第3話
「だけど、シルバーになるのがこんなに大変だったとは思いませんでしたね」
リックは呆れたように両手を上げてそう言った。
その言葉通り、シルバーへの道は簡単なものではなかった。
冒険者になったのが一年半前、無印からブロンズへの昇格は、冒険者を始めてすぐに達成できた。
基本的に階級を上げるためには、仕事をこなした時に得られる”ポイント”を一定数貯める必要があり、冒険者になった俺たちは一つ一つ確実に依頼をこなしていき、半年ほどでブロンズへの昇格を果たすことができた。
そして今年は目標だったシルバーに昇格するため、ブロンズになった時と同様に依頼をこなしているのだが、シルバーへの昇格は、ブロンズの時と異なり、少し複雑だった。
「ああ、シルバーになれるのはエゼムのギルドに加盟するブロンズパーティのうち、年に三組だけだ。どんなにポイントを稼ごうが俺たちよりポイントの多いパーティが三組いたら、その年にシルバーへ昇格はできない」
俺が補足するように答えると、リックはゲンナリとした表情を見せた。
ブロンズは一定のポイントを貯めるだけでよかったが、シルバーは他のパーティ次第なところがあった。例年であれば、俺たちが今貯めているポイントは十分に上位三位に入れるもので、現に今はブロンズの中で二位という位置だった。しかし……
「……でも、シルバーからはポイントが多ければ良いってことでもないんだよね?」
ドロシーは少しだけ困ったような表情を作りながら俺に尋ねた。
「そうだ。通常ならポイントの争いだが、他にも権力者からの推薦やギルドへの寄付金などで上位十位以内くらいに入っていれば、絶対昇格できるという仕組みがあるからな」
「まったく酷い話です。そのせいで、現在三位の”ノルベール”と四位の”モルテンウィザード”がシルバー確定なんですから、もうやる気なんてなくなりますよ」
ドロシーに答える俺の言葉に対し、リックは天を見上げ、ため息をついて言った。
なぜ三位と四位のパーティが、シルバーへの昇格が決まっているのか、それにはちゃんと理由があった。
まず”ノルベール”というパーティだが、ここはパーティ名と同じノルベールという男が率いているパーティだ。彼はトランテ王国の伯爵家出身らしい。
ノルベールのポイント獲得数は俺たちより低い。しかし、彼の家から莫大な額の寄付がギルドにされているため、公然の秘密となっているが、彼らのシルバー昇格は確実だった。
もう一つのパーティである”モルテンウィザード”は、名前の通り、魔術師によって構成されるパーティだ。彼らはノルベールとは違い、なんのコネもない普通の冒険者パーティだが、エゼムのギルドへの加盟年数が十年を超えていた。
十年を超え、さらに毎年上位に入るパーティはギルドからシルバー昇格への推薦を受けられる。そのため、ノルベール同様、モルテンウィザードも今年のシルバー昇格パーティの一つであった。
「残り一枠を俺たちのパーティと”あいつら”で争わないといけない。だが俺たちは現時点であいつらにポイントで負けている」
俺はこの酒場に全員で集った目的である本題に入った。
シルバーの枠はすでに二つ埋まっており、残り一つだったが、現在二位の俺たちは一位のパーティとこれを争わなければならない。
しかし、一位と俺たちのポイント差は大きく、現状のままでは、逆転は難しい状況だった。
「ともかく、よりにもよって今年は厳しい競争になっていますが、もっと俺たち”レハングル”が頑張らないといけないですね」
俺の言葉に対し、リックは真剣な表情で答えた。
ちなみに”レハングル”という名前は俺たちのパーティ名で、リックが名付けたものだ。
リックが昔、教会の仕事で異教について調べていた時、どこかの少数民族が信仰していた神の名前が”レハングル”というらしい。
そんな名前をつけることは罰当たりな気がしたが、リックが言うには「レハングルは戦いの神様だから縁起が良いんですよ」とのことで、特に代案もなかった俺はそのままパーティ名としてレハングルを登録した。
「……でも、一位の人たちに勝てるかな?」
「まあ、”あいつら”はちょっと他のパーティと違うからな。正直、関わりたくない連中なんだが……」
心配するドロシーに答えようとしたその時だった。
「何だ、あんたたちがいんのかい!ったく、これじゃあ、酒もメシも不味くなるじゃないか!」
噂をすればというやつだろうか。不意に、聞きたくない声が、店内に響いた。
振り返るとそこには大柄な女性がいて、険しい表情を浮かべ、こちらを睨みつけていた。




