第3話
「・・・セレナってあのセレナのことだよな?」
俺は頭が真っ白になりながらも、念のためヴィクターに確認した。
「ああ、僕もタケルも知っているあのセレナさ!」
ヴィクターはニコっと笑って答えた。
・・・
数秒の間だったが、恐ろしく長い沈黙が流れたような気がした。俺は何も答えることができず、どうにかヴィクターに言ったことを取り消させようと言葉を探していた。
「・・・嫌だね。いくらヴィクターに言われたことでも、それだけは無理だ。」
結局上手い言葉は何も出ず、子どものような言い分でヴィクターに抵抗した。そんな無理難題を言われたら、一生魔王討伐なんて無理だ。
「敵は当然ながら強力な魔法を使ってくる。ならばこちらも同等の魔法を身に付け、対抗しないといけないだろう?」
「いやそうじゃなくて、なんであの女の合格なんてもらわないといけないんだよ!あいつは関係ないだろ!」
俺が憎しみを込めて言うと、ヴィクターはあきれ顔になった。最近は作り物みたいな表情ばかりだったので、ヴィクターのそういった顔は久々に見た。
「あの女って・・・タケル、セレナはこれでも僕の婚約者であり、トランテ王国の第二王女なんだよ。・・・はあ、まったくタケルはこの数年で本当に口が悪くなってしまった。」
「兵団じゃこんな言い方日常茶飯事なんだよ。そんなところで毎日訓練してたら口だって悪くもなる。」
俺は思わず言ってしまったが、よくよく考えれば、王子であるヴィクターに兵団の悪口を言ったようなものだ。自分の失言に少し後悔した。しかし、ヴィクターはあまり気にしてないようだ。
「とにかく、君の魔法の師匠であるセレナから旅に出ても良いという許可が貰えない限り、僕も許可は出さないからね。」
ヴィクターはこれで話はおしまいだと言わんばかりに、書類を整理して部屋を出ていこうとした。恐らく城の方で会議でもあって忙しいのだろうが、俺はまだ納得なんてしていない。
「おい、ヴィクター待てって!話はまだ終わって・・・」
「あ、そうそう。」
ヴィクターは部屋を出る直前、俺に振り向き言った。
「しばらくの間、セレナが城に滞在するとのことだ。せっかくの機会だからセレナとみっちり魔法の修行をしてみたらどうかな?」
ヴィクターは悪戯な笑みを浮かべなら言うと、颯爽と部屋を出ていった。
「・・・」
俺はあまりのことに状況を受け入れられず、一人になった後もしばらくその場に立ち尽くしていた。




