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異世界と魔女  作者: 氷魚
第一部 異世界と勇者 第五章
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第29話

「……ふん。」


ユリウスは先日と変わらず、不機嫌そうな顔をしていた。


襲撃者たちは姿を現したユリウスを守るように、その周りを固めた。


「おい、ユリウス!今はあんたと”襲撃ごっこ”している暇はないんだ!さっさとこの場から消えてくれ!」


焦りと苛立ちから、俺はユリウスに対し、思わず声を荒らげてしまった。


「相変わらず口の減らない子どもだ。……今日は貴様に用があってここに来た。」


ユリウスは冷たい目で俺を睨みながら言った。


「悪いが俺はあんたに用なんてない。……じゃあ、俺は急ぐから。」


俺がその場を立ち去ろうとすると、突然、襲撃者たちが俺に向かって武器を構えた。


「……子どもよ、話はちゃんと聞くものだ。「用があるのはこちらだ」と言っている。」


ユリウスは高圧的な口調で俺に言った。


(……俺を囲んでいる連中、ただ者じゃない気がする。)


俺に武器を向けているにも拘わらず、まったくと言って良いほど殺意が感じられなかった。


それだけではない、意識しなければ、彼ら自身の存在すら感じ取れなくなりそうだ。


恐らくこれが”庭園”と呼ばれる、教会の諜報機関の実動部隊なのだろう。


「……わかった、用件を聞くよ。さっさと話せ。」


俺は諦めてユリウスの話を聞くことにした。庭園と戦うより話を聞いた方が早いと判断したからだ。


「……では聞かせてもらう。貴様はここ数日、聖地に入り浸っているようだが、まさか何も掴んでいないということはあるまい?」


「……なんの話だ?」


俺がユリウスに尋ねると、ユリウスは小さくため息をついた。


「時間がないと言ったのは貴様の方だろう?とぼけるのは止めたらどうだ?……聖地の連中と”魔人薬”の繋がり、貴様は何か知ったはずだ。それについてさっさと話せ。」


ユリウスはそう言いながら、表情をより険悪なものへと変化させた。


(確かに分かったことはあるけど……)


俺はユリウスの言葉に内心動揺しながらも、それを表情に出さないように心掛けた。


「……何の話をしているんだ?魔人薬?それとサーシャたちがどう関わるって言うんだよ?」


そして俺は、何も知らないふりをして、この場をやり過ごすことにした。


「……ふっ、腹芸すらできないのか貴様は。嘘が下手過ぎる。」


ユリウスは俺を嘲るように嫌な笑みを浮かべた。


「何を言われようが、俺の答えは一つだ。何も知らない。」


ユリウスの挑発に乗ることなく、俺は冷静に答えた。


すると、ユリウスは手を口に当て、何かを考え始めた。


そしてすぐに「はあ」と再びため息をつき、俺に向かって右手を向けた。


「乱暴な方法はあまり好きではないのだが……仕方ない、貴様がそういう態度を取るなら、やり方を変えよう……”ライトリング”!」


ユリウスが聞き慣れない単語を口にしたかと思うと、俺の足もとに細長い光が飛んできた。


速すぎて避けられなかった。そしてその光は俺の両足を束縛するような“輪っか”となった。


「なっ!……くっ!」


俺は驚きの声を上げると同時に体勢を崩し、そのまま前に倒れ、顔面を強く地面に打ちつけた。


(……痛っ!なんだ今の?”ライトリング”なんて魔法、聞いたことないぞ!?)


俺は痛みと混乱で頭が真っ白になっていた。


「……無様なものだな、異世界の勇者よ。これで少しは素直に話す気になったか?」


気が付くとユリウスは俺の目の前で屈みこみ、倒れた俺を見下ろしていた。


(……こいつ!俺と同じ光系統の魔法を使うのか!それにもしかして、さっきのは魔法の形を変えたのか?……いや、今はそれどころじゃない!)


俺は心を落ち着かせながら、両足に思いっきり力を込めた。


「やれやれ、この魔法を破壊しようとするか。力だけは勇者としての素質があるみたいだな……おい。」


ユリウスは隣に控えていた庭園の一人に声を掛けると、庭園は懐から注射針のようなものを取り出し、俺に近づいてきた。


(……何をする気だ!?……痛っ!)


俺の首に突然、注射針が刺された。しかも何かを注入されている。


(大丈夫だ……大抵の毒は俺には効かない。さっさとこの輪を……あれ、意識が……?)


急に力が入らなくなっていき、次第に体も痺れてきた。


気がつけば、俺は完全に意識を失っていた。

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