第51話
「はあ、はあ……」
サーシャとの戦いは続いていた。
ずっと互角だと思っていたが、それは俺の思い違いだった。
(……体が言うことを聞かなくなってきた。それだけじゃない、魔法の精度も威力も落ちてる。)
俺の体に明らかな異変が起こっていた。しかし、その理由は考えるまでもなかった。
(体力と魔力切れ……いくら身体能力が高くなっても、ずっと使っていれば、いつかは限界がくるものか。)
次第に、意識が朦朧としてくるような感覚も覚え始めた。
一方、サーシャは、先ほど突然咳込む場面があったこと以外、息一つ切らすことなく、戦闘開始時と変わらない冷酷な表情を浮かべたままだった。
(子どもと遊んで息を切らせていたサーシャはどこにいったんだよ!)
俺は今戦っているこの場所で、かつて子どもたちと鬼ごっこをし、それについていけずに倒れそうになっていたサーシャのことを思い出した。
(残りの体力を全部出し切るつもりで、サーシャに特攻すれば勝機はあるかもしれない。でも、それが俺の本当の望みなのか?)
劣勢が続くこの状況になっても、俺はサーシャに対し、どうするべきなのか答えを出せずにいた。
考える間もなく、再び魔法の連撃が始まった。俺は体に鞭を打ちながら、ぎりぎりのところで大岩を避けるのを繰り返した。
(オルズベックさんのことだって俺は助けたかった。だけど、それでも俺は彼を殺した。)
(俺にはやらなきゃならない目的があるからだ。だからオルズベックさんに殺されるわけにはいかなかった。)
(それはきっとサーシャが相手でも同じはず、俺は”覚悟”をしなきゃいけないのかもしれない。)
魔法の連撃が一時的に止まった隙を見て、俺は深く深呼吸をした。そして俺は心を無にし、サーシャを見ながら、鞘に戻していた剣を抜いた。
「……ようやく、魔力切れを起こしたみたいだね。さっきの光の剣がなければ、もう私の魔法を止めることはできないよ。」
サーシャは俺に冷たく言い放ちながら、両手を俺に向かって構えた。
同時にいくつもの岩石が俺に向かって飛んできた。
「……」
ただ、無心だった。避けるべき岩は避け、払うべき岩は剣で払った。
徐々にサーシャとの距離を近づけていった。
サーシャは少しだけ表情を歪ませながら、さらに魔法を撃ち続けた。
「……」
先ほどまで感じていた疲労が嘘みたいに体が動いた。動体視力も上がっているような気もした。
近づくほど、サーシャの魔法が直撃する危険性は高まったが、それでも俺はサーシャの魔法を捌きながら前へと進んでいった。
「……くっ!」
サーシャに届く間合いにもう少しで入ろうかというところだった。サーシャの放った岩石によって俺の剣は弾かれてしまった。
目の前には俺に右手を構えるサーシャがいた。既に魔力は練られ、岩石が放たれようとしていた。
対して、俺は素手となってしまった。しかし、心は落ち着いたまま、サーシャから目を離すことはなかった。
「……これで終わりだよ、タケル!」
サーシャは魔法を放った。これが直撃すれば俺の体は粉々になり、気づく間もなく死ぬことだろう。
「光の剣。」
俺は小さくつぶやくと瞬時に光の剣を錬成した。そして飛んできた岩石を切り落とし、そのままサーシャに剣が届く間合いへと入った。
「……そんな、どうして!タケルは私の攻撃を受けるのに精一杯で、魔力を練る時間なんてなかったはずなのに!」
俺に剣を向けられたサーシャは、動揺を隠すことなく叫んだ。
「さっき飛ばされた剣で魔法を受け始めた時から、ずっと両手で魔力を練っていたんだ。」
俺は淡々とサーシャに答えた。
やれるかどうかは賭けだった。俺は鞘から抜いた剣で、一つ一つが死に直結するサーシャの魔法を受けながら、両手に集中し魔力を練っていた。
そして、剣が飛ばされると同時に、両手に込めた魔力を解放して光の剣を作り上げた。
「……やっぱりすごいね、タケルは。私の攻撃を受けながら、魔力を練っていたなんて。」
この戦いが始まってから初めてサーシャは笑顔を見せた。しかし、その笑顔はいつもの明るいものではなく、暗く悲しいものだった。
俺は光の剣を構え、そのままサーシャの元に飛んだ。
サーシャはこれから起きることを受け入れたのか、目を閉じ、両手を降ろして、俺を待ち構えるように立っていた。
サーシャの目の前に近づいた。後は剣を振り下ろす、その動作をするだけだった。
「……え?」
突然、サーシャは驚きの声を上げた。
気が付けば、俺は光の剣を消し、サーシャを強く抱きしめていた。




