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異世界と魔女  作者: 氷魚
第一部 異世界と勇者 第六章
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第16話

夜になり、村長の家から外に出ると、村は人々の賑わう声で活気にあふれていた。


村の中央にある広場にはキャンプファイヤーのような大きなたき火があり、それを囲むようにして村人たちは楽しそうに話していた。


「あ、冒険者の人たちだ!」


「あの大蛇を倒した人たちか……すごいよな、あれを倒したんだから」


俺たちを見つけた村人たちは嬉しそうにこちらを見て、それぞれ何かを話していた。


彼らの表情は、初めて村を訪れた時のものとは異なり、人間らしさが感じられるものだった。


「いったいどういうことなんですか?」


「あの二匹の巨大モンスター……あれは”ゴーレムスネイク”というモンスターで、本来であれば、ゴーレム山脈に生息しているらしく、まれに川に流され、あの谷に現れることがあるのです」


隣にいた村長に俺が尋ねると、彼は神妙な面持ちで話し始めた。


「通常であれば、私たちと大きさは変わらず、ここの村の人間でも狩ることが可能なモンスターなのですが、あの二匹は通常の何倍もの大きさに成長してしまっていて、村の狩人たちでも手も足もでなかったのです」


村長は谷の方を見ながら話をしていたが、突然俺の方へ振り向いた。


「いずれ谷で食べるものがなくなれば、奴らは谷を出て、ここに来るのではないかと危惧しておりました。しかし、そんな奴らをあなたたちが退治してくれた。タケル殿、あなたたち冒険者は村の救世主なのですよ」


村長は自分の言葉に頷きながら優しく微笑み言った。


(……正直、そんなつもりは全然なかったんだけどな)


俺は村長から視線を外して頬を軽く掻いた。村長たちの俺たちに対する感謝はしっかりと伝わったが、俺たちはカシュウ草を手に入れる成り行きでモンスターを倒しただけであって、なんとなく居心地の悪さを感じた。


(……けど)


俺は村の人たちを見た。誰もがモンスターに襲われるという恐怖がなくなったためか、穏やかな顔をしていた。


俺たちのやったことで、たくさんの命が救われた。そう考えると少し心が軽くなった気がした。


「タケルさん~、あ、いたいた!これ美味いっすよ!」


聞き慣れた声がしたのでそちらに目を向けると、リックとドロシーが片手にお皿を持ち、何かを食べながら近づいてきていた。


「お前ら、いつの間にかいなくなったと思ったら……なに食べてんだ?」


「さっきのモンスターの肉です。どうやら村の人たちが谷に行って、あのモンスターを運んできたみたいで、今日はそれを焼いてみんなで食べるための宴らしいですよ」


リックは俺に答えながら、お皿にあった肉を美味しそうに口に運んだ。


(あれを食うのか!だってあれはどう見ても、”蛇”だったぞ!)


この世界では倒したモンスターを食べる習慣があり、俺も何度かモンスターを食べたことがあった。


しかし、見た目が猪や牛のようなものであれば、食べようという気持ちも生まれるものの、さすがに蛇の肉を食べたいとは思わなかった。


「……タケル、好き嫌いはよくない……これ美味しいよ」


俺の表情から心の声に気づいたのか、ドロシーは肉を頬張りながら俺に言った。


(まあ、そこまで言うなら挑戦してみてもいいけど……)


気がつけば空腹だった。何かしら食べるのであれば、あのモンスターの肉を食べないというわけにはいかず、俺は肉を調理している場所を探すため、周りを見回した。


「……はい、これ」


いつの間にか俺の隣にいたミアが、視線を逸らしながら俺に皿を渡してきた。


「なんだ?」


「食べるんでしょ、お肉?これ、私が焼いてきたものなの、よかったらと思って」


俺に視線を合わせないまま、ミアは俺の言葉に答えた。たき火の明かりのせいか、ミアの顔が赤くなっているように見えた。


俺は渡された皿に乗っていた肉を口に運んだ。とんでもないゲテモノのような味を覚悟していたが、意外にもあっさりとした鶏肉のような味が口に広がっていった。


「美味い」


素直な感想を俺はつぶやいた。この肉の正体があの大きな蛇だったとは思えないぐらい、上質な肉であり、いくらでも食べられると思った。


「でしょ!?このお肉、うちの村の名物なんだから!喜んでもらえてよかった~!」


俺の反応を見たミアはぱっと表情を明るくして、誇らしげに言った。


「ん?なにか始まるんですかね?」


たき火近くから音楽が聞こえ始め、リックがそちらを見て言った。


音楽に合わせ、村人たちがたき火の前で楽しそうに踊り始めた。


踊っている人も音楽を奏でる人も、それを見ている人もみな楽しそうだった。


(……リックから聞いていた村の話とは違うな)


白魔族は人族だけでなく、魔人族からも差別され、外部を拒絶している種族だという話だったが、実際はこのように楽しいことを楽しめる俺たちと変わらない普通の人たちのようだ。


「あ!私も踊ってきますね!」


ミアはそう言うと、たき火に向かって走っていき、そのまま踊りの輪の中に加わった。


ミアが踊り出すと、より周りは盛り上がり、宴はますます盛況となった。


そんな人々を離れた場所で俺はぼんやりと眺めていた。

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