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異世界と魔女  作者: 氷魚
第一部 異世界と勇者 第一章
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第19話

模擬戦の後も訓練は続いた。俺は引き続き、素振りを中心とした基礎訓練に取り組むことになったが、先ほどのトミーの態度が気になってしまい、あまり訓練に集中出来なかった。


日が暮れ始めた頃に「今日の訓練はここまで!」というエドマンドの声が聞こえたの合図に各自片づけをし始めた。訓練が終わったようだ。


俺も簡単に片づけした後、エドマンドや周りの兵士たちに軽く挨拶してその場を立ち去った。特にこの後の予定は決められていないはずだが、屋敷に戻ってヴィクターに報告した方がいいだろう。


「おーい、タケル!ちょっと待ってくれよ!」


足早に屋敷に戻ろうとしていた俺に対し、誰かが声をかけてきた。振り返って見てみるとその姿は先ほど模擬戦で戦ったトミーだった。


「えっと、トミー?どうかした?」


俺は少し緊張しながらトミーに答えた。先ほどの戦いの件で因縁を付けられるのではないかと思ったからだ。


「お前、殿下の屋敷に行くんだろう?途中まで帰る方向同じだからさ。せっかくだし一緒に帰ろうぜ!」


トミーはあっけらかんとした表情で言った。先ほどの不機嫌な表情はもう無くなっていた。


「ああ、別にいいけど、その・・・」


「うん?どうかしたか?」


「いや、さっきの戦いの事を気にしてるんじゃないかと思って。俺が勝てたのは多分運が良かっただけだ。」


「ああ、さっきの模擬戦ね!いやあ、お前本当に強いのな。俺感動したよ!」


「へ?」


トミーの意外な返答に俺は少し間抜けな声を出してしまった。


「負けた直後は悔しくて思わずお前の事を睨んじまったけど、よくよく考えると全く歯が立ってなかったもんな。俺の渾身の一撃は全く当たらないし、かと思ったらいつの間にか切り込まれてるしで、上には上がいるものだと思い知ったよ。」


トミーは先ほどの戦いを振り返りながら、しみじみと言った。


「俺はこの国史上最年少で兵団に入ってさ。同世代には負けたことなんてなかったから、俺は自分のことをこの世界最強の剣士だとばかり思っていたんだよ。実際周りも似たようなこと言ってくれてたしね。だけど今日タケルと戦って、俺は自分が天狗になっていたと気づいたんだ。」


トミーは話しながら照れくさそうに鼻を擦った。俺は黙ってトミーの次の言葉を待った。


「そんな俺がすげえって認めたんだから、タケル!お前はやっぱりすごいんだよ。だから運で勝ったとか言うな。お前はちゃんと実力で俺に勝ったんだからさ。」


トミーは話し終えるとニカっと笑った。


俺は自分の浅はかな考えを恥ずかしく思った。俺が圧勝したからトミーが不機嫌になっていると思い込んでいただけでなく、その勝利でさえ、まぐれだと言い相手の気持ちを傷つけてしまったのだ。


「そうだな、運なんて言って悪かった。確かに俺はちゃんと自分の実力でトミーを打ち負かした。それは確信して言えるよ。」


「お、言うな。ま、今日は負けちまったけど、ずっと負けっぱなしのつもりはないからまた模擬戦やろうな。いつか絶対勝ってやるから!」


トミーはそこまで言うと、俺に向き合い手を差し出してきた。


「うん。俺からも頼む。またトミーと戦いたい!」


俺は答えながら手を差し出し握手をした。お互いに目が合うとなんだか急に恥ずかしくなり、二人してプッと吹き出し笑いあった。


・・・


「ところでさ、タケルって今何歳?」


帰り道を二人で歩いていると、トミーが突然聞いてきた。


「14だけど、なんで?」


「そっかあ、14かあ。実は俺、先月15歳になって成人したんだけどさ・・・」


トミーは少し言いづらそうにしている。一体何の話をしたいのだろうか。というか、この世界の成人は15歳なのか。世界が変わればルールも変わるものであると改めて実感した。


「城を出て北に行ったところに職人街があるの知ってるか?その一画に飲み屋とかが立ち並ぶ歓楽街があるらしいんだけど、その中のとある店にとびっきりの美人なお姉さんがいるらしくてさ・・・」


「えーと、それがどうかしたの?」


俺はトミーの言わんとしていることがいまいち分からなかった。トミーは「はあ~」とため息をつくと、意を決したように話し出した。


「だからさ、一度行ってみたいんだよ!先輩はまだ早いって言って連れていってくれないし。なあ、タケルが成人したら一緒に行こうぜ!頼むよ!」


トミーは顔をデレっとさせながら言った。その顔はまだ見ぬ歓楽街の美女の事でも想像しているのだろうか、トミーの顔がどんどんだらしなくなっていくのが分かる。さっきまでの雰囲気が台無しだ。


「いや、俺はまだそういうのあんまり興味ないから・・・」


いくら成人が15歳だと言っても俺の世界の倫理観ではそういう店に行くのは早すぎる気がした。というよりそんな場所に行く自分のことなんて想像したことも無かった。


「ったく、なんだよ。タケルは剣の才能は一流なのに、そういうところ子どもみたいだな。」


トミーがつまらなそうな顔をして言ってきたので、俺は思わずムッとした。


「別にそういう店行くことが大人っぽいてことじゃないだろう。だいたい、トミーはもう成人しているんだから一人で行けばいいじゃないか。」


「いや、その一人で行くのは流石に・・・違う!勇気がないわけじゃないんだ。その何ていうか一人だと心の準備とか、行ってから何したら良いのかとか、色々考えてしまうし・・・」


トミーは俺から目線を逸らして言い訳じみた事を言い始めた。


「なんだ、ビビってるだけじゃないか。トミーだってまだ子どもだよ。」


俺がトミーにツッコむと、トミーは「うるせー」と言いながら俺の首に腕を回し、軽い締め技のような事やってきた。俺は笑いながら腕から逃れる。トミーも楽しそうに笑っていた。


なんだか元の世界の中学の友達とふざけ合っていた時のことを思い出した。この世界に来るまでは当たり前だったもの。でも今ではそれがとても大切なものだったってことが痛いほど分かる。


トミーと話をしながら屋敷まで帰る間に、先ほどまで感じていた孤独感はいつの間にか無くなっていた。

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