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異世界と魔女  作者: 氷魚
第一部 異世界と勇者 第六章
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第5話

朝になり、俺は一時間ほどベッドに横になった後、冒険者ギルドに向かった。


昨日の晩、再度そこで今後のパーティの方針を話し合うことをリックと約束したため、俺は朝食を取ることもなく、ギルドのある建物を目指した。


ギルドに到着すると、受付前にリックとドロシーがすでにいて、特にリックの顔色が悪く見えた。


「悪い、待たせたな」


俺は二人に近づきながら片手を軽く上げて言った。


「いいえ、俺たちも今来たところなんで大丈夫ですよ。うぅ、頭が痛い」


リックは頭を押さえながら、俺に弱々しく微笑んだ。そういえば、リックもなんだかんだでドロシーに負けず劣らず酒を飲んでいたことを思い出した。


「……タケル、おはよう」


ドロシーはいつも通りの無表情で俺に挨拶をした。どうやらこちらは薬のおかげか、二日酔いはなさそうに見えた。


「ああ、おはよう、ドロシー……それでリック、今日の予定はどうするんだ?」


「とりあえず、昨日話せなかった今後の方針について、俺から提案があるんで聞いてもらえますか?」


俺とドロシーが無言で頷くと、リックはゆっくりと話し始めた。


……


「皆さんご存じの通り、現在我々レハングルの獲得ポイントは二位ですが、一位のアイアンタイガーに大きく差をつけられている状況です」


リックの話に耳を傾けながら、ガルネット率いるアイアンタイガーの特徴について考えた。


アイアンタイガーはモンスターの討伐といった依頼を好んで引き受ける傾向があった。討伐依頼は他のものよりも獲得ポイントが大きく、特に彼らは難易度の高い依頼を積極的に選び、それを完遂させてきた。


それが今の一位という結果を生み、俺たちレハングルとの差となっていた。


「このまま今まで通り、手堅い依頼ばかりこなしていても、絶対にアイアンタイガーには追いつけないでしょう……なら、そろそろレハングルも”冒険”する必要があると思います。冒険者だけにね」


リックの冗談に俺とドロシーは何も反応しなかった。


そんな俺たちの反応にリックは恥ずかしくなったのか、わざとらしく「コホン」と咳払いをしてから再び話し始めた。


「まあ、それはともかく……レハングルは今後高難度の依頼に挑んでいくべきだと考えています。その分、危険も伴いますが、ポイントも大きい。シルバーを目指す以上、これは避けて通れない道になるでしょう」


「……むう」


リックの話にドロシーは複雑そうな表情で唸った。彼女もいずれこうなることは予想していたのだろうが、いざそれが目の前に現れると、覚悟を決めるには難しいのかもしれない。


「俺は構わないが、難しい依頼に挑戦して失敗でもしたら、逆にポイントが減ってしまう可能性もあるだろう?」


俺はドロシーの様子に気が付かないふりをしたまま、リックに尋ねた。


依頼はただ受ければ良いというわけではなかった。当然失敗すれば、ペナルティとしてポイントを失ってしまう仕組みになっていて、それを恐れた俺たちは今まで確実にこなせる依頼だけを選択してきた。


「ええ、それはわかってます。いきなり大物モンスターの討伐をやるつもりなんて、俺にもありませんよ」


リックはそこまで話すと、手に持っていた依頼書を俺に見せた。


「まずは様子見ということで、薬草採取依頼をやりたいと思います」


「”カシュウ草”の採取依頼?……確かに報酬、ポイントとともに破格だが、なんでただの薬草採取でこれだけのポイントがもらえるんだ?」


俺は依頼に目を通しながら、首を傾げ、リックに尋ねた。


「それはですね、このカシュウ草って”カシュウ渓谷”に多く生息している薬草なんですけど、この渓谷に行くためには、”白魔族の村”を通る必要があるんですよ。それでこの報酬の設定というわけです」


リックはニヤリと悪い笑みを浮かべながら俺に答えた。


……


「白魔族の村ねえ……」


整備されていない平原を歩きながら、俺は独り言のようにつぶやいた。


俺たちはエゼムから北東に向かって徒歩で目的地を目指すことになった。


“白魔族”と呼ばれる種族はどうやら他の種族、村との交流を断っているらしく、馬車などの交通手段も存在していなかった。


そのため、俺たちは徒歩で白魔族の村に向かうしかなかった。


「そもそも、その白魔族ってどういう種族なんだ?」


隣を歩くリックに対し、俺は尋ねた。


「……うーん、そうですねえ、彼らは一応、亜人族ってことになるのでしょうが、完全に亜人族とも言えない存在なんですよ」


「もっと詳しく話してくれないか?」


何とも煮え切らない態度で答えるリックに対し、俺は話の続きを促した。


「彼らは人族と魔人族の間に産まれた子どもの子孫なんです。なので、亜人族とも言えるし、人族とも言える……いや、もしかするとどちらにも分類できないから白魔族って呼ばれているのかもしれませんね」


リックは話をしながら少しだけ暗い表情になった。


「この世界では人族と魔人族の子どもは珍しいのか?」


「ええ、アウストリア派シデクス教では”禁忌”とされています。まあ、人族にとって魔人族は長年の天敵ですし、そんな種族と人族の子どもなんて恐ろしいって考える人が多いからでしょうね」


リックは呆れた表情で一つため息をつきながら俺に答えた。アウストリア派らしい考え方だが、少なくともリックはそのように考えていないのだと俺にはわかった。


「人族だけじゃなく、魔人族からも白魔族は嫌われているようで。魔力も魔人族に比べ少なく、純粋な魔人族でもない。いわゆる”半端者”として差別される対象みたいです」


「……半端者」


リックの発した言葉が妙に頭に残り、俺は思わず、それを反芻した。


「そんなわけで彼ら白魔族は世界のどこにも居場所がなく、結果として自分たちだけの村を作り、他種族や他の村との交流を拒絶して生活している。とまあ、白魔族と呼ばれる種族とその村の成り立ちはこんなもんですかね」


リックの話から白魔族という種族がどのような存在なのか理解できたが、それでも俺にはまだ引っかかることがあった。


「……やっぱりよくわからないんだけど、魔人族って見た目はそんなに人族と変わらないだろ?だったら人族との間の子どもだって見た目は人族にしか見えないわけだし、どうして差別されたりするんだ?彼らに自分の出自を隠さない信条でもあるのか?」


「ああ、そういうことですか。それであれば”百聞は一見に如かず”ってことになりますね。村に行けば、タケルさんの疑問も解消されるはずですよ」


……


夜、俺たちは野宿することになった。徒歩で白魔族の村まで行くには一日以上かかるため、今日は道の途中で休むことにした。


「……捕ってきたよ」


ドロシーは無表情のまま、捕まえてきた鳥のような獣を俺に見せた。


ドロシーの弓の技術と気配を消せる能力は狩りに最適だった。


(魔王討伐なんてなければ、ドロシーはどこかで平和に生きられたのかもしれないのに)


また胸がズキリと痛んだ気がした。だが、俺はそれを無視し、「ありがとう」とだけ一言ドロシーに礼を言って、獣を捌き始めた。


夕食後、俺たちは順番に火の番をしつつ、横になった。


その日も俺は一睡もできなかった。


……


朝になり、俺たちは白魔族の村に向けて出発した。


(昨日の道程もそうだけど、夜もモンスターや盗賊に襲われる気配すらなかったな。なぜこの依頼が高難度なんだろう?)


俺はリックが依頼を持ってきた時からの疑問を改めて考えながら道を進んだ。


……


出発から数時間後、小さな集落が見えてきた。


そしてそこに近づくと、村人らしき人間が数人いた。


(……ああ、だから”白魔族”なのか)


村人を見た瞬間、なぜここが”白魔族の村”なのか、そしてなぜ彼らが人族と魔人族の両方の血を持つ種族とわかってしまうのか、すべてが理解できた。


彼らの髪は全員、雪のように真っ白だった。


白色の髪を持つ白魔族、彼らの住む村に俺たちは到着した。

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