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異世界と魔女  作者: 氷魚
第一部 異世界と勇者 第一章
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第11話

逃げた先でヴィクターに取り押さえられてから一時間くらい経っただろうか。今度はおとなしくヴィクターの後ろをついて行き、ようやく城門まで戻って来れた。門の前には兵士が一人いるだけだった。兵士はヴィクターに気づくと姿勢を正し敬礼した。


「ヴィクター様、よくぞ戻られました。予定の時間より遅れていたので少し心配しました。」


「ああ、すこし寄り道する所があってね。特に問題はないよ。それじゃあ計画通り、この門から屋敷まで行くから、後は上手くやっておいてくれ。」


ヴィクターの言葉を聞いて兵士は再度敬礼しながら「は!」と言い、すぐに門を開けた。そのままヴィクターは先を進んでいくので、俺は兵士に軽く会釈をしながら、ヴィクターについて行った。


門の外の地域は寂れたところだったが、門の内側も表の豪華な城の外見とは異なり、古びた建物が何軒かあるだけで、かなり寂しく感じられた。建物の外には積み上げられたジャガイモのような野菜が置いてあることから、この辺りはいわゆる城のバッグヤードといったところなのだろう。


ヴィクターは「さあこっちにきてくれ!」と一言だけ言ったきり、少し早歩きで進んでいった。あまり誰かに目撃されたくないのかもしれない。俺はヴィクターの意図を察し、言われた通りついて行った。


しばらく歩いていくと、古い洋館のような建物が見えてきた。城門の中には城以外にも立派な建物があるという事実に俺は少し驚いた。同時にここは本当に国の中心なのだと実感した。


「到着したよ。中に入ろう。」


ヴィクターは洋館の前で止まると俺に向かって言った。ヴィクターは城に行くと言っていたような気がするが、城ではなくなぜこのような洋館に入るのだろうか。


「・・・ここは僕の所有する屋敷なんだ。中に入れるのは僕が認めた人間だけと限られている。ここでならタケルの疑問に全部答えられると思ってね。」


声には出さなかったが、俺が感じた違和感に先手を打つようにヴィクターは答えてくれた。先ほど急に逃げ出したことが、ヴィクターにはよっぽどの事だったのだろう。俺を心配させないように配慮してくれてるのがわかった。


こんな人を疑って逃げ出そうとしていたなんて・・・俺は改めて先ほどの自分の行動を心の中で深く反省した。


ヴィクターに促され、中に入ると、俺が全く想像していなかった世界が広がっていた。


床には赤い絨毯が敷かれ、至る所に高そうな絵や壺が飾られている。まるで高級ホテルのような空間だった。ただ豪華なだけではない。素人目にも隅々まで掃除が行き届いているのが分かった。


部屋はいくつもあるように見えたが、ヴィクターは廊下を進んだ先の最も奥にある部屋のドアを開け、中に入った。俺もそのままヴィクターに続いた。


「ここにかけて待っていてくれ。」


中にはソファーとテーブルがあり、部屋の奥には机もあった。テレビでよく見る社長室のような作りだ。机の上には書籍やいくつもの書類が山積みになっていることから、ここはヴィクターが仕事か何かで使う部屋なのだろう。


「待たせね。紅茶でいいかな。まずは一息つこう。話はそれからだ。」


「ありがとう。その手に持っている紅茶やお菓子はどうしたの?ここには僕たち以外誰もいなそうだけど。」


「うん、その通り、今は僕たち以外誰もいない。だから僕が用意したんだよ。」


ヴィクターは何でもないことのように言って、お茶の準備をし始めた。うーん、ヴィクターは何だか俺の想像していた王子のイメージと大分異なる気がする。しかし、モンスターがいるような異世界での王子はこれぐらいじゃないと生きていけないのかもしれない。


俺はすぐにでも話を始めたかったが、せっかくヴィクターが用意してくれたものなので、ここはいったん出された紅茶を飲んでみることにした。


・・・


美味しい!元の世界ではあまり紅茶を飲んだことが無かったが、そんな俺でも今飲んだ紅茶は素晴らしいものだと分かった。


俺は無言のまま、一緒に用意されたお菓子も食べてみる。見た目はクッキーのような形をしている。これも美味い!甘さ控えめで口に優しい味が広がる。甘いものがあまり得意ではない俺好みのお菓子だ。


「紅茶もお菓子も今まで食べた中で一番うまいよ!」


俺はヴィクターに素直な感想を述べる。正直この世界の料理はマズくはないが、俺の世界ほど味は充実していないと思っていたため、このようなお菓子が食べられるなんて想像もしていなかった。


「そうか、そう言ってもらえると嬉しい!最近メイドから紅茶の美味しい入れ方を教わって練習しているのだが、これがなかなか難しくてね。タケルに喜んで貰えるぐらい上達できてよかったよ。」


ヴィクターは少し照れくさそうに言った。


・・・


その後しばらくは二人でティータイムを楽しんだ。紅茶を飲み終えようかというときに、ヴィクターはティーカップを置くと真剣な表情をこちらに向けた。


「さて、約束通り何でも質問に答えるよ。好きに質問してくれ。」

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