屋を出た後、泥酔したトミーはしきりに「二軒目に行くぞ~!」と叫んでいたが、周りに迷惑だったので、トミーを無理やり引っ張り、家まで送り届けてきたところだ。
「俺はいったいどうしたらいいんだろう。」
トミーの話じゃ、俺の魔法の使い方は実戦では致命的らしく、しかもそれを改善することも容易ではない。しかし、このままではセレナから魔法の合格をもらうことはできず、俺は魔王討伐の旅に出ることもできない。
いやそういうことじゃない。今はそんなことはどうでもいいんだ。
俺はセレナを信じることができなかった。
セレナは間違ってなんかいなかったのに、全部俺のためだったのに。
そんな彼女を俺は身勝手に傷つけた。
「・・・」
俺は無言で歩き続けた。城に帰る気にはなれず、かといってどうしていいかも分からなかった。
・・・パチ、パチパチ。
俺はふと不思議な音を耳にした。気がつけば、見慣れない建物ばかりが並ぶ場所に来ていたようだ。考え事をしながら歩いていたせいでここがどこだか分からなかった。
・・・パチ、パチ。
また不思議な音が聞こえてきた。俺は周りを見渡した。すると、何人かの人が集まり焚火の前で談笑していた。そうか、先ほどの不思議な音は焚火によるものか。確か木の中に含まれる水分が爆発している音なんだっけ。昔学校で習ったような気がする。
俺はなんだか急にその焚火惹かれ、集まっている人と同じように火の前で暖まることにした。まだ秋が始まったばかりだが、夜は一段と冷え込むようになったため、火の暖かさが心地よかった。
何も考えずぼんやりと火を眺め続けた。なんで火って暖かいんだろう。なんで燃えているんだろう。
元の世界で習った科学的な理屈は知っている。しかし、そもそも火とは何なんだろうか。火があることなんて当たり前すぎてそれがどこからやってくるのかなんて考えたことも無かった。
別に哲学に目覚めたわけでは無い。俺は火系統の魔法を使うのに、火について何も知らなかった。
火をもっと知りたい。それは知識としてでは無く、感覚で理解できるように・・・
「兄ちゃん!危ないぞ!」
気が付くと俺の手を知らない男性が掴んでいた。どうやら俺は火の中に手をつっこもうとしていたらしい。
「ああ、すみません。」
俺は男性に軽く頭を下げ謝ってから、再び火を眺め続けた。
・・・
火を眺め始めてから既に何時間も経過していた。暖を取っていた人たちは次第にいなくなり、俺は一人になった。それでも俺はその場から動かず、時に焚き木を追加して、火を眺め続けることを止めなかった。
・・・
朝日が昇り始めた。通りに人が増え始めたが、俺はまだ火を眺め続けていた。
途中で城の兵士がやってきた。どうやらヴィクターの使いらしい。俺は「心配ない」と一言だけ兵士に伝え、また火を眺めることを再開した。
・・・
気が付けばまた夜になっていた。今日の夜も冷えるためか、昨日と同じように焚火の周りに人が集まってきていた。俺はそこでようやく立ち上がった。試してみたいことができたからだ。近くに閑散とした広場があったのでそこまで移動することにした。
広場まで来ると、念のため人が周りにいないことを確認してから火の魔法を使った。俺の手のひらには小さな火の玉が出来上がった。火の魔法の基本である「ファイアボール」だ。
まだ違う。これでは今までと一緒だ。頭でイメージしてから魔法を使っている。もっと自然に自分が火になったつもりで魔法を使わないと駄目だ。
俺は一旦魔法を使うのを止め、深呼吸をしながら目を閉じた。思考なんてするな、無心になれ。出来る限り心を無にしてもう一度魔力を練り始めた。
ボワァ!
先ほどまでと違う粗いファイアボールが出来上がった。駄目だ、これじゃあ元の魔法より劣化してしまっている。やはり俺にはセレナの言っていることを改善するのは無理なのだろうか。
俺はその場にへたり込んだ。そういえば、昨日から寝てなかったんだっけ。もう諦めて屋敷に帰って寝てしまおうか・・・・
「・・・何で諦めようとしているんだ!」
俺はすぐさまバシッと自分の頬を叩き、気合を入れ直した。何を考えているんだ俺は。数回上手くいかなかったくらいで諦めるなんて。俺はまたセレナを裏切るのか。
セレナは俺に妥協なんてせず全力で魔法を教えてくれていたんだ。だったら俺も、自分の持てる力を全て使ってそれに応えなきゃならない。
なによりこれを乗り越えなきゃ、俺は魔王を倒すことなんて出来ないんだ。
俺は立ち上がって、再び魔法を使い始めた。
・・・
朝に鳴く鳥の声が聞こえ始めた。夜が明けたようだ。ここに居座りだしてからもう二日近く経っていたが、それでも俺は魔法を使い続けた。
しかし疲労からか意識が朦朧とし始めていた。夜通し魔法を使い続けたためか、体も精神ももう限界を超えているような気がした。
ボッ!
何百回目の魔法なのだろうか。俺は自分の手のひらにあるファイアボールをぼーっと眺めた。
「・・・あれ?」
何だかいつもと違う違和感があった。最初は気のせいかと思い、すぐに魔法を練り直そうかと考えたが、だんだんとその違和感を実感してくると、朦朧としていた意識は覚醒し、俺は食い入るようにファイアボールを見た。
「これは・・・本物か?」
そのファイアボールはいつもより小さいものだったが、何というか質感が違った。具体的にどう違うかは説明ができないが、今までの火と違い、より本物の火のように見えた。
さらにこの魔法を練った時、以前より魔力の消費を少なく感じた。体から溢れた魔力をそのまま火に変えたようなイメージだ。
魔力を無駄なく使ったことで、恐らく魔法の練度も桁違いに高くなっているはずだ。周りには民家もあって試すことはできないが、この魔法の威力は今までの物とは比べ物にならない気がした。
「ははは・・・何だこれ。」
俺は思わず笑ってしまった。これが本物の魔法なんだ。今まで俺が使っていたものなんて、到底魔法と呼べる代物ではなかったのだ。
「今の感覚を完全にモノにしなくちゃ!」
俺は興奮冷めやらぬまま、さらにその場で魔法を使い続けた。
・・・
昼になった。当然広場には人も増えてきており、ひたすら魔法を使い続ける俺は注目の的となっていた。
俺は無心でファイアボールを出し続けた。今朝方は体力の限界が近かったような気がしていたが、今はそこまで魔法を使っても疲れを感じない。魔力の消費効率が良くなっているようだ。
さらにこの広場で魔法を使い始めた時よりも、瞬時に魔法を出せるようになってきていた。既に頭で一回イメージをつくらなくても、呼吸をするように自然とファイアボールを手のひらに出現させることもできるようになった。
セレナの言っていた「スー」という魔法を使うイメージはこのことだろう。
・・・
「・・・やった!」
日が傾き始めた頃、俺は手のひらに綺麗なファイアボールを浮かび上がらせることができた。それは作り物ではなく、まるで焚火の火みたいに本物のように感じられた。
俺はこの火を意識しなくてもつくることができるようになった。何だか俺自身が火と一体化しているような感覚さえあった。
「あれって何やってるんだ?」「誰だ?城の人間か?」
気が付くと広場に多くの人が来ており、俺を見てコソコソと何か話しているみたいだった。まずい、ここに長居した上に目立ち過ぎた。
俺は魔法を使うのを止め、すぐに広場から立ち去った。
・・・
歩きながらも常に魔力の元になるエネルギーが体全体を包み込むような感覚は残っていた。逆に感覚が強すぎて、何かの弾みで魔法が出現して暴発するのではないかと心配になるくらいだった。
「っく!」
通りを歩きながら、ふと空を見上げると空はオレンジ色になっていて、夕日の光が目に入ってきた。ずっと寝ていないからだろうか、光がいつも以上に強く感じられた。・・・ん、光?
「そうだ!光魔法も特訓しなくっちゃな!」
このまま屋敷に戻ろうと考えていたが、予定を変更して光魔法も火魔法と同じように訓練を行うことにした。今の俺なら光魔法もどうにかなるような気がした。
「よし!そうと決まれば・・・」
俺は今進んでいる道とは逆方向を向き、城壁の外に向かって走り始めた。




