第13話
「……なに言ってんだ、お前?」
驚きのあまり俺は口を挟むようにミアに言った。
「私、あの村を出て、いろんな場所に行ってみたいなってずっと思ってたんですよ。それでカシュウ草を集めてお金を貯めてたりしたんですけど……でもさっき皆さんがモンスターと戦う姿を見てたら、冒険者として世界を巡るのもいいなって思いまして……ダメですか?」
ミアは少し照れた表情で話しながら、上目遣いで俺に尋ねてきた。
(俺たち死にかけてたよな?なんでさっきの戦闘を見て、こんな結論になるんだ?)
ミアがいったいなにを考えているのか理解できなかった俺はリックの顔を見た。
しかし、リックもリックで口を開いたまま絶句していた。
「……ミア、冒険者になりたいの?」
ドロシーはいつもより少し大きな声でミアに尋ねた。そして、少しだけドロシーの顔が赤くなっているような気がした。
「うん、私もこのパーティで冒険者になりたい!……そうなったら、一緒に冒険できるね、ドロシーちゃん!」
ミアは興奮した様子でドロシーの両手を掴み答えた。その瞬間、ドロシーの顔は完全に真っ赤になり、そのまま何も答えず俯いてしまった。
「ちょっと待て、ドロシー!勝手に話を進めるな!ミアちゃんも急になに言い出してんの!そんなのダメに決まってるだろ!冒険者だよ!?死と隣り合わせの世界なんだよ!?」
ドロシーが乗り気なことに焦ったのかリックが慌てながら強い口調で言った。
「わかってますって。さっきのモンスターとの戦いを見ていたんですから。それも覚悟の上で言っているんです」
ミアは自信満々な顔をしてリックに言った。
「……買取じゃダメかな?どちらにしろ、そのカシュウ草は売るつもりなんだろ?」
珍しいことにリックは少し弱気な態度でミアに尋ねた。答えを聞くまでもなく、彼女が次になんて言うのかわかっているみたいだ。
「ダ・メ・で・す!皆さんと商人さんは違います。私をパーティに入れてくれない限り、このカシュウ草を渡す気はありませんから!」
ミアは頬を膨らませながらリックを睨むようにして答えると、バスケットを両手で大事そうに抱えてしまった。
「……リック、ここは諦めよう」
俺はミアに聞こえないように小声でリックに言った。
「え?でもあれさえ手に入れば、莫大なポイントを得られるんですよ」
リックは苦々しい表情でバスケットを見つめながら俺に言った。
「違う、俺が言ったのは”ここで”カシュウ草を手に入れるのを諦めるってことだ」
さらに声を小さくし、俺はリックに提案した。
「あいつをいったん村まで連れてこう。そうしたらあいつは隣村の商人にカシュウ草を売りに行くはずだ。その後、俺たちは商人と交渉してそのカシュウ草を買い取ればいい」
商人が法外な値段を吹っ掛けてくるかもしれないし、もしかしたら金額関係なく俺たちに売らない可能性もあった。しかし、俺にはミアをパーティに入れるという選択肢は最初から頭になかった。
「なにをコソコソ話しているのか知りませんけど、交渉決裂ならカシュウ草をこうしますよ!」
ミアの声に俺とリックが顔を上げると、ミアはいつの間にか崖近くに立ち、谷底にバスケットを落とそうとしていた。
「ミアちゃん、なにを!?そんなことしたらミアちゃんだってお金が手に入らないじゃないか!?」
「別にお金なんてどうでもいいです!今の私にとって一番重要なのは皆さんのパーティに入ることなんですから!私は本気です!」
リックの言葉に対し、ミアは真剣な表情でこちらを見て言った。徐々に谷底に向けられたバスケットを持つミアの手が緩んでいくのが見てわかった。
リックは苦悶の表情でバスケットを見つめていた。しかし、それでも「条件を飲む」という一言だけは、リックは絶対に言わないだろうと俺には思えた。
(なら仕方ないか……)
俺は一歩前に出た。すると警戒するようにミアは体を強張らせながら俺を睨んだ。
「いいよ、落とせよ」
俺は表情を変えずに淡々とミアに言った。
「……え?そ、そんな!?でもそれじゃあ皆さん困りますよね!?」
予想外の答えだったのか、ミアは焦るように声を震わせながら俺たちに尋ねた。
「別に構わない。依頼を失敗することなんて、冒険者をやってれば避けて通れないことだし。今回は不運だったと思うよ」
正直今回ばかりは絶対に失敗したくない依頼だった。だが、それでも俺は迷わず言葉を続けた。
「だけど不運は受け入れても、お前をパーティに受け入れることだけは絶対にしない。カシュウ草は好きにしたらいい」
俺はそこまでミアに話すと、そのまま背を向け、村に戻るために歩き始めた。
リックとドロシーは一瞬だけ俺の言葉に呆気に取られたみたいだったが、すぐに俺についてくるように岩を降り始めた。
「どうして……どうしてそこまで私を拒否するの!?私のなにがダメだっていうのよ!?」
振り向くとミアが叫ぶように言葉を発しながら、俺に走って近づいてきた。
そして目の前に立ち止まり、キッと俺を睨みつけた。
「お前……なにができるの?」
「……え?」
そんなミアに対し、俺が短く問いかけると、彼女はポカンとした表情を浮かべた。
「武器は使えるのか?魔法が得意なのか?それとも、パーティに貢献できるなにか別の能力でもあるのか?」
「……武器なんて今まで持ったこともないけど……それに魔法も今日タケルさんが使ったの初めて見たくらいで、他に能力なんて……」
俺の言ったことの意味が理解できたのか、ミアは俯きながら弱々しい声で答えた。
(……話にならないな)
俺はミアを呆れるように見た。なぜその能力で俺たちについて行こうとしているのか、彼女の真意が全くわからなかった。
「だけど、初めは誰だってなにもできないじゃない!最初はみんなの足引っ張るかもしれないけど、でも私、一生懸命努力するから!」
一度は弱気な顔を見せたミアだったが、それでも諦めずに食らいつくように言った。
「お願い……私、あの村を出て、いろんな場所に行ってみたいの。……わがまま言ってるのはわかってる。でも、どうか……私を連れて行ってください」
ミアはそこまで話すと俺に向かって深く頭を下げた。
だけど、そんなことをされても俺の考えはまったく変わらなかった。
「すぐ死ぬような奴をパーティに入れるつもりはない。村を出ていきたいのなら勝手にすればいい。それか他の奴にでも頼め」
俺は頭を下げるミアを見下ろしながら声を低くして答えた。そしてそのまま再度彼女に背を向け歩き出そうとした。
「だったら、今ここで魔法を使って見せる。それができたら私の話も少しは考えて!」
ミアの言葉に俺はもう一度振り向くと、顔を上げたミアが真っすぐこちらを見ていた。
「……お前、今まで魔法を使ったことはあるのか?」
「ううん、一度もない。村の人も誰も使えないから、教えてもらったこともない」
俺の質問に少し自信をなくしたのか、ミアは俺から視線を外して答えた。
(……本当に面倒くさい女だ)
ミアの言葉に、思わず「はあ」と深いため息が出た。
このまま話を終わりにして、村に帰ってしまってもよかった。だが、悲しく悔しそうな顔を見せているミアに少しだけ心を動かされてしまった。
「実戦で使える魔法が作れたならな」
一度だけミアにチャンスを与えることにした。
「……本当に!?わかった!絶対成功させるから!」
俺の言葉にミアは表情を明るくした。そして近くにバスケットを置くと、両手を自身の前に突き出し、目を閉じて集中し始めた。
俺はそんなミアを静かに見ていた。
結果はわかっていた。なぜなら俺の出した条件をミアが達成するのは、絶対に不可能だったからだ。




