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異世界と魔女  作者: 氷魚
第一部 異世界と勇者 第二章
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第10話

「トミー、お前酔って適当な事言ってんじゃないだろうな?」


俺はトミーに疑いの目を向けながら言った。ありえない・・・いつものように調子の良いことだけを言っているだけだろ。そうじゃなきゃ、俺がいくら考えても理解できないセレナの指導を話を聞いただけのトミーが簡単に理解したってことになる。


「別に適当に言ってるわけじゃねよ。それにそこまで酔っちゃいない。・・・確か、ひいじいちゃんから似たような話を聞いたことがあるような・・・。」


トミーは頭をひねりながらウンウンと唸り始めた。


「えーと、ひいじいちゃんが戦争で魔人族と戦ってた時の話だったと思うんだけど・・・」


確かトミーの曾祖父は、百年以上前の亜人族との戦争にも参加していた魔術師だと聞いていた。しかもかなりの長生きで、トミーが兵団に入るぐらいまで生きていて、よく昔話をしてくれたらしい。


「確かヘレ・・・えーと何て言ったっけかな?・・・そうそう思い出した!ヘレミアスとかいう魔人族が率いる部隊と戦ってた時の話だ。その部隊がかなり強かったらしくてな、ひいじいちゃんの魔術師仲間もかなり死んじゃったらしいんだ。」


トミーは話しながら少し悲しそうな顔をした。百年も前の話だが聞いている通りたくさんの人が戦争で死んだのだと改めて実感し心が痛くなった。俺が来た今の時代は一応平和が保たれているようで本当に良かったと思う。


「仲間がどんどん死んでいく中、ひいじいちゃんは何とかしなきゃっていつも考えてたみたいでさ。そんな中ある時、ひいじいちゃんは死にやすい魔術師の特徴に気づいたらしいんだけど・・・なあタケル?もし戦争になったらどんな魔術師が死にやすいと思う?」


「死にやすい魔術師?ん~、あまりピンとこないなあ。やっぱり魔力が弱いとか練度が低いとかそういう話?」


俺は思い付くままに答えてみたが、トミーは首を横に振った。


「俺もそう思ったんだけど、ひいじいちゃんは違うって言うんだ。死んだ人の能力や経歴を確認するとかなりの魔法の使い手も亡くなっていたんだってさ。それで変だなってひいじいちゃんは思って違う観点から調べるてみると・・・」


俺は黙って話を聞き、トミーの次の言葉を待った。


「ひいじいちゃんは「魔法の使い方」に違いがあるってことに気がついたんだよ。分かるか?」


「魔法の使い方?」


俺はトミーが言ったことがイマイチよく分からなかった。魔法の使い方って何の事だ?ただ魔法を使う事とは違うのか?初めて聞く理論に俺は少し興味が湧いてきた。


「・・・実はタケルと訓練していてずっと思ってたことがあるんだけど、お前の魔法ってなんか変な違和感があるんだよな。」


トミーはバツの悪そうな顔で言った。俺は驚きで表情が固まってしまった。セレナと同じような指摘をされたのだ。


「その違和感ってどんなものだ?」


「うーん、俺も上手く説明出来そうに無いんだけどさ。タケルは何ていうか魔力の元?とでも言えばいいのかな?それを一回頭で考えてから、火なり光なりの魔法に変えているような気がするんだよね。」


「ん?普通そうじゃないのか?」


トミーの言ったことは俺の中での魔法を使うための基本動作そのものだった。俺はいつも、何の系統でどのような魔法を使うのか具体的にイメージしてから魔法を使っている。


「いや、普通は頭で考えたりしないんだよ。魔力っていうのは当たり前に自分の体にあるものだからね。手や足を動かす時、どのように動かすかなんて一々考えないだろう?」


トミーの言葉に俺は雷に打たれたような衝撃を受けた。魔法を使うってそんな自然にできるものだったのか。いつも頭の中で魔法のイメージをつくってから魔法を放つ俺には理解できない世界だ。


「それで話は戻るんだけど、ひいじいちゃんの部隊で生存できた人は全員、俺の言う自然な魔法の使い方ができていたそうだ。逆に死んだ人はひいじいちゃんから見て不自然な魔法の使い方をしていた人らしい。」


「そこの違いってなんでできるんだ?」


俺はふと浮かんだ疑問をトミーにぶつけた。俺は魔法なんて無い世界から来たから、魔法の使い方が不自然だというのは分かることだが、元からこの世界に居た人がそうなってしまうのはなぜなんだろう?


「それは・・・子どもの時から魔法に触れているが重要なんだと。」


トミーは肩をすくませながら言った。


「子どもの時から魔法を使うと自然な使い方ができるのか?」


「それは正直俺もよく分からん。俺はひいじいちゃんがいたから物心つく前から魔法に触れられる環境だったし。でもタケルは数年前ぐらいから魔法を始めたんだろ?俺達の違いって多分そこなんじゃないかな。」


トミーの話に俺は何も答えられないでいた。


「今もそうだけど、魔法なんて全く使わないなんて地域もあるから、大人になってから魔法を学び始めることなんてこの国じゃ珍しい事じゃないんだ。実際、城勤めを始めてから魔法を学び始めて、立派な魔術師になったって人も聞くし、ただ・・・」


一旦そこで話を止めたトミーは一口だけ酒を飲み、その後話を続けた。


「実際の戦いではそういう人間が簡単に死んでしまうらしい。頭で考える、魔法を使う。これだけで2動作かかる。実戦では1動作でないと間に合わない。いくら魔力が強くて練度の高い魔法が使えても、2動作ではあっさり死ぬってことだ。」


トミーは話し終えるとそのまま残っている酒を飲み干した。俺はトミーの話したことを完全に理解すると同時に、何とも言えない怒りのようなものが湧いてきた。


「・・・なんで教えてくれなかったんだよ?」


「うん?」


「なんで今まで教えてくれなかったんだよ!?俺達何度も一緒に魔法の訓練してきたじゃないか!」


俺はトミーに怒りをぶつけるように言った。


「おいおい、そんな突っかかるなって、悪かったよ。・・・別に隠していたわけじゃない、言ってもしょうがない事だと思ってたんだ。」


トミーは俺を宥めながら話を続けた。


「さっきも言った通り、これは子どもの頃から魔法を使っていたかどうかって話だから。大人になってから魔法を始める人間にそんなこと指摘してもどうしようもないだろう。」


「確かにそうかも知れないけど。」


「それにひいじいちゃんの話は戦争の時の話だ。俺やお前はいざって時にはこの国の為に戦わないといけないかもしれないが、今はこんなに平和なんだぞ。そんな動作が一つ多いくらいで死ぬような状況なんてありえないだろ。・・・あ、お姉さん!」


トミーは話をしながらも、次のお酒を注文しようと居酒屋のお姉さんに声を掛けた。


トミーの言う通りだ。子どもの頃からの経験の差じゃ、今更どうしようもないかもしれない。それに今は戦争も無い平和な世界である。ただ・・・。


俺が何も言えないでいると、居酒屋のお姉さんがトミーの注文したお酒を持ってきた。トミーは嬉しそうに再び酒を飲み始めた。


「ん・・・ぷはあ!しかし、タケルの先生という人は厳しい人だなあ。今のご時世でそんな生き死にに関わるような魔法の使い方を求めてくるなんて。」


トミーの言葉に俺はハッとさせられた。セレナは分かっていたんだ、俺の最大の弱点を。このまま俺が魔王討伐の旅に出れば、あっさりと死んでしまうということを。


セレナだって実戦経験なんて無いはずなのに、実際に魔王と戦うことを考えて俺に魔法を教えてくれていたんだ。


なのに俺は・・・


気が付くとトミーは注文したお酒をすでに飲み終え、次の注文をしようとしていた。だけど、俺はもう酒を飲む気にはなれなかった。

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