第14話
翌日の朝、俺はヴィクターに連れられ、ヴィクターの父であるカーレイド王に挨拶をしに行くことになった。この世界の礼儀作法なんて分からないし、王様に会うなんて人生で全く経験も無いことなので、正直断りたかったが、ヴィクターにどうしてもと強くお願いされてしまい、やむを得ず、王の元へ向かうことにした。
王と会うといっても非公式なものだから、礼儀作法も気にしなくていいとヴィクターは言ってくれたが、何か失礼をして王の機嫌を損ねて、今後の城での生活に支障をきたしてしまうことは避けたいので、出来る限り常識のある言動をしようとだけ考えた。
王のいる場所は玉座だとばかり思っていたが、ヴィクターが俺を連れていった場所は王の寝室だった。さすがに非公式な会合といっても、いきなり寝室に行くのは王に失礼じゃないかと思ったが、ヴィクターは構わず部屋をノックして入っていく。そうなると俺も覚悟を決めて部屋に入るしかなかった。
「父上、おはようございます。ご気分はいかかがでしょうか。」
部屋に入ると大きなベッドに眠る年老いた男性がいた。その人がカーレイド王であり、ヴィクターの父親だということは、ヴィクターと同じ金髪の髪からも何となくわかった。
「ああヴィクターか、おはよう。今日は随分と体の調子が良くてな。こうやって朝から起きて書類に目を通すことができる。」
男性は書類を枕元に置きながらこちらを見た。顔はヴィクターとどことなく似ているが、随分とやせ細ってしまっている。何かしらの病気なのかもしれない。
「今日は予言にあった勇者をここにお連れしました。名はタケルです。」
俺はヴィクターに紹介されたので、前に出てカーレイド王に挨拶した。
「タケルと申します。こことは違う世界から来ました勇者です。」
「そなたが勇者か。まさに予言通りの姿じゃな。これは将来が楽しみじゃ。」
王はニコニコと気さくな笑顔を浮かべながらこちらに手を差し出したので、俺も手を出し握手をした。
その後は王に自己紹介も兼ねながら、俺の世界のことなどを話したりした。王は俺の話をとても興味深そうに聞きながら楽しそうにしていた。会って間もないが、俺はカーレイド王のことをとてもいい人なのだろうと思った。
「・・・すまぬ。少し眠くなってきてしまったようじゃ。最近は起きている時間の方が短いぐらいでな。本当に申し訳ない。また話を聞かせてくれ。」
「タケル、そろそろ退室しよう。父上もしっかり休んで一日でも早く元気な姿をお見せください。」
ヴィクターの言葉にカーレイド王は「うむ」とだけ言って頷き、そのまま横になった。その際、カーレイド王は近くにいた俺に耳打ちした。
「息子のことを頼む。力になってやってくれ。」
俺はカーレイド王の目を見て無言で頷いた。




