第6話
「じゃあまずは、基本のおさらいね。」
セレナはニコニコしながら言った。何だかんだ言ってもセレナは魔法のこととなると楽しくなるようだ。
「何で今更基本の話が出てくるんだよ?」
「・・・あんたね、いくら魔力が強くなっても基本が分かってなかったら、いざって時に致命的なミスが出るかもしれないでしょ。だから私のような魔法の上級者でも、常に基本は確認するようにしてるの。仮に私が合格を出した後でも、日頃から基本を振り返るようにしなさい。これは絶対に忘れないで。」
「・・・うん。分かったよ。」
急にセレナが真剣な顔をして言ったので、俺は素直に返答した。
「素直でよろしい!じゃあ、魔法の基本について説明してくれるかしら?」
魔法、俺の居た世界では存在しないものだったが、この世界ではありふれた力である。才能によって魔力の強さに差はあるが、ほとんどの人が何かしら魔法を使うことができる。
この世界の魔法は、魔法と言っても、杖を構えてモノを引き寄せたり、瞬間移動したりといった何でもできるような代物ではない。人の中に流れているエネルギーを具現化し、それを攻撃や防御に使うといった単純なことしかできない。
そのエネルギーというのも人によって系統が異なる。系統は5つあり、「火」「水」「土」「風」「光」で系統化されている。ほとんどの人が1種類の系統の適性があるといったところだ。
そして各系統のエネルギーを具現化し、攻撃なり防御に使用する。例えば系統が「火」であれば、エネルギーを球体化し相手にぶつける「ファイアボール」、矢のような形にして相手に飛ばす「ファイアアロー」、逆に防御の時は炎の壁を造るので「ファイアガード」といったものである。
複雑な呪文を使った高度な魔法などはない。魔法初心者だろうが達人だろうが、攻撃する時の魔法の名称は「ファイアボール」だ。ただ同じ名前であっても威力や大きさ、スピードなどは大きく異なる。
「分かったわ。じゃあ次はあなたの系統について教えてくれるかしら?」
俺が魔法の基本について説明すると、セレナは次の質問をした。
「系統は「火」と「光」だ。」
俺はこの世界でも珍しい「火」と「光」の二系統の適正持ちである。これは俺の才能なのか、はたまた勇者としての補正なのかはわからない。セレナも同様に「水」と「風」の二系統に適正を持つ人物で、どちらの系統においてもトップクラスの魔法を使うことができる。そのため、トランテ王国では若き魔法の天才などと評されるほどだ。
「今度はその「光」の特性について教えてもらいましょう。」
セレナは表情を変えず質問を続けた。俺は緊張しながらも自分の中の知識を説明し始めた。
光の系統。この世界では光の適性を持つ者は珍しいと聞く。光は他の系統と同様に攻撃と防御の魔法があるだけでなく、回復の魔法もある。「ライトヒール」と呼ばれる魔法で、魔力の高い人が使えば、事故などによる大怪我でさえも一瞬で治してしまうらしい。ただし病気を治したり、死んだ人を生き返らせるようなことはできない。
「一応基本だけは押さえられているようね。ま、これは最低条件だから。これくらい分かっていないと話になんないんだけど。」
セレナは少し面白くなさそうな顔をして言った。ちゃんと答えられたのなら、少しぐらい褒めてくれたって良いようなものだが・・・
「それじゃあ、そろそろ実際に魔法を見せてもらえるかしら?準備はいいわね?」
セレナは両腕を組みながら言った。いよいよだ、この時が来た。俺が一年前とは全然違うってことをセレナに認めさせてやる!
「いつでも大丈夫だ!」
俺はセレナに返事をし、魔法を使う体勢を整えた。




