第1話
「ギャアアワアア!」
俺のトドメの一撃を食らった巨大な猛獣は悲鳴を上げた。
猛獣は悲鳴とともに、大きな体を揺らしながらその場に倒れ込んだ。
その猛獣はキングボーアという名前であり、その姿は、例えるならイノシシそのものであるが、大きさはゾウと同じくらいであって、凶暴で危険なモンスターだ。
キングボーアはしばらく体を痙攣させた後、そのまま力尽きてしまった。
「よっしゃあ!ついに準A級モンスターを一人で倒したぞ!」
戦闘が終わったことが分かると同時に、俺は子どものように飛び跳ね、喜びながら言った。
「兵士長、これで俺はもう一人前ってことで良いですよね?」
俺は後ろで戦闘を見守っていた兵士長のエドマンドに声をかけた。
「・・・ああ、一人前どころか兵団でお前に敵う兵士はもうおらんだろ。俺だってこいつを倒すとなると、流石に一人では難しい・・・」
エドマンドが頭を抱えながら言った。
「・・・でもこいつを倒して一人前って言ったのは兵士長じゃないですか?それじゃあ兵団全員が半人前ってことになっちゃいますよ?」
「ったく、お前は本当に口が悪くなったよな。俺がこいつを倒して一人前って言ったのは、最近天狗になっているお前に灸を据えるために、わざと強いモンスターの名前を挙げたっていうのに、それなのにお前は・・・」
エドマンドはグチグチと説教じみたことを言い始めた。また始まった。最近俺を見かければ説教ばっかりだ。出会ったころはクールでカッコいい人だと思っていたのに。
出会った頃か・・・
俺はエドマンドの説教を聞き流しながら、この世界に来たばかりのことを思い出していた。
俺がこの異世界に来てカーレイド王国の兵団で訓練を受け始めてから、すでの3年の月日が経過していた。俺も17歳となり、元居た世界の高校2年生ぐらいの年齢になっていた。
てっきり少し訓練を受けたら、すぐに魔王討伐に出発するものと考えていたが、ヴィクターの考えは違った。ヴィクターが言うには「絶対に失敗できないからこそ慎重に」ということだ。
訓練を受け始めた頃は毎日が辛く、何度も挫けそうだった。実際に自室に籠って小一時間ぐらい泣いていたこともある。しかし、この世界で最初に出会ったヴィクターを始め、エドモンド兵士長、友人になったトミー、他にも屋敷で俺を世話してくれる人たちのおかげで、何とかここまでくることができた。
「タケル、お前はこの3年で驚異的な成長を遂げ、今や兵団一といっても良いくらい強くなったが、だからこそ今は自分自身を見つめ直して・・・」
ぼんやりと昔の事を思い出していて聞いていなかったが、まだエドマンドは説教を続いていたようだ。
俺はこの3年間で、兵団で一番強いエドマンドが舌を巻くほど強くなることができた。
それはきつい訓練を続けてきたからだけではない。これは俺の勇者としての力なのか、この世界の人間には無いある特殊な成長能力によるものだ。
ある時俺は、強いモンスターを倒せば倒すほど力を得られることに気が付いた。恐らく経験値のようなものがあり、それが一定量溜まると突然身体能力が向上するのである。
それに気が付いてからというもの、こっそり街の外に出ては凶悪なモンスターと戦い続けてきた。何度か危ない場面もあったが、無理をすればするほど強くなることができたので、俺は危険を顧みずモンスターに挑み続けた。
その結果、数十人で倒す準A級モンスターを一人で倒せるほどの力を得ることができた。エドマンドは俺がキングボーアを倒すことなどできないと思っていたみたいで、俺がピンチになったら連れてきた兵士とともに助太刀に入ろうとしていたのだろう。
ちなみに準A級というのは、この世界でのモンスターランクである。上から特A級、A級、準A級、B級、C級、ランク外といった順番があり、今回倒したキングボーアは上から3番目のランクだ。昔はA級しかなかったらしいが、A級でもモンスターの強さがかなり違うとのことで細分化されたらしい。
ともかく俺もかなり強くなった。さすがにそろそろ魔王討伐に向かいたい。この世界での生活に馴染み過ぎてしまって、もう前いた世界の記憶が薄れてきているくらいだ。このままじゃマズイ。
「・・・ということであってタケル!お前は確かに強くなったが、まだまだ周りが見えていないことがあるし、それに・・・って聞いているのか!」
「もちろんですよ兵士長!それよりほら、みんなでキングボーアの肉を切り分けて街に持ち帰りましょう!城や街の皆さんもきっと喜びますよ。」
「ああ、それはもちろんだが・・・おい!まだ話が!」
俺は兵士長の脇を抜け、既に解剖作業を始めていた兵士たちに混ざりに行った。さっきまで生きていた生き物を食べることへの抵抗なんて、もうとっくの昔に無くしてしまっていた。この世界ではそれが当たり前なのだ。
「今夜はボーア鍋で一杯やりたいっすね!」
若い兵士が俺に言った。この世界の成人は15歳であると同時に飲酒も15歳から可能だ。俺も既に酒の味を覚えてしまっていた。
「お、いいね!今日は兵士長がおごってくれるらしいし、朝まで飲むか!」
「おい、何を勝手に・・・」
エドマンドが止める間もなく、それを聞いた兵士たちは大きな歓声をあげた!
「兵士長!ありがとうございます!」「今日は久々に羽目を外すか!」
兵士たちは皆嬉しそうだった。それを見てエドマンドは何も言えなくなり、片手で顔を覆った。
「本当にお前なあ・・・まあ今日はお前が準A級を一人で倒したことだし、何か祝ってやりたいと思っていたから別に良いが・・・」
「・・・兵士長。俺がここまで強くなれたのも兵士長が色んな事を教えてくれたおかげです。本当に今までありがとうございました!」
俺は真剣な表情でエドマンドに向き合い頭を下げて言った。突然の俺の行動にエドマンドはぽかんと口を開けていた。
「ったく、本当にお前はいつも突然・・・」
エドマンドは何か言おうとしたが結局何も言わず、顔を背けてしまった。背ける直前の顔がいつもの固い表情ではなく緩んでいたように見えた気がした。
俺の剣の師匠がエドマンド兵士長で本当に良かった。俺は自信を持って魔王討伐に行くことができる。
ヴィクターを説得して、いよいよ旅立ちだ。俺は自分の両手を目の前に出し、手のひらを思いっきり握りしめながら、まだ見ぬ冒険に心を躍らせた。




