第9話
「ふう、席空いてて良かったな。今日はいつもより混んでやがる。」
トミーは上機嫌で周りを見渡しながら言った。さっきまで死にそうな顔をしていたくせに、もう復活している。
俺とトミーはいつも来ている居酒屋「精霊の舞」に来ていた。この世界はファンタジー世界だが、別にこの店に精霊がいるってわけでは無い。単にそういう名前であるだけだ。実際にこの店は何の変哲もない大衆居酒屋だ。
「お姉さん!ビア2ついいっすか!」
トミーは俺に聞くまでもなく勝手に注文を始めた。まあ、いつもビアから飲むから別にいいのだが・・・ちなみに「ビア」はビールのような飲み物である。元の世界じゃ飲んだことないから分からないが、味も似たようなものだと思う。
「お待たせしました。ビアと「お通し」です。」
注文してすぐに店員のお姉さんはビアと前菜のような食べ物を持ってきた。前菜は頼んでいないが「お通し」として注文の最初に必ずついてくる。
「よし、じゃあ早速やりますか!」
「ああ、乾杯~!」
俺達はグラスで乾杯し、そのままビアを飲む。く~~~!生き返る!元の世界の大人たちがなぜ毎日酒を飲んでいたのか今なら分かる。
彼らにとって、酒は心と体を回復させる魔法の飲み物だったのだろう。
「ああ、ホント俺たちこの瞬間のために生きているって感じだよな。」
トミーが幸せそうな顔で言った。
「ああ、トミーの言う通りだ。幸せだ~。」
俺もトミーに共感した。なんだか羽が生えたみたいに心が軽くなっていく。
・・・
その後はビアを飲みつつ、適当に料理を注文しながらトミーと中身のない話で盛り上がった。
まあ俺達の共通の話題と言えば、だいたいが仕事の愚痴か兵団のリックに関することばかりだ。兵団の仕事がキツくて面倒くさいとか、サボり魔のリックばかり女にモテててずるいなどといった、そんなつまらない話を繰り返し話し続けた。
何だか酒を飲みながらこんな馬鹿話をしていると、何もかもどうでも良くなってくる。
「そんで、お前何かあったの?」
酔いが良い感じに回り、上機嫌でつまみを食べていると、グラスを置いたトミーが唐突に真剣な顔をして聞いてきた。
「うん?いや、別に何もないけど?」
俺はトミーと目線を合わせずに言った。
「はあ、お前って昔から本当に嘘が下手だよな。実戦の時はポーカーフェイスなのに。・・・今日のお前、明らかにおかしいぞ。無理やり酔って、笑って、何か辛いことを隠そうとしてるって感じだな。」
「・・・」
トミーはお調子者のわりに、時々妙に鋭いところがある。急に図星を突かれたことで俺は酔いが覚めた。
「ああ・・・」
俺は思わず言い淀んでしまう。トミーに心の内を話したくないわけでは無い。
この話をするとなると、セレナのことを話さなければならない。魔法の訓練の事はともかく、他国の王女とただの王子の従者が喧嘩したなんてありえないことなので、トミーにどう話を切り出せば良いか分からなかった。
「何だよ!俺とお前の仲だろ!隠し事はなしだ。ほら、何でも話せ!」
トミーは俺がためらっているのだと勘違いして、肩をバンバンと叩きながら話すことを催促してきた。そうではないんだトミー。全部話したいのは山々なんだが、一体どう話せば良いのだろうか。
「実はな、トミー・・・」
結局、俺は「ヴィクターから紹介された凄腕の魔法の先生から指導を受けていて、その先生と喧嘩して城を飛び出してきた」というストーリーをトミーに話した。まあ大筋は間違っていないし問題はないだろう。
「・・・という感じで俺は魔法の指導を受けているんだけど、それがどうも、その先生が何を言っているのか俺には全く理解できなくてな。俺の魔法は「ズ、ズ」って感じで、「スー」じゃないからダメだってことらしいんだけど・・・な!全然意味分かんないだろ!?」
俺はつい熱を入れて愚痴ってしまった。話し終えたところでトミーの顔を見た。
トミーはいつにもない真剣な表情で、口に手を当て考え込んでいた。俺の話にすぐに共感してくれると思っていたので、そんなトミーの態度が意外だった。
「あれ?俺なんか変なこと言ったか?」
「いや、なんとなくだけど、その先生の言いたいこと分かるかも。」
トミーは考えるのを止めて、こちらを見て言った。
俺はトミーの意外な返答にぽかんと口を開けたまま、すぐに言葉を返すことができなかった。




