第4話
ヴィクターと話してから数週間後、ついにセレナが城に来る日となった。俺は表向きはヴィクターの従者であるため、セレナを出迎える準備を行ったが、それにしてもセレナと会うことは憂鬱だった。
出迎えの時間となり、城の入り口で他の兵士たちと待機していると、数台の馬車が正門を抜け、こちらに向かってきた。馬車は俺達の前で停まると、追従していたトランテ王国の兵士が一番豪華な馬車の扉を開けた。
そこからドレス姿の女性が現れた。
彼女こそ、トランテ王国第二王女セレナである。
セレナは艶やかな髪をなびかせながら、こちらに近づいてきた。見た目の美しさやその立ち振る舞いはまさに王女と呼ぶにふさわしい。実際にトランテ王国だけでなくカーレイド王国の国民にも人気がある。一度彼女を見たトミーは「トランテ王国の兵団に転職しような。」なんて、本気か冗談かわからないようなことを言っていた。
確かに見た目だけは完璧だと俺も思う。そう、見た目だけは。
「あら、ごきげんよう、タケル。お元気そうでなりよりですわ。」
俺に気が付いたセレナが声をかけてきた。
「は、ありがとうございます。セレナ様も変わらずお元気そうでなりよりです。」
俺は片膝を地面につき、型どおりに挨拶をした。仕事なので色んな感情を押し殺す。
「ふふふ。ありがとう。積もる話もありますが、それはまた後ほどということで。まずは城の中を案内してくださいますかしら?」
「は、ではこちらに。」
俺は立ち上がり、セレナとそのお供の方々を連れ、城の中に入っていった。
城には来賓用の部屋があるため、始めにそこにセレナ一行を連れていき、カーレイド王と王子であるヴィクターに会うための準備をしてもらうになる。
準備といってもすぐに終わるものではない、公式の場での面会となるため、セレナのドレス替えや化粧直しなど様々な準備をしなければならない。そのため俺は準備が終わるまでセレナたちのいる部屋の前で、数時間は待つことになる。この手の仕事を初めて任されたときは、正直げんなりした。
数時間後、セレナの準備が終わったため、セレナを連れ、王の間まで向かった。今日のカーレイド王は体調が良いらしく、少しの間なら面会も可能だそうだ。
王の間に入ると、王座にはカーレイド王、その横にはヴィクターがいた。セレナは部屋中央まで行くと止まり、ドレスの裾をつまんでお辞儀をした。
「カーレイド王、この度はお招きいただき、ありがとうございます。」
「セレナ殿、遠路はるばるよくお出でくださいました。こちらこそお礼申し上げる。お父上は息災かな?」
「はい、相変わらず魔法石の研究にばかり夢中で、いつも母に怒られていますわ。」
「はっはっは。それはなによりじゃ。・・・さて、もう少し話をしたいところじゃが、ヴィクターとも積もる話があるだろう。後は若い二人に任せるということで、わしは退散するとしよう。」
カーレイド王は話し終えるとゆっくり立ち上がり、出口に向かって進み始めた。それを見た側近が慌てて王に近づき、何かあればすぐ介助できるようにしていた。やはり見た目より体調があまり良くないみたいだ。しかし友好国とはいえ、他国の王女の前では気丈に振舞わなければいけなかったのだろう。
「やあ、セレナ。本当に遠いところよく来てくれたね。」
カーレイド王が退室すると、ヴィクターがセレナに近づいて言った。
「ヴィクター様、ご無沙汰しております。1年ぶりぐらいかしら?」
「そう、それぐらいだ。僕たちがアルハーニの別荘に滞在して以来だね。」
アルハーニとはトランテ王国の王都の名前である。去年ヴィクターと俺はトランテ王国に赴き、王都近くの湖畔にある王国所有の別荘に滞在した。
「あの時は本当に楽しかったですね。まるで昨日の事のように思い出せるぐらい。」
セレナは満面の笑みを浮かべて言うと、ちらっと俺の方を見た。俺は全身に鳥肌が立つ。俺は逆にその時の事をいろんな意味で忘れられそうになかった。
「ははは・・・とりあえず、ここで立ち話というわけにも行かないから場所を変えよう。セレナ、エスコートさせてもらうよ。」
ヴィクターはそっと左腕を差し出した。セレナは「喜んで」と言って腕に手をかける。二人はお互いにニッコリと微笑み合いながら歩き始めた。こうやって見る限りは理想的な王子様と王女様なんだけどなあ。
俺は内心複雑な思いを抱きながら二人の後に続いた。




