第10話
「ん!んんん!」
俺は突然身動きが取れなくなり、パニックになって大声を出そうとした。しかし、何者かの手によって口をふさがれているため、うまく声を出せそうになかった。
ものすごいスピードで路地裏に引っ張られていく。この時俺は悟った。ヴィクターを信じられなかったばっかりに、知らない誰かによって殺されてしまうということを。
「落ち着いて、僕だよ僕!」
路地裏の目立たない隅まで行くと何者かが俺に声をかけた。俺はその声の主が誰だか分かり、抵抗する力を少し弱めた。
「体から手を放すけど、頼むから大声を出さないでくれよ。」
声の主はゆっくりと俺の体から手を離した。解放された途端、俺は思わず尻もちをついてしまったが、痛みを感じるより先にすぐに声の主の方を向いた。
「ヴィクター!」
振り向き声の主の顔を見ると、俺の思った通り、ヴィクターだった。ヴィクターはどこかバツの悪そうな表情を浮かべながら、頬をポリポリと軽く掻いていた。
「ヴィクターだったのか、本当にビックリした。誰かに拉致されるのかと思ったよ。」
驚きと混乱のためかヴィクターに対して敬語を使わずに話してしまった。
「ビックリしたのはこっちの方だよ。突然急に走り出してどこかに行ってしまうのだからね。」
敬語で無くてもヴィクターは気にしていないようだった。しかし、なんだか俺には少しヴィクターが怒っているように感じられ、罪悪感でいっぱいになった。
「本当にゴメン。何だか急に怖くなっちゃって。」
「怖くなったって何が・・・そうか、そうだね、詳しいことをタケルにはまだ説明していないのだから無理もない。」
ヴィクターは申し訳なさそうな表情を浮かべながら言った。しかしその後、思案するような仕草を取ったかと思うと、すぐに笑顔を見せた。
「よし、決めた!本当は今日国王に会ってもらおうと考えていたが、それは後日としよう。その代わり、今日はこの国、この世界の事、タケルが疑問に思っていることに対して、全部答えるよ。」
「本当に!?」
「ああ、本当だよ!しかし、ここでは話せない。誰が聞いているか分からないからね。やはり一度城には来てもらいたいんだ。だけどこれだけは信じてほしい。僕はどんなことがあってもタケルの味方だ!」
ヴィクターはしっかりと俺の目を見て言った。俺は思わず涙がこぼれそうになったが、ぐっと堪えて首を縦に振った。
「うん、今度は何があってもヴィクターを信じるよ。」
俺が答えると、ヴィクターはさっと手を差し出したので、俺はその手を掴んで起き上がった。
「しかし、全力で走ったつもりだったんだけど、ヴィクターは何ですぐに追い付くことができたんだ?」
「ん?ああ。この辺りは僕にとって庭みたいなものだからね。地理に明るくないタケルがどのあたりに行くかなんて簡単に予想がついたのさ。」
ヴィクターは悪戯がうまくいった子どものような笑顔を浮かべながら言った。それを聞いた俺はどっと力が抜けてしまった。
この世界で初めて出会ったのがヴィクターで本当によかったと思った。




