第47話
「どうぞ。」
サーシャは俺に紅茶の入ったティーカップを差し出した。
「ありがとう。」
ソファに座る俺は、サーシャに向かって礼を言った。
俺たちはサーシャの部屋に戻ってきていた。
ヴィクターからもらったタルトケーキを食べるため、俺たちは最後の時間をここで過ごすことにしたからだ。
「……それじゃあ、いただきます!」
お互いにその言葉を言うと、同時にケーキを食べ始めた。
「……美味い!」
信じられないような美味しさに、俺はほっぺたが落ちるような感覚を覚えた。
甘さが控えめなケーキだが、それが新鮮なフルーツ本来の甘みを引き立てていた。さらにケーキの生地とフルーツの食感が合わさり、全てが新しく、今までに感じたことのないような感覚が口の中に広がっていく一品だった。
「~~~~!」
サーシャも言葉にはしないが、同様の感想を持っているのか、ケーキを食べて幸せそうな表情を浮かべていた。
そんなサーシャを見ていると、ケーキがより美味しくなるような気もした。
一人では絶対に得られない、誰かと美味しいものを食べる幸せを俺は実感した。
……
ケーキを食べながら、俺はサーシャに他愛もない話をした。
この世界に来てからのこと、出会った人のこと、強いモンスターを倒すと強くなれるといったことまで、俺は何でも話した。
サーシャは楽しそうに笑いながら俺の話を聞いていた。辛いことも悲しいことも何もないような、そんな笑顔をサーシャはずっと浮かべていた。
「……そういえばさ、一つ気になったことがあったんだけど?」
ケーキを食べ終えた俺は、紅茶を飲みながらサーシャに尋ねた。
「うん、なに?」
「ニールが作ったっていう倉庫があるだろ?あの近くにここに通じているトンネルがあったんだけど、それが何者かによって破壊されていたんだって。誰がやったんだろう?ロズリーヌさんかな?」
俺は首をひねりながら、つぶやくように言った。
状況を考えれば、あの時点の関係者で自由に動けたのはロズリーヌだが、その時のロズリーヌの精神状態で、そこまでの行動ができるのか、正直疑問が残るところであった。
「トンネルの破壊かあ、ロズリーヌの力じゃ、そもそもそこまでのこと……ああ、なるほど!」
俺の話を聞いたサーシャは口に手を当て考え始めたが、すぐに明るい笑顔になった。
「えっ!?誰かわかったのか!?」
「多分ね。そんなことできるの、”あの子”しかいないから。そっかあ、あの子、わざわざ森から来てくれたんだ。」
サーシャは一人嬉しそうに頷きながらつぶやいた。
「……」
「ああ、別に悪い子じゃないよ。森の仲間の一人でね、きっと魔人薬のことに気づいて、それを止めるためにトンネルを通ってここまで来てくれたんじゃないかな?頭の良かった子だし、すぐに状況を把握してトンネルを破壊してくれたんだと思う。」
俺の不安そうな顔を見て察したのか、サーシャは慌てた様子でその真意を説明した。
(まあ、サーシャがここまで言うってことは、本当に悪い奴じゃないんだろう。それに……)
「そんな人が森にいるなら、ここを出ていったみんなもきっと大丈夫だろうな。」
「うん、私もそう思う!”彼”は私に代わって森を守ってくれているの。だから絶対にみんなのことも守ってくれるよ!」
ほっとするように微笑んだ俺に、サーシャも微笑み返しながら、安心したように言った。
何となくだが、二人の間にあった最後の不安が消え去ったような気がした。
……
その後もサーシャとの談笑は続いたが、気が付けば夕方になっていた。
ヴィクターはまだ来ない。きっと俺を信じて待ってくれているからなのだろう。
「……そろそろ行こうか。」
サーシャはゆっくりと立ち上がりながら言った。
「……ああ。」
俺もその言葉に答えると同じく立ち上がった。
「……」
部屋を出た俺たちは、会話もなく神殿を進んでいった。
(この先どうなるのだろうか。俺はサーシャのことを本当に守れるのだろうか。)
そんな不安を抱えながら、俺はサーシャとともに神殿の入り口を目指した。




