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異世界と魔女  作者: 氷魚
第一部 異世界と勇者 第五章
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第51話

「はあ、はあ……」


サーシャとの戦いは続いていた。


ずっと互角だと思っていたが、それは俺の思い違いだった。


(……体が言うことを聞かなくなってきた。それだけじゃない、魔法の精度も威力も落ちてる。)


俺の体に明らかな異変が起こっていた。しかし、その理由は考えるまでもなかった。


(体力と魔力切れ……いくら身体能力が高くなっても、ずっと使っていれば、いつかは限界がくるものか。)


次第に、意識が朦朧としてくるような感覚も覚え始めた。


一方、サーシャは、先ほど突然咳込む場面があったこと以外、息一つ切らすことなく、戦闘開始時と変わらない冷酷な表情を浮かべたままだった。


(子どもと遊んで息を切らせていたサーシャはどこにいったんだよ!)


俺は今戦っているこの場所で、かつて子どもたちと鬼ごっこをし、それについていけずに倒れそうになっていたサーシャのことを思い出した。


(残りの体力を全部出し切るつもりで、サーシャに特攻すれば勝機はあるかもしれない。でも、それが俺の本当の望みなのか?)


劣勢が続くこの状況になっても、俺はサーシャに対し、どうするべきなのか答えを出せずにいた。


考える間もなく、再び魔法の連撃が始まった。俺は体に鞭を打ちながら、ぎりぎりのところで大岩を避けるのを繰り返した。


(オルズベックさんのことだって俺は助けたかった。だけど、それでも俺は彼を殺した。)


(俺にはやらなきゃならない目的があるからだ。だからオルズベックさんに殺されるわけにはいかなかった。)


(それはきっとサーシャが相手でも同じはず、俺は”覚悟”をしなきゃいけないのかもしれない。)


魔法の連撃が一時的に止まった隙を見て、俺は深く深呼吸をした。そして俺は心を無にし、サーシャを見ながら、鞘に戻していた剣を抜いた。


「……ようやく、魔力切れを起こしたみたいだね。さっきの光の剣がなければ、もう私の魔法を止めることはできないよ。」


サーシャは俺に冷たく言い放ちながら、両手を俺に向かって構えた。


同時にいくつもの岩石が俺に向かって飛んできた。


「……」


ただ、無心だった。避けるべき岩は避け、払うべき岩は剣で払った。


徐々にサーシャとの距離を近づけていった。


サーシャは少しだけ表情を歪ませながら、さらに魔法を撃ち続けた。


「……」


先ほどまで感じていた疲労が嘘みたいに体が動いた。動体視力も上がっているような気もした。


近づくほど、サーシャの魔法が直撃する危険性は高まったが、それでも俺はサーシャの魔法を捌きながら前へと進んでいった。


「……くっ!」


サーシャに届く間合いにもう少しで入ろうかというところだった。サーシャの放った岩石によって俺の剣は弾かれてしまった。


目の前には俺に右手を構えるサーシャがいた。既に魔力は練られ、岩石が放たれようとしていた。


対して、俺は素手となってしまった。しかし、心は落ち着いたまま、サーシャから目を離すことはなかった。


「……これで終わりだよ、タケル!」


サーシャは魔法を放った。これが直撃すれば俺の体は粉々になり、気づく間もなく死ぬことだろう。


「光の剣。」


俺は小さくつぶやくと瞬時に光の剣を錬成した。そして飛んできた岩石を切り落とし、そのままサーシャに剣が届く間合いへと入った。


「……そんな、どうして!タケルは私の攻撃を受けるのに精一杯で、魔力を練る時間なんてなかったはずなのに!」


俺に剣を向けられたサーシャは、動揺を隠すことなく叫んだ。


「さっき飛ばされた剣で魔法を受け始めた時から、ずっと両手で魔力を練っていたんだ。」


俺は淡々とサーシャに答えた。


やれるかどうかは賭けだった。俺は鞘から抜いた剣で、一つ一つが死に直結するサーシャの魔法を受けながら、両手に集中し魔力を練っていた。


そして、剣が飛ばされると同時に、両手に込めた魔力を解放して光の剣を作り上げた。


「……やっぱりすごいね、タケルは。私の攻撃を受けながら、魔力を練っていたなんて。」


この戦いが始まってから初めてサーシャは笑顔を見せた。しかし、その笑顔はいつもの明るいものではなく、暗く悲しいものだった。


俺は光の剣を構え、そのままサーシャの元に飛んだ。


サーシャはこれから起きることを受け入れたのか、目を閉じ、両手を降ろして、俺を待ち構えるように立っていた。


サーシャの目の前に近づいた。後は剣を振り下ろす、その動作をするだけだった。


「……え?」


突然、サーシャは驚きの声を上げた。


気が付けば、俺は光の剣を消し、サーシャを強く抱きしめていた。

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