第15話
「ここが私の村です!って、皆さん、一度もうここを訪れてますよね?」
ミアは俺たちの先頭を歩きながら楽しそうに言った。
渓谷から村までの道中、ミアは終始ご機嫌な様子だった。リックとドロシーもそのミアの様子を見て微笑んでおり、いつの間にかミアのパーティ入りが決まってしまったような雰囲気だった。
(……俺は認めないからな)
ミアは確かに魔法が使えた。それでも戦闘では素人であることは変わりなく、モンスターの強さによっては、あっさりと死んでしまう可能性が高かった。
俺はもう目の前で誰かが死ぬのを見たくなかった。
……
村に入ると、村人たちは俺たちを再度じっと見てきた。しかし、最初村を訪れた時と異なり、今の表情には驚きが含まれていた。
「あはは……ごめんなさい。ここの村の人たちって、よその人に慣れてなくって」
ミアはバツが悪そうな表情で俺たちに言った。
(いや、村人たちはお前が俺たちと一緒にいることに驚いてるのだと思うんだが、それにしても……)
俺は改めてミアを見た。この妙に明るく、人との距離感が近い彼女は、どう考えても他の白魔族と比べて異質だった。
いったいミアは何者なのか。俺は彼女に対し、まだ恐怖に近い感情を拭いきれていなかった。
「着きました!」
突然ミアは見覚えのある家の前で立ち止まった。
「ここって……」
リックは少し驚いた表情でつぶやいた。
この家は俺たちがカシュウ草の情報を手に入れるために訪れた家だった。
「ここが私の家です。おじいちゃんと二人暮らしなんですけど、おじいちゃんいるかな?……おじいちゃん!帰ったよ!」
ミアは俺たちに説明しながら扉を開き、中に入って呼びかけた。そのまま俺たちもミアに続いて家の中へ入った。
中では、白髪の老人が先ほどと同じように火鉢の前に座っていた。そしてミアの声に気がついたのか、ゆっくりとこちらを見た。
「……ミアか?……ん、お前さんたち、なぜミアと一緒に!?」
老人は俺たちにも気づき、驚きの声を上げた。
「えへへ、実はね……」
ミアは嬉しそうにこれまでの経緯を説明し始めた。
……
老人は静かにミアの話を聞いていた。話が少し長くなることもあり、俺たちは家に上がらせてもらい、火鉢を囲むようにしていた。
「……ということがあったの!ねえ、おじいちゃん、私すごいでしょ!?」
老人の隣に座ったミアがまるで自分の冒険譚を自慢するかのような口ぶりで話を終えた。
「……」
老人は何も答えなかった。その代わりに、立ち上がりミアに近づき、右手に拳を作って、そして……
「……!痛ったい!なにするのよ!」
老人はミアにゲンコツをした。そしてすぐさま、頭を押さえた彼女は不満の声を上げた。
「……改めまして、私はこの村の村長をしている者で、これの祖父でもあります。この度は皆さまに孫が多大なご迷惑をお掛けし、申し訳ありませんでした」
村長を名乗った老人は、俺たちに深く頭を下げながら謝罪の言葉を口にした。
「いやあ、そんな頭を上げてください。実際に俺たちもミアさんに助けられたのは事実ですし……」
リックは中腰になりながら村長に言った。
「いえ、皆さまだけでしたら危険を冒してまであのモンスターと戦う必要はなかったでしょう。本当にどうお詫びをしていいものか……そうだ、皆さまはあれを倒されたのでしたね?それも二匹とも」
「はい、首を落として完全に動かなくなったのを確認したので間違いないです」
俺は村長の言葉に頷きながら答えた。
「そうですか、それなら……少しばかりお待ちください」
村長はそこまで話すと立ち上がり、家の外へ出ていった。
……
「村の若い者に言って、モンスターたちを回収させに行かせました。夕方ごろには戻ってくることでしょう」
少し時間が経ってから、村長は戻ってきて言った。彼は出会ってからずっと無表情だったが、今は少しばかり顔がほころんでいるように見えた。
「今夜は宴になります。皆さまぜひ、ご参加ください。村の者全員でもてなしますので」
村長は話し終えると初めて俺たちに笑顔を見せた。
なんのことだかよくわからなかった俺たちは、困惑するように互いに顔を見合わせた。




